侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「こんにちは」

「あっ、フィン様。今日からでしたか!」

「はい。忙しい時にすみませんが、隅の方をお借りしますね」

「いえいえ、あの一角が空いてますので、そちらをお使いください」

「ありがとうございます」

洗濯機の魔導具化のために、今日は昼からリリエン工房に来た。隅の方でいいと伝えていたのに、思ってたより広めにスペースを開けてくれているな。……ありがたい。

さて、洗濯槽だな。
青銀鋼に魔力を纏わせて形成していく。外装より、一回り小さいくらいでいいよな。……こんなもんか?

……いや、もう少し小さい方が良さそうだな。
これじゃあ、回転時に外装と接触する。

もう一度やり直して……よし、大きさはこれでいいだろう。
次はそこに軸を差し込むための部分を作る。……軸を差し込んで確認。うん、これでいい。

次は……やっと魔導回路だな。……この大きな洗濯槽に魔導回路だよなぁ。これなら描写ペンの先は太めがいいか。持ってきておいて良かった。

……洗濯槽の曲面に、太めのペン先だと描きづらいんだな。初めて知った。まぁ、細かいより全然マシだけど。
とにかく、魔導回路が曲がらないようにゆっくりと描いていく。

…………。

やっと三本描けた。
……まだ先は長いな。

九本目を描き終えたとこで、声をかけられた。

「フィン様。そろそろ休憩時間になりますが、一緒にお茶でもどうですか?」

「……そうですね。せっかくなのでいただきます」

やっぱりリリエン工房――アレク叔父さんはしっかりしてるんだな。ちゃんと休憩時間を設けてる。
俺は一人だから、キリがいいところまでいかないと、休憩するのを忘れることが多いからなぁ……。

「……美味い。あの店のお茶に似てる……」

「もしかして、食堂《オールド・ハース》ですか?」

「そうです。あの店、知ってるんですか?」

「えぇ。この辺りで働いてる者は、あの店の常連が多いですよ」

「そうなんですね。俺も小さい頃から、リリエン商会の帰りによく行ってて、ちょうど昨日も食べに行きました」

「あの店は何を食べても美味いですよね!それに食後に出してくれるお茶も美味い。それを再現できないかと、調合したのがこのお茶なんですよ。まだまだですがね」

「いや、すごく似ててびっくりしましたよ!昔、店主に茶葉を聞いたら秘密だと言われていたので、余計に!」

「この配合で良ければ教えましょうか?」

「えっ?!いいんですか?」

「かまいませんよ」

「じゃあ、お願いします」

まさかこんなところで、あの店のお茶に近い茶葉の配合を教えてもらえるとは……。

「はい、これが三種類の茶葉と配合量です」

メモを受け取った。

……なるほど。この香ばしさは、この二つの茶葉のものだったのか。……あと一つは飲んだことがないかも。一度、それぞれを飲んでみるのも楽しそうだな。
帰りにでも茶葉を買って帰ろう。

休憩を終え、また魔導回路に取り掛かった。魔力を流しながら微調整し、描いていく。

…………。

……終わったー!

あれからどれくらい経ったのか、洗濯槽の魔導回路を描き終えた。
洗濯槽自体が大きくて、魔導回路も細かくなかったから、魔導回路同士が接触しそうになることもなく、スムーズにできた。
やっぱり細かいものを作るより楽しいな。

えっと、次は――



【side:アレクシス】


「こんにちは」

「いらっしゃいませ、リリエン伯爵様。本日はどのようなご用件でしょう?」

「貴族街寄りに食事処を作ろうと思っていまして、空いている物件の紹介をお願いしたいのですが」

「承知しました。確認いたしますので少々お待ちください」

近くの椅子に腰を下ろした。

商業ギルドも忙しそうだな。
避暑から戻ってくる者が多くなるからだろうが。うちも今年は年末まで忙しいだろうから、気合いを入れないとな。

「お待たせしました。こちらが現在空いている物件です」

「……なるほど」

空き家が四件、空き店舗が六件か……。場所はどれも丁度よさそうなところみたいだな。
だが……空き店舗が六件か。あの辺は商売に向いていないわけではないと思うが……。

「空き店舗が六件もあるのはなにか理由が?」

「そちらは元々賃貸物件で、賃料が値上がりしたことと、店主がご高齢だったこともあり、店を畳まれました。他の空き店舗も、所有者が貸し出しをやめて売却することにした物件です」

時期が重なっただけなら、候補が多くなったのはむしろ好都合だな。
……隣同士の空き家もあるのか。思い切って改装するのもいいかもしれないな。
いや、この空き店舗も良さそうだ。二階も広く使えるから、フィンの工房にも出来るんじゃないか?

まぁ、一度見に行ってみて、良さそうだったらまたフィンを連れて見にいこう。