リリエン商会から帰宅後、俺は作業部屋へ向かった。
夕食までまだ時間がある。作れるところまで作ってしまおう。
まずは約束したアレク叔父さん用の魔導具を作ることにする。
基本構造はすでに完成しているため、制作にはそれほど時間はかからなかった。
とはいえ、アレク叔父さんに渡すものだ。細かな調整だけは手を抜かず、使いやすさを意識して仕上げていく。
――よし、完成だ
あとは……この汚い字の仕様書を、人に渡せるレベルに書き直すか――
……まぁ、こんなもんか。
「ノア、いるか?」
「はい、こちらに」
作業部屋を出てノアを呼んだ。
「これ、読める?」
仕様書の字は、アレク叔父さんなら読めるだろう。
でも、実際に使うのは商会の職人たちだ。彼らが理解できなければ意味がない。
ノアが読めるなら、問題ないはずだ。
「読めません。……回路図は綺麗だと思いますが」
書き直す……。
よし、これなら――
「……読めますが、相変わらず独特な字ですね」
よかった。ノアが読めるなら、商会の職人たちにも伝わるはずだ。
「明日の午後にでも、この仕様書と冷却の魔導具をアレク叔父さんに届けて欲しいんだけど」
「かしこまりました」
「よろしく」
……そろそろ夕食の時間だな。
少し早いが食堂に行くか。
食堂でお茶を飲みながら待っていると、父さん、母さん、ティアナが揃った。
今日のメニューは、夏の暑さで食欲が落ちている時にはありがたい、さっぱりとした料理だった。
やっぱり暑い時期には、こういう料理がいいな。
そんなことを考えながら食べていると――
「フィン、エミールに渡しておいたぞ。訓練が終わるなり、急いで寮に戻っていった。まぁ、気持ちは分かる。私も今日一日、執務室で使っていたが、とても快適で仕事が捗った」
「そうなんだ。よかったね」
「案の定、書類を届けに来た部下たちが、戻りたがらなくてな。今頃、エミールの寮の部屋に集まっているだろう。ははは!」
「寒すぎたりはしなかった?」
「あぁ、ちょうどいい! 執務室にこもりきりというわけではないから、あれくらいの涼しさがあると助かる」
ということは、騎士には二割程度出力を抑えたものが合っている。 文官なら、母さんやティアナと同じ三割程度抑えるくらいがちょう ど良さそうだな。
「……あ、フィリップ兄さんにも作ってあげた方がいいのかな?」
「どうだろうな。フィリップなら、もう魔法で部屋を冷やしている気もするが……。まぁ、それでも常に魔力を使うよりは、魔導具を渡してやった方がいいだろうな」
一応、フィリップ兄さんの分も作っておくか。
「フィリップ兄さん、次いつ帰ってくるか聞いてる?」
「お義母様がいらっしゃる時に、一度帰って来るように伝えているわ」
あぁ……ばぁちゃんが来るの忘れるところだった。
「じゃあ、それまでに作っておいてあげようかな……あ、そうだ。こんなのも作ってみたんだけど――」
俺は胸の内ポケットから扇子型の冷却魔導具を取り出した。
「母さんやティアナにちょうどいいんじゃないかと思って」
「扇子?魔導具っぽくなってるけど、どう使うの?」
ティアナが受け取り、開いたり閉じたりして確認している。
「一度、仰いでみて」
「――!なにこれ!すごく涼しい!お母様も試してみて」
「まぁ……!扇子から冷気が出ているのね」
「うん。今日出かける時に暑いのが嫌で、試しに作ってみたんだ。扇子なら持ち歩くことも多いだろうと思って」
母さんは驚いた様子で扇子を見つめ、ティアナも興味深そうにその様子を眺めている。
二人の反応を見る限り、気に入ってくれたようだ。
「二人にどうかなと思って。気に入っている扇子に冷却機能を組み込むこともできるよ」
「フィン兄様!私、絶対に欲しい!部屋は快適になったけど、学園にいる間や、行き帰りの馬車の中が暑くて……」
「私も作ってもらえるなら、嬉しいわ」
「じゃあ、冷却機能を組み込む扇子を選んだら、俺のところに持ってきて」
この勢いだと、食事が終わったらすぐに扇子を選んで持ってきそうだな。
アレク叔父さんに渡す魔導具も、仕様書作りも終わっている。なら、明日は早速二人の分を作ってあげた方がよさそうだ。
