侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



食堂に着いてからも、俺はフィリップ兄さんの言葉を何度も思い返していた。

まさか、こんな簡単なことに気付かなかったなんて……。
薄型鉄板を一枚増やすだけなら、大きさも重さもほとんど変わらない。
操作盤を大きくすることばかり考えていた。
でも、必要なのは外側を変えることじゃない。 内部の構造を変えればいいだけだったんだ。

魔導具師として、この発想力の差は悔しい。



「フィンはどうしたの?」

母さんは俺とフィリップ兄さんを交互に見た。

「さっきまで悩んでいたことが、あっさり解決したから落ち込んでるんだよ。フィンは昔から、一つのことに集中すると周りが見えなくなるからな」

そう言ってフィリップ兄さんが笑った。

「そうね。フィンらしいわ」

..... 母さんまで。

そんなに分かりやすいのだろうか。

「そんなに落ち込んでないで、ちゃんと食べなさい。どうせこの後はフィリップと作業部屋に、こもるのでしょう?」

「私は冷却機能の魔導具を早く作りたい。私の部屋には置いていないみたいだから」

「それは、あなたが全然帰ってこないからでしょう」

フィリップ兄さんは何も言い返せず、視線を逸らした。

「俺も操作盤の改良をしたいから、今夜は作業部屋にこもるかな」

「ほどほどにね」

「フィリップ兄様とフィン兄様は、本当に似てるわね」

「どこが?」

俺が聞くと――

「魔導具と魔法の違いはあるけれど、夢中になると時間を忘れるところ。二人とも、少しは休むことを覚えた方がいいと思うわ」

「……」

フィリップ兄さんと俺は何も言い返せなかった。

「ティアナの言う通りね」

確かに、フィリップ兄さんと俺は似ているのかもしれない。

そう思っていると、ふと気付いた。

「そういえば、今日は父さん帰りが遅いんだね」

「えぇ。夕食は一緒に取れないって連絡があったって、さっき話したでしょう?」

「.....そうだったっけ?」

「ほら。やっぱり聞いてなかったじゃない」

ティアナが呆れたようにため息をついた。

「聞いてたはずなんだけど、頭に入ってなかった」

「だから言ったでしょう?フィン兄様は魔導具のことになると周りが見えなくなるって」

「……そうだな」

反論できないのが悔しいが、ティアナの言う通りだった。
その後も他愛のない話をしながら、賑やかな食事の時間は過ぎていった。


「じゃあ、私は先に作業部屋へ戻るよ」

「分かった。俺はお茶を飲んでから行く」

そう言って、フィリップ兄さんは一足先に作業部屋へ向かった。

母さんとティアナ、それに俺は、そのまま食後のお茶を楽しんでいた。

「ところで、フィン兄様。私の扇子型魔導具はいつ出来るの? お母様の扇子型魔導具がとても素敵で、私、とっても楽しみにしているの」

「あ......忘れてた」

操作盤の改良のことで、頭がいっぱいになっていた。

「ノア。作業部屋の机の上にティアナの扇子型魔導具があるから、持ってきて」

「かしこまりました」

「えっ、私のも出来てたの?!」

「うん。夕食の時に渡そうと思ってたんだけど、操作盤の改良のことばかり考えてたら、持ってくるのを忘れてた」


そんな話をしていると、ノアが水色の扇子型魔導具を持ってきてくれた。

「はい、これがティアナの」

「ありがとう!フィン兄様!」

ティアナは嬉しそうに扇子型魔導具を受け取り、早速、軽く仰いでみせた。

「わぁ!お母様の薄紫色も綺麗だったけど、水色もとっても綺麗!魔導回路が淡く光って、本当に素敵ね!」

「そうね。水色の扇子型魔導具、ティアナにとても似合っているわ」

「えぇ!一番お気に入りの扇子を選んで良かったわ!大切にするね、フィン兄様!」

喜んでもらえて良かった。

「明日から学園に持っていくわ!これで授業にも集中出来そう!」

ティアナは水色の扇子型魔導具を開き、何度も仰いでいた。

「じゃあ、俺もそろそろ作業部屋へ戻るよ」

お茶を飲み干し、食堂を後にした。


次こそは、操作盤にタイマー機能を組み込んでみせる。