「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

 とぼとぼとぼ、また肩を落として歩いていた。渡り廊下を通って、調理室に向かうかと思ったら、先輩は僕の手をとって廊下を逆に進んで空き教室に入った。
 暗い教室の中、電気もつけない。扉を閉める間もなく、先輩が腕の中に僕を引き寄せた。僕は項垂れて先輩の胸に頭をつける。

「ごめんな……、俺がもっと早く体育館についてたら、澪に嫌な思いさせなかったのに」

 頭を撫ぜて、背中をとんとんてされる。先輩の優しい仕草に涙腺が決壊してしまった……。

「大塚君も、バスケ部も、みんな酷いよ!」
「澪、泣いてる? 哀しいよな」
「違います。ムカついてます!」
 だからこれは多分、悔し涙なのかも。先輩は一瞬僕の背中をさする手を止めて、めっちゃ頭の上で笑ってた。 
「あはは。お前、意外とはっきりしてるよな」
「だって、動画に撮るとか、意味分からないじゃないですか!」
「……あいつらみんな、大塚に嫉妬してたんだよ。あいつだけ勝手に部活飛び出して、お前に美味しいお菓子貰ってて。澪はなんにも悪くない。あいつらがバカなだけ。でも大塚は……、多分本当に澪にお礼したかったんだと思う。不器用だから、あんな風にしかできなかったと思う……、知らんけど」
「知らんのですか……」

 なんか決めつけないで言うのが先輩らしいって思ったら、ちょっとおかしくなって、でも今度は、大塚君達の事なんてより、もっと大事でもっと胸が苦しくなることにじんって涙腺が刺激された。

(先輩は僕の告白は本物じゃないって分かってたんだ……。きっと勝負の事と、動画をとろうとしてること知ってて、僕を庇ったってこと……)

 だったら僕は先輩の恋人でいられる資格はない。
 あーあ。折角仲良くなれたのに。折角先輩のこと、好きになれたのになあ。
 気がついたけど、こんなはじまり方をしちゃったから、もう無理だ……。

(僕から言わなきゃ。庇ってくれて、ありがとうございますって。それで少しの間だけでも付き合ってくれて、楽しかったって……、言わなきゃ)

 先輩の背中に伸ばして、一回だけぎゅってさせてもらった。

(優しい先輩。ありがとう。大好き)
「依弦先輩。あのね、あの告白は……」
「澪」
 名前を呼ばれて遮られた。顔を上げてもここは大分薄暗くて、先輩の表情がはっきりはよくわからない。先輩が僕の頬を両手で包んできた。

「『好きです、付き合ってください』」
「え……?」
「ああ、十回噛まずに言えなきゃダメかな? 『好きです、付き合ってください』『好きです、付き合ってください』『好きです……』」
「ま、待って! それ、チャレンジ? 先輩が噛まずに十回言えたら、僕が今度はビュッフェ奢ればいいの?」
「奢ってくれなくていいよ。でもまた一緒に行きたい。だから……」
「「好きです、付き合ってください」」

 今度は二人で同時に言えた。

「僕も、先輩のこと、好きになっちゃった」
「俺もとっくに、澪のこと好きだよ」

 廊下でパタパタ走ってる音がしてる。誰かこっちに来るかもって思って、抱き合ったまま顔を見合わせた。

「戻らないと……」
「もうちょっと、このままじゃ、ダメか?」

 ぎゅうって抱きしめて貰いながらそんな風に囁かれたら、頷くしかない。

「駄目じゃない、です」

『好きです、付き合ってください』
 ここからはじまる恋があっても、いいよね?