侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「やっぱりここも暑い……」

作業部屋を出ると、廊下には眩しい陽射しが差し込んでいた。

「…廊下にもエアコンが必要かもしれないな」



食堂に着くと、すでに母さんが席に着いていた。

「フィン、あなたまた朝食も取らずに作業部屋にこもっていたそうね」

「あぁ…まぁ…はい。」

「魔導具作りに夢中になるのは、あなたらしいと思うわ。でも、食事はきちんと取らなくてはいけません」

母さんは困ったように微笑む。

「以前のように寝食を忘れて没頭することは減りましたけれど……また痩せてしまうのではないかと心配なのよ」

母さんの言う通り、寝食を忘れて没頭していた時期があった。
学園を卒業し、魔導具師見習いから正式な魔導具師になった頃の話だ。

今思えば、少し浮かれていたのかもしれない。
いや……調子に乗っていたと言った方が正しいか。

若気の至りだったな……。

いわゆる黒歴史だ。




「…分かったよ。食事は気をつける」

そう答えながらも、頭の片隅では、エアコンの冷却の仕組みを魔導回路でどう再現するか考えていた。


食堂の中も変わらず暑いと言うのに、母さんは涼しげな表情で優雅に昼食を食べてる。
流石は侯爵夫人だ。

それに比べて俺はシャツのボタンを二つも開けてる。
今、領地にいるマナーに厳しいばぁちゃんに見られたら、間違いなく怒られるだろう。


「今はどんな魔導具を作っているの?」

「涼しく過ごせるようにするための魔導具だよ。送風機の魔導回路を応用できると思うんだ。まだ試作段階だけど、上手くいけばかなり快適になるはず」

「まぁ……今ある送風機よりも涼しくなるの?」

「うん。今よりもっと快適になるはずだよ。作り始めたばかりだけど、夏が終わる前には完成させたいと思ってる」


「そうなのね。あなたが作る魔導具なら、きっと素敵なものになると思うわ。でも、無理はしないでね」

「分かってるって。ちゃんと昼食も食べてるだろ?」

「朝食を抜いた人が言うことではありません」

母さんは普段おっとりしてるけど、意外とツッコミが鋭い。


「それより、今月じぃちゃんはこっちの屋敷に来るの?」

「こちらの屋敷には来ないみたいだけれど、リリエン商会に商品の確認に行かれるそうよ」

それなら、試作の魔導具を持って俺もリリエン商会に行くのがいいか。
じぃちゃんにも意見を聞きたいし、アレク叔父さんなら魔導具としての価値も見てくれるだろう。


「お義母様も一緒に王都へ来られるそうなの。ティアナのデビュタントの準備を手伝ってくださるみたいよ。もう少し礼儀作法を見ていただいて、ローゼン侯爵家の娘に相応しい振る舞いを身につけてもらわなくてはいけないからね」

そうか。もうティアナもデビュタントをする年齢になったのか。いつも偉そうにしているから、すっかり忘れていた。


それより、ばぁちゃんが来るのか……。
それまでに作業部屋を少し片付けなくては。

「フィン、あなたもお義母様に心配をかけないように、少しは身だしなみを整えておいてね」

「分かってる」

母さんは優しく笑っているけれど、言っていることはばぁちゃんと同じくらい厳しい。家にいる時くらい楽な格好でいいだろうに―――

……いや、ちゃんとしよう。
母さんの目が笑ってない。




昼食を終え、俺は作業部屋に戻ってきた。


人が見れば、魔導具や設計図が乱雑に置かれているように見えるんだろうな……。
片付けは……まだいいか。

机の上には、昨日までとは違う形になりつつある魔導具が置かれている。
残る工程は、魔導回路と制御用の魔法陣の組み込みだ。
ここからが、この魔導具の本当の勝負になる。

「さて……続きを始めるか」

そう思ったところで――


コンコン。

「フィン様。お茶をお持ちしました」

扉の向こうにいるのは、俺付きの侍従、ノア・フェルナーだ。
幼い頃から俺の側にいる、気心の知れた相手でもある。

「入ってくれ」