侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「こちらの空き店舗です」

次に紹介してもらった物件は、以前は繁盛していた飲み屋で、少し年季が感じられるが、赤レンガ造りであたたか味のある店舗だ。

「けっこう大きいな」

「そうですね。この辺りだと一番大きい店舗になります。では、中へどうぞ」

「おぉ!中に入るとより広さを感じますね」

「時折、演奏家を呼んだりされていて、とても盛り上がっていましたよ」

「ハンスさんは以前、こちらが営業されている時に来たことが?」

「えぇ。妻や友人とよく通っていました。店を仕舞われてしまって残念でしたが、新しい店がまたここで始まるのかなと思うと、嬉しくありますね」

そんな素敵だった店のあとに……プレッシャーだな……。

「あっ、調理場も広い」

「前の店主が料理好きで、調理場を拡張していましたね」

この広さなら、魔導具化したものも余裕で置けそうだな。

「二階も広いので、個室にすることもできますし、もちろんご自身でお使いいただけます」

「フィン、二階を工房として使うのもいいんじゃないかと思ってね。候補にこの空き店舗を入れたんだ」

……工房か。

「では、二階に参りましょう」

一階の奥に階段があって、そこから二階へ上がった。


「一階ほどではありませんが、広いお部屋が二つございます。こちらの奥の部屋にはバスルームも完備されていますので、私室としてお使いいただけます」

「……広っ!」

「もう一部屋も広さがありますので、リビングダイニングなどにもお使いいただけます」

「フィン、こちらの部屋を工房にするのはどうかな?広さも十分にあるし、私室と分けて使えるのもいいと思うんだ」

「……でも、もうあんなに大きな魔導具を作ること、めったにないと思うんだけど」

アレク叔父さんとハンスさんに苦笑いされて、内見を終えた。

「一度持ち帰り、検討させていただきます」

「もちろんです。大切なお店になるでしょうから、ゆっくりご検討ください」

ハンスさんと別れ、俺とアレク叔父さんはリリエン商会の商会長室で今後について話をすることにした。


「二件、見たけどどうだった?それとも他の候補も見てみるかい?」

「んー……どっちもあたたか味があっていい感じだった。ただ、思ってたより両方広かった」

「あの辺は飲食店が少ないから、あれくらいの広さでも客は来ると思うよ。従業員も当初の予定より2〜3人増やしたほうがいいかもしれないけどね」

「だよね」

「それに、場所が貴族街寄りだから、一席に使うスペースを広く取るのもありだと思うよ」

「確かに」

ある程度、隣の席との距離があるほうが、夜の時間帯はとくにいいかもな。
それに、けっこう一目惚れしてる感じなんだよなぁ。

「それで、これがあの二件の購入価格だ。一応聞いておくけど、予算内に収まりそうかい?今後、別の物件を見るなら参考にしたいのだが」

「うん、これなら大丈夫。あっ、でも改装費とかもかかってくるよね。そうなると、ちょっと心配かも……」

「その辺は大丈夫だと思うよ? 夏に販売を始めた清涼《ブリーズ》や扇涼《ヴェント》は売れ行きがとてもいいし、艶髪《グロウ》や華髪《ブルーム》も順調に売れている。今後は旋髭《ローテム》や鼻整《トリーム》、リバーシやカードゲームの販売も控えているし、洗衣《ウォルム》や浄衣《ヴェルム》もいずれ販売するのだから、これからも十分な収入が見込めるよ」

「そっか」

「現時点で清涼《ブリーズ》は五十台以上売れているし、扇涼《ヴェント》も安いものから高いものまで人気がある。贈り物にされる方も多いしね」

清涼《ブリーズ》は確か、一台3500ヴェリだったはずだ。それが五十台以上か……。

そういえば、扇涼《ヴェント》は元になる扇子の素材やデザインによって、価格にかなり差があったはず。
確か、安いものなら500ヴェリくらいで、高いものだと1500ヴェリくらいだったか……? 日本円にすると五万から十五万円か。扇子だと思うと高いな……。まぁ、魔導具だし。それに前世の扇子の値段がどれくらいだったか知らないけど。

「今回もフィンには売上の三割が入る契約だからね。これだけ売れていれば、今後の改装費も十分にまかなえると思うよ」

「なら、あの物件に決めようかなぁ」