侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜




――ティアナ――


はぁ……。

まったく、フィン兄様は。
朝から疲れちゃったじゃない……。

私がどれだけ貴族とのやり取りを頑張っているのか、知らないんだから。
エミール兄様は次期当主だから、社交にも積極的に参加している。 でも、フィリップ兄様とフィン兄様は……。
魔導具や魔法のことになると、周りが見えなくなるんだから。

私がもっとしっかりしなくちゃ!


アルヴェリア王立魔法学園の高等部に進級して数ヶ月。
初等部の頃から一緒に過ごしてきた友人も多く、学園生活は楽しく充実している。

悩みの種だったフィン兄様が卒業されたから。

……これで少しは落ち着いた学園生活を送れると思っていたのだけれど。


「ティアナお嬢様。学園に遅れてしまいますよ。早くお着替え下さい」

……急いで制服に着替えた。


身支度を終え、私はいつものように侯爵家の馬車で学園へ向かった。

「はぁ……扇子型魔導具様々ね!」


本当にフィン兄様ったら、自分がどれほど凄いことをしているのか自覚がなさすぎるわ。
こんな画期的な扇子型魔導具を開発してしまうのだから。
もう少し自覚を持ってもらわないと、私が大変なんだから!


馬車を走らせること十数分――

アルヴェリア王立魔法学園の正門が見えてきた

「ティアナお嬢様。学園に到着いたしました」

「ありがとう。行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ」


扇子型魔導具を仰ぎながら、教室へ向かう。

外だと、この扇子が魔導具だとは気づかれないのね。
天気もいいから魔導回路が光っていても、確かに分かりづらいわ。そう考えると、より夜会向きね!

ドレスに合わせて、扇子型魔導具をいくつかリリエン商会にお願いしようかしら。販売が始まれば、いくら身内だとしても、優先的に用意してもらうわけにはいかないもの。

フィン兄様に頼めば作ってくれるとは思うけど……。なんだかんだ、忙しそうだし。あの人、魔導具のことになると寝る時間まで削るから、これ以上無理はさせたくないし――


そんなことを考えていたら、教室に着いた。

教室の扉を開けると、熱気がこもっていた。
……暑い。
朝からこんなに暑いなんて、扇子型魔導具がなければ耐えられないわ。

扉を閉めると、手に持っていた扇子型魔導具で、ゆっくりと仰いで涼を取った。


「「おはよう。ティアナ様」」

「おはよう、セレスティア様。アリシア様」

「先程から、涼しい風が来るのはその扇子かしら?」

「えぇ、扇子型魔導具なの。良かったらセレスティア様も使ってみます?」

「ぜひ、試してみたいわ」

「私にも、試させて」

「もちろん!」

そう言って、セレスティア様に扇子型魔導具を手渡した。

「まぁ……!こんなにも涼しいだなんて……!アリシア様も、ぜひ!」

セレスティア様は驚いたように扇子型魔導具を見つめ、アリシア様へ手渡した。

「わぁ!涼しい……」

アリシア様は驚いたように扇子型魔導具を見つめ、何度も風を確かめている。
そんなアリシア様の様子を見ながら、セレスティア様が口を開いた。

「こういった魔導具があるだなんて、私、知りませんでしたわ」

「これは兄の新作なの。私も昨日、貰ったばかりで。まだ試している段階と言ったところかしら」

「そうなの?すぐにでも欲しいわ……」

「大丈夫よ、アリシア様。リリエン商会は仕事が早いから!」

「確かに。いつもリリエン商会には助けられているわ」

「私も欲しくなってしまったわ。リリエン商会に予約をお願いしてみようかしら」

「そうね!まずは予約よね!セレスティア様、今日の放課後リリエン商会にご一緒しませんか?」

「そうしましょう!善は急げと、他の国では言うそうですから」

「あ、それなら冷却魔導具も見てきたらいいと思うわ」

「冷却魔導具?」

「なんですの、その魔導具は?」

二人とも、まるで新しいおもちゃを見つけた子どものように目を輝かせている。

「部屋全体を涼しくしてくれる魔導具です。これも兄の新作なの。それが派生して、扇子型魔導具になったみたい」

「まぁ!部屋全体が?」

「セレスティア様!冷却魔導具も予約しましょう!」

「えぇ、そうね!」

さすが、お兄様の魔導具ね。あっという間に心を掴んでしまったわ。

「ティアナ様も一緒にどうかしら?」

「そうね、私も行こうかしら。そのあと新しく出来たカフェに行かない?」

「あの最近話題になっている可愛らしい外観のところね!私も気になっていたの」

アリシア様が嬉しそうに賛同してくれた。

「私もまだ行ったことがないから、行ってみたいわ。紅茶も美味しいらしいけれど、ケーキが絶品だと聞いて、食べてみたかったのよね」

セレスティア様も乗り気になってくださった。

こうして放課後は、リリエン商会へ寄ったあと、三人でカフェへ向かうことになった。

「それにしても二人は行動派よね。予約を自分で取りに行くなんて」

「むしろ、自分で予約を取る方が早いわ!だって、扇子型魔導具の情報なんて、まだ学園でも一部の人しか知らない情報だもの!」

「そうね。扇子型魔導具を持っているのは、まだ私とお母様とフィリップ兄様、フィン兄様にアレク叔父様くらいかしら」

「そうなると、やっぱりアリシア様の提案は最適ですわ。今すぐにでも、予約をお願いしたいくらい素敵な魔導具ですもの」

そういえば、扇子本体はどんなのがあるのかしら。好みのものがあれば私も予約しようかな――



「あの! 私たちもその魔導具が気になっているのですが……私たちも放課後、ご一緒させてくださいませんか?」

私たちの周りにいた令嬢たちが、遠慮がちに声をかけてきた。
どうやら、扇子型魔導具の話が聞こえていたらしい。

「そうね。みんなで行きましょうか。その方がリリエン商会の方も予約対応がしやすいんじゃないかしら。アリシア様、ティアナ様。それでいいかしら」

「えぇ!もちろん」

「私もそれがいいと思うわ。それに最初の反応もアレク叔父様は気になるでしょうから」

「では、放課後に決まりですわね」

こうして、放課後はみんなでリリエン商会へ向かうことになった。

……フィン兄様にこの状況を伝えたら、きっとまた「えぇ……」と困った顔をするのでしょうね。