「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

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 翌週、月曜日も火曜日も、僕は大塚君に無視されてた。
 火曜日の放課後、調理部でそのことを同じクラスの女子部員から、他の部員にばらされたから、みんながぷりぷり怒り始めて始まる前にみんなを宥めるのが大変だった。
『大塚は澪君の好意に胡坐をかいてたのが許せない』っていうのがみんなの意見らしい。
 それとね……。今日は受験用の小論文の添削を先生にしてもらった後、依弦先輩がここにくるからなんかみんなそわそわしてる。
 僕は知らなかったけど、依弦先輩は女子の間ではイケメンなバスケ部員ってことで、ファンが試合を見に行くほど有名だったんだって。
 今日は火曜日、調理部はしょっぱいものを作る日。
 今日のメニューはパラパラのジャスミンライスに、エスニックな香りとココナッツの風味が食欲をそそるグリーンカレーだ。僕が家から持ってきたタッパーにグリーンカレーとご飯を盛っていたら部長に声をかけられた。

「あれ、峰雪、ここに食べに来るんじゃなかったの?」
「先輩はここに来ますけど……。大塚君にもカレー持って行ってあげようかなって。仲直りしたくて……」

 クラスメイトの女子がここぞとばかりに大塚君の悪口を言い出した。

「はあ? 澪君、あんなやつ放っておきなって、いじけてるだけなんだから。バスケ部の休憩ごとに抜けてここにくるのだって、ムカつくって言ってる男子結構いるんだよ? あいつバスケ美味いからって俺様な行動が多いから、そっから反感買ってんの」
「そうだったんだ……」

「これを機に抜けてくるの止めさせて、澪君は彼ピにだけ、作ってあげればいいでしょ?」
(きっとこの子が大塚君に僕が依弦先輩と付き合ったって話したんだ……)

「でも……、勝負する約束破ったの僕だし。ずっとギクシャクしてるのも嫌だから。美味しモノ食べたらきっと機嫌直ると思うんだ」
「そんな可愛い顔でニコニコして……。あいつが余計に諦められなくなるじゃん」
「諦める?」

 ぽんってクラスの女子に後ろから肩を叩かれた。

「まあ、いいんじゃん。届けてくれば? 彼氏来る前に早く戻ってきなよ」
「彼氏……、なのかな。依弦先輩、勘違いしてるだけなんだけどな……」

 ほうって溜息出ちゃった。依弦先輩は優しい。日曜日も一緒に僕の最寄り駅まで送ってくれて帰ってきて、ばいばいって別れて、夜も朝もメッセージくれて、本当に付き合ってるのかもって思っちゃうけどさ……。

「なにそれ、聞き捨てならん」
「お姉さんたちに話してごらん!」
「うーん」

 『好きです、付き合ってください』を誤解されてから、カフェで先輩が優しくしてくれたこと、日曜日にビュッフェにいって、少し先輩のことを知ることができたこと。先輩とは気が合いそうで、できればこれからも仲良くして欲しいこと。
 僕はみんなに聞かれるままにぽつりぽつり喋ったら、みんなの顔がどんどんニヤニヤしてきた。

「これは……、惚気?」
「峰雪先輩って、三年生のバスケ部の先輩じゃん。試合わざわざ応援に行く子も沢山いる爆イケイケメン」
「さすが我らの最推しアイドル澪君。この胸キュンキラースマイルで学校一の大物落としてる」
「落としてるとか、そういうんじゃなくて、多分揶揄われて……」

 タッパーを紙袋に入れて手から下げて、みんなが大騒ぎしている調理室を出ていこうとしたら、エプロン姿の先輩が僕の前に立ちふさがった。

「揶揄うぐらいでわざわざデートまでする? あいつってそんなに暇? 受験生なのに?」
「……それは」

 ぐう、そう言われるとそうかも。折角先輩が時間を僕に割いてくれてるのを、あまりにも軽視し過ぎだ。

「でもまあさー。勘違いで始まったんなら続けるかどうかは、澪君がどう思ってるかが、大事じゃない? お付き会い止めたいなら振ればいいだろうし」
「振る?! 僕如きが三年生の、一軍イケメンを?!」
「如きって……、澪君。後ろ後ろ」
「?」

 振り向いたら、他の部員がみんな集まってて、キラキラした目で僕の事を見つめてた。

「澪君のこと、みんな大好きだよ。買い出しも率先して行ってくれて、意外に力持ちだし」
「男子で一人だけの調理部員ってクラスで弄られた時も『僕、料理好きだし、みんな優しくていい子たちだから楽しいよ。調理部おいでよ』って毅然としてたし」
「たまに作りたいもので意見がぶつかっても、辛抱強く話を聞いて、みんなの意見纏めてくれるし」
「いつかは部長になって貰いたいと思ってるもん」
「だから、私たちの絶対的推しは先輩じゃないよ。澪君!」
「みんな……、ありがとう」

 なんかみんな優しくて、いい子ばかりで、やっぱり僕は調理部が大好きだ。

「だから前からさ、大塚が澪君が作ったお菓子、雑に食べるのムカついてたんだよね」
「感想もおざなりだし」
「切れ、あんな友達いらん」
「……でも、友達だから。あれで、いいところあるんだよ。じゃ、行って来るね」

 僕はみんなに窓から見送られながら、休憩中であろうバスケ部に向かった。出入り口から覗く前に、窓の前に一年生の部員が溜まって、大塚君が水筒のお茶を煽っているところが見えた。