「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

 名前を呼ばれて心臓がどどどって早鐘を打つ。振り返ると僕のすぐ真後ろに峰雪先輩がイヤフォンを外しながら立っていた。
 長身でこれほど目立つ先輩の気配を、今の今まで気づけなかったぼんやりした自分にびっくりだ。

「入らないの?」
「え、あ、ああ……」

 もっかい振り返ったら、びっくりして扉に向かって後ずさりしたせいで、自動ドアが開いてしまってた。

「先、どうぞ」
(まだ注文する心の準備がああ!)

 メモ書き途中のスマホを握りしめたまま、内心で焦りながらも、すぐ後ろを付いて来る峰雪先輩の邪魔にならないようにカチコチに緊張しながら歩き出した。
 混んでいたら時間稼ぎができたのに、こんな時に限って、誰も待っている客がいない。注文カウンターまでスムーズに進めた。早速、笑顔が爽やかなお姉さんの前に立つ破目になった。

「こんにちは。ご注文はお決まりですか?」
「あ……、えっと……」
(メモ、メモ見ないと……)

 やや慌てながら、スマホのメモを顔の前に持ってこようとしてはっとした。結構ぴったり後ろに峰雪先輩の気配を感じる。

(あああ、メモ見ながら注文するの、見られたら恥ずかしい、でも仕方ない)

 正面は綺麗なお姉さんのニコニコしながら待ってる圧、振り振り返ったら「なに?」みたいな顔で峰雪先輩がじっとこっちを見つめてにこっとした。
 昨日は薄暗い中で出会って、先輩が部活にちょこっと顔を出してくれた後も、みんなに色々聞かれて恥ずかしくて顔をよく見られなかった。
 だからこんな明るい場所で先輩に顔面のポテンシャルが遺憾なく発揮されて、間近で見つめられると、本当にヤバイ。

(この人、顔整いすぎてて、ちょっと怖い。ドキドキする……)

 綺麗な切れ長の二重の目、通った鼻筋、形のいい唇。
 端正過ぎる顔立ちと大人びた雰囲気に、余計緊張してしまう。注文内容を映したままの、スマホを持つ手がぶるぶる震える。

(前も後ろもキラキラした人たちに挟まれて注文とか、まじで無理です……、先に注文してもらおうかな……)
「どうかした?」
「あの……、ええと……、あの、先輩、先に注文……」

 こういう時、僕ってすぐに言葉が出ないんだ。峰雪先輩に何て理由をつけて先に注文して貰えばいいんだろ。まだ決まってないからっていえばいいのかな。いや先決めなよって言われたらどうしよ、あわわわ。
 カチコチに身体が固まったまま、頭の中でぐるぐる正解を探してたら、峰雪先輩が僕の両肩を抱いて、くるっとお姉さんの方に向き直らせた。

「え……」

 そのまま今度はカウンターと長い腕とで僕を囲い込んで、バッグハグするみたいな態勢になってしまった。

(どどどど、どういう状況?)

 カウンターの向こうでは、お姉さんが一層輝く笑顔で先輩を見上げてる。峰雪先輩はメニュー表に視線を落とすために少しかがんだ。
 ふわっとすごくいい香りが漂って来た。ああ、これ好きな香りかも。これってなんて言う名前の香りなんだろ。そう気が逸れていたら、俺の顔のほんのすぐ横に、峰雪先輩の顔が近づいた。

「澪って、いつも何頼んでるの?」
「え、あ……」
(初めてきました。すみません、すみません。気の利いた答え返せません)

 僕にとって気まずい沈黙の時間が流れる。すると先輩の長い指がメニュー表を指差した。

「注文いいですか? カフェモカフローズンクリームをトールサイズで、生クリーム増量。チョコもかけて貰ってもいいですか?」
「え……」

 それはまさに僕がメモしてた通りの注文だ。首を巡らせて腕の中から峰雪先輩を見上げたら、少しはにかんで笑ってた。

「内緒な?」
(峰雪先輩も甘いものが大好きなんだ。なんか可愛い! だからクッキーすぐ食べてくれたんだ)

 急に遠い存在だった峰雪先輩が身近に感じた。

「澪君はなに頼む?」
「あう、え、ええ!!」

 今言うしかない。なんとか伝えないと。峰雪先輩の指差したカフェモカフローズンを、僕も同じように指差したら、勢い余って峰雪先輩の指に触れてしまった。

「ぼ、僕も全部、同じの……で」

 蚊の鳴くような声を絞り出したら、峰雪先輩が僕の手を上からぐっと握ってきた。