頭の中はパニックでしかなく、ちらっと振り返ると、後ろから悠々と歩いて来る。まるですごく綺麗で立派で尊い肉食獣を引き連れて歩いてる気分になった。
「あれ、澪君、なんで峰雪なんて連れてんの?」
「部長うううう」
部長に言われて、この人の名前が『峰雪』先輩であると初めて知った。
頼りになる部長の登場に、僕は思わず駆け寄ってしがみ付きたい気分になったけど、後ろから付いて来てる峰雪先輩が俺の腕をがっと掴んだままで、阻まれてしまった。
「俺、さっきからこの子と付き合ってる。名前は……」
(先輩も俺の名前知らない、そりゃそうだよね……)
「なにいってんの? 頭沸いた? 誰があんたみたいな彼女とっかえひっかえの奴に、うちの可愛い澪君をあげられますか!」
「とっかえ、ひっかえ……」
振り返ったら、先輩は全然悪びれもせずににこにこしてる。逆に怖い。
このちょっと遊んでそうにみえる見た目、思った通りのキャラすぎてやっぱり僕は揶揄われているんだって確信した。
「じゃ、僕は部活に戻ります!」
「へえ? 澪君って言うんだ。顔と一緒で可愛い名前だね」
言いながらがしっと胸の辺りに太くて硬い腕を回されて、ひょろい僕には脱出不可能になってしまった。
「マジでどういうこと?」
「あー。指定校推薦の学内選考通ったから顧問に報告に来たら、この子に『好きです、付き合ってください』って告られた、感じ?」
「あははは、峰雪それさああ」
「ああああああ。先輩! ストップ、ストップ!」
(言わないでええええ!)
僕如きモブ一年が、キラキラ一軍先輩を勘違いさせたなんて知れたら、怖すぎます! しかもバスケ部の先輩ってことは、大塚君も巻き込むことになったら、まずいです。
(後で「なに勘違いしてたの? 冗談真に受けんなよ」ってどうせすぐにフラれます。それに先輩たちあと半年しか高校来ないし、穏便に済ませましょう!)
ぷるぷる首を振ったら、「ま?」っといって部長は僕と峰雪先輩の顔を交互に見た。
「……まあ、なんか。面白いからオッケー」
(軽い!)
「じゃあ、スマホ出して」
「ひゃい!」
結果、僕らは通話アプリで繋がりました……。写真投稿アプリの気軽なDMとはわけが違います。がっつり最初から会話する気満々の奴です……。なに話せばいいの……。
「峰雪! もう一回確認、あんた、いま彼女いないよね?」
「……いないよ」
「なに、その間! 1年のクラスの時、あんたを取り合って、女子がギスギスギスギス、一年間血で血を洗う抗争を繰り広げたこと、私は忘れてないよ」
「だから、いないって」
峰雪先輩はそっけなく答えてスマホの画面を弄ってた。その佇まいだけでもなんか格好いい。背が高い。頭が小さい。腰の位置が俺の胸?って思う程高い。立ってるだけでメロついてる! 見るからにモテそう。
(怖すぎるううう。なんでこんな人が、僕なんて構う気になったんでしょう?)
部長は口元に手を当ててぶつぶつ言い始めた。
「なるべく、返信は早めに返すように努力するから、これからよろしく、澪」
「あああ、はい。僕も頑張ります。返信とか、ちょっと苦手で遅くなるかもだけど」
「正直だな。実は俺もそう。じゃあ、あんまり気にしないでお互いのペースで行こう」
先輩が僕のところに来て、ぷくっと頬を摘まんでった。
「よろしくね」
僕らを腕組みして眺めてた部長が、なんかこっち見てぶつぶつ言ってる。
「大塚君もまあ、色々詰めが甘いし……、澪君には年上の色々慣れてる奴のが合ってるかもだし……、よろしい。澪君をお前に任せた!」
「はい」
「はわわ……」
震えるよお、どうしよう。僕今まで誰とも付き合った事とかないんだから。どうしたらいいんだろ。
「なにその笑い方、面白……、可愛いね」
(笑ってません……、びっくりして声出ちゃったんです……)
そんなこんなで僕は、何故だか凄いイケメンの先輩とお付き合いすることになってしまいました。



