――アレクシス――
商会長室で書類に目を通していると、扉が叩かれた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、ローゼン家の侍従であるノアだった。
「アレクシス様、フィン様よりお預かりしております魔導具と仕様書をお届けに参りました」
「おぉ!ノアか。早速魔導具を届けてくれたんだな」
受け取った魔導具と仕様書に目を通す。
「ん? 魔導具と仕様書が二つずつ……」
手渡されたものを見て、すぐに思い当たる。
「あぁ!昨日フィンが手に持っていた扇子型の魔導具か!」
仕様書と扇子を交互に眺める。
昨日の時点では試作品だと言っていたはずだが、もう形にしたのか。
「これももう完成したのか。相変わらず仕事が早いな」
思わず笑みがこぼれる。
「はい。確かにお届けいたしました。それでは、私はこれで失礼いたします」
「あぁ、ありがとう。助かったよ」
ノアは一礼し、商会長室から出ていった。
さて、まずは昨日馬車で体験した冷気を出す魔導具だな。
「これはまだ正式な名称が決まっていないのか」
次に来た時にでも、フィンに決めてもらうとしよう。
……なるほど。遠隔で操作が可能なのか。
だから操作用の……この操作盤を使えば、部屋の中からならどこでも使えると……。
すごく便利だな!
つまみ部分で調整も可能……と。
魔核も小型のものでいいのか。これなら製造コストを抑えられるし、量産する場合でも問題なさそうだ。
冷却機能は魔法陣で対応しているのか。送風機より少し複雑ではあるが、これも値段を抑えられるだろう。
貴族向けに華やかな装飾、庶民向けにはシンプルにすれば、価格を分けやすいな。
「ひとまず、この部屋で試してみるか」
仕様書に書いてある通りに壁際に設置し、操作盤でスイッチを押した。
「おぉ…!涼しい」
会長室の広さくらいだと、一、二分で部屋全体が涼しくなるのか。販売する際には、その辺りも確認しておこう。
それにしても快適だな。今年の夏は特に暑くなりそうだ。こんな時期に、フィンが良いものを作ってくれたことに感謝しなければな。
……そうなると、優先的に職人へ製作を依頼し、この夏の販売に間に合わせる必要があるな。
夏が本格的に始まる前に取り掛かれそうで良かった。
高位貴族向けに販売を始めれば、多少数が少なくても順番に売っていけばいい。貴族たちの間で噂が広まれば、欲しがる者も増えるだ ろう。
これほど便利なものなら、まずは陛下にも使っていただくべきだろう。そうなると……陛下の執務室、王妃様のお部屋、王太子殿下のお部屋、第二王子殿下のお部屋、王女殿下のお部屋の五台は必要だな。
王家へお贈りする五台とは別に、商会側でも数台は確保しておく必要があるな。
さて、次は気になっていた扇子型魔導具だな。
これも送風機を元にしているのか。なるほど。骨組みの魔導回路は、なんとも綺麗だな。
昼間では分かりづらいが、骨組みに描かれた魔導回路は、ほんのり青く光って見える。夜になれば、その美しさはさらに際立つだろう。実用性だけでなく、装飾品としても価値がある。夜会で使う者が増えれば、貴族女性の間で流行るだろうな。
扇子本体を買い付け、リリエン商会の職人に造らせるか、あるいは扇子を作っている小物職人と共同にするか……。
今回は扇子職人との共同制作が良さそうだな。冷却魔導具の方も急いで準備する必要がある。
扇子型魔導具も陛下や王妃様、王太子殿下、第二王子殿下、王女殿下の分を用意して、一緒に贈るべきだな。
王族の方々に使っていただければ、これ以上ない評判になる。
まずは職人たちへの指示を出さなければならないな。
冷却魔導具の量産体制、扇子職人との話し合い、それから王城への献上準備。
やることは山積みだ。
それにしても……。
フィンは一体、どれほどのものを生み出すつもりなのだろうな。
小さい頃から魔導具に関する才能はあった。
それでも、まだ成人して間もないというのに、これほど画期的な魔導具を生み出している。
叔父として、そして商人として、これからもあの才能を支えていかなければならないな。
