それから1週間が経って、また木曜日が来た。
今日は調理部で文化祭に出すクッキーの試作品を作ったから、ついでに大塚君に差し入れする予定だ。
僕は挑戦に向けて、クッキーを焼いている間も冷ましている間も、調理室で『好きです、付き合ってください』の練習を一生懸命してた。
「『好きです、付き合ってください』」
「私たちも澪君大好きー」
「澪君可愛いー」
「誰のものにもならないで~」
「大塚、フラれろー」
何言ってるか分からないけど、みんな口々に合いの手を入れてくるから、集中できなくてそのたびに噛んでしまった。
「もー。みんなが色々言うから、段々噛む回数増えてきちゃったよ」
そう文句を言ったらみんな僕を見てケラケラ明るく笑ってた。
「澪君、クッキー冷めたし。そろそろいいんじゃない? 時間」
校庭はすっかり日が暮れてる。秋は日が落ちるのが早いって本当だ。
「じゃ、行ってきます!」
「応援してるよ~!」
みんなの声援を受け、部屋を出ていこうとしたら、部長がしゅたっと素早く手を挙げた。
「私、ついてってあげようか?」
「流石にそれには及びません」
こちらもストップ、の形に手を挙げた。
流石に過保護すぎるよ。僕が一年生だからって……。でも同級生もみんな弟扱いしてくるのはなんでだ。僕だって身長はみんなより高いんだけどなあ……。
窓から出入りは出来ないので、廊下に出て、体育館に向かう外通路を歩いていった。校舎の方を見たら、みんなが窓に張り付くようにしてこっちに手を振ってる。
「チャレンジ成功させるんだよ! 一言ずつ、ゆっくり確実に10回言えば行けるよ!」
「がんばる!」
ぐっとガッツポーズをとる。見てるのは部員だけだし、僕はでかめの声で『好きです、付き合ってください』を諳んじながら体育館に向かって歩いて行った。
体育館の扉は開いている。中から明かりが漏れていて、バスケットボールのボールが響く音がしていた。
(練習中だよなあ。一区切りつくまで待ってようかなあ)
練習が終わるまで付き合うとまだ一時間近く残らないといけないかもしれない。出入り口の手前、鉄の扉に背中を預けた。秋風に乗って、金木犀の香りがする。外は心地よく涼しい。
「好きです、付き合ってください」
口の中で繰り返し呟く。だいぶ上手になってきた気がする。
(口の中で小さく言う分にはいいんだけどなあ。僕って舌が短いのかな? いまいち滑舌良くないかも……)
どうせボールを突いたり走る音で、体育館の中には聞こえないだろうし、誰もいないから練習してしまおう。すうっと息を吸う。
「好きです、付き合ってください!」
会心の滑舌で言った瞬間、僕の前を大きな人影がよぎった。
その人がゆっくり振り返って僕を見下ろす。体育館から漏れた明かりに照らされた顔は、驚いたような表情だった。僕は反射的にぱっとネクタイを見る。
(三年生……)
青のネクタイは三年生。僕ら一年生は赤。さあっと血の気が引いて来た。
見上げるほど凄く背が高い。引退したバスケ部の先輩なんだろうか。
(なんて言い訳すればいい? 悪ふざけしてるって怒られる?)
手にしていた紙袋から甘いクッキーの匂いがほわほわ漂って、緊張感が全くない。これもまた気まずい。脚が震えそう。
たっぷりの間が開いた後で、その先輩が僕に合わせるように屈んで、低い声でゆっくりと呟いた。
「いいよ、よろしくね」
そう言って大きな掌に優しく頭を撫でられた。
今日は調理部で文化祭に出すクッキーの試作品を作ったから、ついでに大塚君に差し入れする予定だ。
僕は挑戦に向けて、クッキーを焼いている間も冷ましている間も、調理室で『好きです、付き合ってください』の練習を一生懸命してた。
「『好きです、付き合ってください』」
「私たちも澪君大好きー」
「澪君可愛いー」
「誰のものにもならないで~」
「大塚、フラれろー」
何言ってるか分からないけど、みんな口々に合いの手を入れてくるから、集中できなくてそのたびに噛んでしまった。
「もー。みんなが色々言うから、段々噛む回数増えてきちゃったよ」
そう文句を言ったらみんな僕を見てケラケラ明るく笑ってた。
「澪君、クッキー冷めたし。そろそろいいんじゃない? 時間」
校庭はすっかり日が暮れてる。秋は日が落ちるのが早いって本当だ。
「じゃ、行ってきます!」
「応援してるよ~!」
みんなの声援を受け、部屋を出ていこうとしたら、部長がしゅたっと素早く手を挙げた。
「私、ついてってあげようか?」
「流石にそれには及びません」
こちらもストップ、の形に手を挙げた。
流石に過保護すぎるよ。僕が一年生だからって……。でも同級生もみんな弟扱いしてくるのはなんでだ。僕だって身長はみんなより高いんだけどなあ……。
窓から出入りは出来ないので、廊下に出て、体育館に向かう外通路を歩いていった。校舎の方を見たら、みんなが窓に張り付くようにしてこっちに手を振ってる。
「チャレンジ成功させるんだよ! 一言ずつ、ゆっくり確実に10回言えば行けるよ!」
「がんばる!」
ぐっとガッツポーズをとる。見てるのは部員だけだし、僕はでかめの声で『好きです、付き合ってください』を諳んじながら体育館に向かって歩いて行った。
体育館の扉は開いている。中から明かりが漏れていて、バスケットボールのボールが響く音がしていた。
(練習中だよなあ。一区切りつくまで待ってようかなあ)
練習が終わるまで付き合うとまだ一時間近く残らないといけないかもしれない。出入り口の手前、鉄の扉に背中を預けた。秋風に乗って、金木犀の香りがする。外は心地よく涼しい。
「好きです、付き合ってください」
口の中で繰り返し呟く。だいぶ上手になってきた気がする。
(口の中で小さく言う分にはいいんだけどなあ。僕って舌が短いのかな? いまいち滑舌良くないかも……)
どうせボールを突いたり走る音で、体育館の中には聞こえないだろうし、誰もいないから練習してしまおう。すうっと息を吸う。
「好きです、付き合ってください!」
会心の滑舌で言った瞬間、僕の前を大きな人影がよぎった。
その人がゆっくり振り返って僕を見下ろす。体育館から漏れた明かりに照らされた顔は、驚いたような表情だった。僕は反射的にぱっとネクタイを見る。
(三年生……)
青のネクタイは三年生。僕ら一年生は赤。さあっと血の気が引いて来た。
見上げるほど凄く背が高い。引退したバスケ部の先輩なんだろうか。
(なんて言い訳すればいい? 悪ふざけしてるって怒られる?)
手にしていた紙袋から甘いクッキーの匂いがほわほわ漂って、緊張感が全くない。これもまた気まずい。脚が震えそう。
たっぷりの間が開いた後で、その先輩が僕に合わせるように屈んで、低い声でゆっくりと呟いた。
「いいよ、よろしくね」
そう言って大きな掌に優しく頭を撫でられた。



