侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



昼食の時間になり、俺は完成したばかりの扇子型魔導具を手に、食堂へ向かった。

食堂の扉を開けて中へ入ると、母さんが待っていてくれた。
一緒に昼食を済ませ、食後のお茶を飲みながら、持ってきていた薄紫色の扇子型魔導具を母さんに渡した。

「はい、これ。試してみて。すぐ調整もできるから」

「もう出来たのね!ありがとう」

母さんは扇子型魔道具を開いたり閉じたりした後、ゆっくりと仰いでみせた。

「……涼しい。とっても気に入ったわ。それに、魔導回路が淡い青色に光って見えるのが素敵ね。薄紫色の扇子を選んで良かったわ」

「気に入ってくれたみたいで良かった。魔導回路の光は邪魔になるかなって思って、光を遮る素材でも付けようか迷ったんだよね。でも、そうすると重くなるし」

「そうなの?でも、この淡い光はなくさなくて良かったわ。それに、普段使いだけじゃなくて、夜会に持って行くのにも良いと思うの。装飾が沢山施された扇子より、こちらの方が注目を集められそうだわ」

「夜会用の扇子として作ったわけじゃないけど、いいの?」

「えぇ。ここまで綺麗な扇子型魔導具なら、引けを取らないわ」

「え、そうなの?いつも夜会に出席するときの母さんのドレスって、すごく華やかだから……この扇子型魔導具だと合わない気がするけど」

「だから良いのよ」

「え?」

「華やかな装飾品はたくさんあるもの。でも、魔導回路が淡く光る扇子なんて、今まで見たことがないでしょう?」

「まぁ、話題には上がりそうだよね」

「いいえ」

母さんは扇子を見つめながら、ゆっくり首を振った。

「話題に上がるどころか、同じものを欲しがる人はきっと出てくるでしょうね」

「そうなんだ」

そうなると、アレク叔父さん、忙しくなるだろうなぁ……。その時は差し入れでもしよう。


「……フィン。あなたはもう少し流行に敏感になりなさい。そんなことでは、将来素敵な人と出会えないわよ?」

「俺、別に結婚する気ないんだけど」

「はぁ。またそんなことを言って……」

「いや、俺より兄さんたちでしょう。あの二人も結婚どころか、恋愛の話すら聞いたことない」

二人とも顔はかっこいいと思うし、何しろ侯爵家だ。なのに、浮いた話を聞かない。

「エミールは次期侯爵という立場もあるから、慎重になっているのでしょうね。フィリップは……魔導師団に入り浸っているから、出会いそのものが少ないのでしょう」

「フィリップ兄さんはどちらかと言うと社交的だし、魔導師団に女性もいるから、彼女の一人くらいいそうなのにね。まぁ、それ以上に魔法が好き過ぎるのが問題なんだけど……」

「そういうことよ。……あなたも人のことは言えないと思うけれど?」

「俺は魔導具作りで忙しいから」

「本当に、フィンらしいわね」

母さんは小さくため息をつきながらも、優しく笑った。

「でも、夢中になれるものがあるのは良いことだと思うわ」

「うん。魔導具を作ってる時間が一番楽しい」

「それなら、せめて体調管理だけはしっかりしてちょうだいね」

また釘を刺されてしまった。

「分かってる。じゃあ、俺はそろそろ作業部屋に戻るよ」

そう言って、俺は再び作業部屋へ向かった。



「さて、次は何を作ろうかな――」

あ、タイマーみたいなものを作ろうと思っていたのを忘れていた。
魔導時計を元にすれば、作れそうだし試してみるか。


とりあえず、本体をどうするかだな。
砂時計を改良するか……いや、数分程度なら使えるけど、数時間単位になると厳しい。
そうなると、一番簡単なのは魔導時計にタイマー機能を追加することだけど……。
そもそも、俺が欲しいのは冷却魔導具を自動で操作するための機能だ。

操作盤に魔導時計の回路を組み込んで、光属性と無属性魔法を組み合わせれば――
……あぁ、無理だ。
操作盤に収まらない。

魔導回路を限界まで詰めれば収まるかもしれないけど……使っていくうちに回路同士が接触する可能性がある。
それじゃあ安全性に問題が出る。便利にするための魔導具で、事故が起きたら意味がない。

……無理に詰め込むより、操作盤本体を一回り大きく作り直すのが一番簡単か――



コンコン――
扉を叩く音で、思考が途切れた。


「フィン様。ただいま戻りました。アレクシス様へ仕様書と魔導具をお届けしてまいりました」

「ありがとう」

とりあえず、タイマーについてはもう少し考えようかな……。