侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



あれから色々試してみたが、結局、操作盤本体を一回り大きくするのが最適解だった。
分かってはいたけど、他の可能性も試したくなるのは魔導具師の性ってやつだ……たぶん。

一応、タイマー機能付きの仕様書だけでも書いて、アレク叔父さんに相談してみるか。

はぁ……。なんか疲れたな。
一旦、休憩するか。


ノアにお茶を入れてもらい、ぼぉーっとしていると――

「フィン!あの涼しい魔導具を私にも作ってくれ!」

勢い良く扉が開かれたと思ったら、フィリップ兄さんが部屋に入ってきた。

「フィリップ兄さん、おかえり。久しぶりだね。ていうか、まだ仕事中じゃないの?」

「あぁ、久しぶりだな!仕事は終わらせて来ているから大丈夫だ。むしろ、休みをきちんと取れと副師団長に言われていたのでな」

「そうなんだ。フィリップ兄さんが帰ってきたってことは、ばぁちゃんも明日には来るってこと?」

「いや、お祖母様が来られるのはまだ先だ」

良かった。まだ作業部屋を片付けてなかったからな。

「それよりもだ!今日、書類を騎士団長室に届けに行ったら、部屋が涼しくて驚いたんだ!父上に聞けば、フィンが作った魔導具だと」

そういえば、まだフィリップ兄さんの分作ってなかったな。

「それにこの部屋も涼しいな!」

「仕様書あるから、それ見て自分で作ったら?今日は屋敷に泊まるんでしょう?」

フィリップ兄さんも昔、じいちゃんに魔導具の作り方を教わっていた。でも、途中から魔法に夢中になったから、魔導具作りの腕は俺には及ばない。それでも、一通りの魔導具なら作れる。

「そうだな。どんな造りなのかも気になるし、作ってみるか。その前に、ノア、私の分もお茶を頼む」

「かしこまりました」

ノアはすでに用意していたフィリップ兄さんの分のお茶を、何事もなかったかのようにテーブルへ置いた。

「やはりノアは気が利くね」

「フィリップ兄さんの性格が分かりやすいからでしょう。話したい事を話終えると、いつもお茶を飲んでるじゃん」

「言われてみれば、そうだな」

「まぁ、ノアが気が利くのは確かだけど」

ノアは昔からこうだ。言われてから動くんじゃなくて、一歩先を読 んで動く。だから俺も、つい頼りきってしまう。俺にとってはもう一人の兄さんみたいな存在だ。

フィリップ兄さんはお茶を一口飲むと、満足そうに息をついた。

「そういえば、騎士団長室へ行ったら、騎士達が何人か、涼んでいた。あれは売るつもりなのだろう?」

「うん、一応。昨日アレク叔父さんに仕様書と魔導具を届けたところ。今年の夏は今までにないくらい暑くなりそうだから、すぐに造り始めるんじゃないかな?」

「だろうな。騎士達が羨ましそうに父さんと話していたからな」

リリエン商会なら量産はできるだろう。でも、夏本番まであと少しだ。
……アレク叔父さん、大丈夫かな。ブラック企業並みに忙しくなりそうだ。

「さて、休憩は終わりだ!フィン、早速作ろう」

「え、俺も?」

「私は自分用に作るから、フィンは師団長の執務室用に作ってくれ」

あぁ、そういうことか。フィリップ兄さんは自分の部屋と師団長の執務室を行き来することが多いからな。
……まぁ、一番の理由は、自分の部屋に魔導師たちが押しかけてこないようにするためだろう。


二人で作業部屋へ移り、俺は仕様書をフィリップ兄さんに見せた。

「なるほど。送風機を応用しているのか。……これなら魔核が小型でも足りると。魔導回路も相変わらず綺麗だな」

「でも、そこは結構苦労したんだ。何度も魔導回路修正ペンで描き直したし、思ったより時間がかかった」

そう言って、俺は作業部屋に設置している魔道具をテーブルの上に置いた。

「あぁ、確かに魔導回路がかなり細く描かれているな。……だが、そのおかげだろう。魔力の流れに無駄がなく、冷却効率が高い」

フィリップ兄さんは仕様書と魔導具を見比べながら、感心したように何度も頷いた。

「この魔導回路なら、無駄な魔力消費も少ないな。長時間使うことも考えて設計してあるのか」

「うん。夏場は何時間も使うだろうし、魔核の交換回数はできるだけ減らしたかったから。あと、これ。遠隔操作できるように操作盤も作ったんだ」

そう言って、操作盤をフィリップ兄さんに手渡した。フィリップ兄さんは操作盤を手に取り、仕様書と見比べながら、つまみを回した り、魔導回路をじっくり眺めたりしていた。

「あ、これも見て欲しいんだけど……」

「ん?これは……時間になると止まる機能か?」

「それもできると思う。でも、どっちかって言うと、時間になると動き出す機能だね。常に冷却の魔導具をつけっぱなしにするより、 部屋を使わない時は切っておくことの方が多いと思うんだ。この作業部屋みたいにね。だから、寝る前に切っておいて、朝、作業部屋へ来る少し前に自動で動き出せば、魔核の消費ももっと抑えられると思うんだ」

「なるほどな。確かにそれは便利だ」

「ただ、その機能を付けるには遠隔操作盤を一回り大きくするのが一番なんだけど……。そこが少し引っかかってるんだよね」

「この間に挟んである薄型鉄板を、もう一枚挟むだけじゃ駄目なのか?」

「――え?」

そうか。

操作盤そのものを大きくすることばかり考えていたけど、内部を一層増やせばいいのか。

「……その発想はなかった」



コンコン――

「フィリップ様、フィン様。夕食のお時間です」