「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

「あ……」

 言うか言わないか迷ったけど、先輩といるのが楽しくないわけじゃないから……。

「うーうん。ちょっと、学校で友達と喧嘩みたいになったの、思い出しちゃって……。来週は機嫌直してもらえるといいなって……」
「澪みたいに穏やかな子が喧嘩になるなんて、よっぽど相手が悪いことした?」

 先輩まで、調理部のみんなと同じ。僕に甘いみたい。
 肘をついて指を組んで、顔つきがちょっと険しくなった。

「えええ、あ……。うー、僕がやったことが気に入らないみたいで、向こうが怒ってるんですけど、でも理由がちょっと分からなくて……。多分約束破ったから、かな? それについては謝ったんですけど……」
「そうなんだ。じゃあ、もし困ったら、俺に頼って」
「ええええええええ、それには及びません! 多分そのうち、機嫌がよくなると思います。そういう奴なんです。わりと気分屋だし、俺様なところがあって……」
「それなのに友達なの? 澪、そいつのこと好きなの?」

 なんか先輩が妙に突っ込んでくるから、さすがに食事を続けてる場合じゃなくて、たじろいでしまう。

「好き……、まあ、好きですけど」

 僕が箸をおいたタイミングで、先輩が手を伸ばしてきて僕の手をとった。こないだもそうだけど、先輩の距離の詰め方速攻だと思う。
 びっくりして手を見つめてたら柔らかく握った後で、するっと指を絡めてこられた。
 どきどき、手先に神経集中したみたいにめっちゃ気になる。何で手を握って来るんだ?

「ねえ、澪」
「は、はい……」

 ぎゅっと手を握られた感覚。先輩が僕の目をじっと見つめて来た。

「そいつと、俺。どっちのが好き?」
「ええ? ああああ……」

 どどどど、どういう質問なのでしょうか? 意図が読めないよ。
 友達として、大塚君の事は好きですけど、でもだからって、どっちがより好きとか……、先輩と僕は会ったばかりで……。

(でもこんな堪らない気持ちになるのは……)

 先輩は中々返事しない僕に痺れを切らしたのか「はー」って長いため息をついて、片手で軽く自分の顔を覆った。

(『恋人』失格?)
「ごご、ごめんなさい!」
「違う、澪が悪いわけじゃない。俺が情けないだけ。澪の気持ちを試すようなこと聞いて、なんか格好悪い」

 そう言った先輩の耳、ちょっと赤くなってる気がするのは……、気のせいだよね?

「先輩は、格好悪くないです! むしろ格好いいです。その……でもあの」

 僕は先輩が握ってくる手を、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ緩く握り返した。顔が熱い、見つめてくる先輩から目を離したいのに、目が離せない。

「こういうことされると、なんか、ドキドキするから、……話せなくなるんで、手を放してもらえません?」

 そしたら先輩が急に機嫌良さげに頬を緩めて、すごく綺麗な顔で微笑んだ。

「そう言われたら、離したくないなあ」
「な、なんで」

 情けない声を上げたら、先輩は増々笑顔になる。ちょっと意地悪だ。

「澪が大きな目で恥ずかしがりながらこっち見るの、凄く可愛い。もっとそういう顔させたくなる」
「ええ? 先輩なに言ってるんですかっ!」
「その友達には、そんな顔見せるの禁止ね」
「そんな顔? どんな顔?」

 自分が今どんな顔しているのか気になって、先輩に握られてない方の手で頬を擦ったら、先輩も手を伸ばしてきて俺の頬に手を添えた。

「俺がこんなに構いたくなるの、澪だけだ」
 幸せそうに笑われたから……。僕はやっぱり、告白は勘違いですよって、言えなかった。