「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

 いつも通りの駅前の道なのに、なんだか全てが変わって見える。
 お付き合いをしたことがないので、これが普通なのかわかりません。緊張しすぎて絶対に手に汗をかいてると思うと、気が気じゃないです。
 するって指の間に指が入ってきて、喉の当たりで「ひぃ」って言っちゃった。僕の声に気がついたのか、先輩が振り返って、ちょっと速度を落として歩いてくれた。

「あのさ、澪って今まで誰かと付き合ったことある?」
「なななな、ないですないです。あるわけないです」

 それどころか告白だってしたこともなければされたこともない。なのになぜかイケメンと手をつないで歩いてる。人生摩訶不思議……。

「そっか。じゃあ、俺が澪の初カレか」
「初、カレ……」

 響きのインパクトが大きすぎて、魂ぬけてお空に帰りそう……。

「大事にしないとな。ちゃんと返信返すし、なんか悩み合ったら聞くし、行きたいとこ連れてくし。今日みたいに、澪の全部の初めて、俺が応援するから。まずはそうだな……、明後日の日曜日どっかいく?」
「あ……、あの」

 僕が立ち止まったから、お互いの腕が伸びて、ぴーんって飛びだした犬のリードみたいに張ってしまった。

「どうして……、先輩俺と付き合ってもいいって思ったんですか?」
 先輩はちょっと困った表情で、頭の後ろに手をやった。
「あー、まあ。何となく」
「何となく……」
「怒った?」
「うーうん。別に」
(むしろほっとした……)

 衝動的に何となく、とかなら、お互い振っても振られてもあんまり困らなさそう。

「逆にそっちは、なんで俺に告ったの?」
「……」

 ちょっと探るような声で、綺麗な目がすっと細められる。僕は反応に困ってきゅって唇を噤んだ。

(嘘はつきたくない……、でも本当のことを言ったらもう先輩と会えなくなる……)

 そう思ってしまって、ちょっと心臓がとくって強く波打った気がした。まるで僕が先輩と会いたくて仕方なくて、このまま勘違いしてもらいたいなってそう思ってるみたいじゃん。

「まあ、いっか」
(いいんだ……)
「じゃあ、日曜日デートしよ。どこ行きたいかだけ教えて?」

 先輩は拍子抜けするほどあっさり引き下がった。
 きっとそのうち、この告白の誤解が解けて、先輩とはこれっきりになっちゃうだろうな。

(先輩とどこかに出かけられるの、これが最後になっちゃうかもしれない)

 そう思ったら、僕にしては珍しく、お腹の底から勇気が湧いて来た。

「美味しいビュッフェに、行きたいです!」