「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

「え……」
「人生の中で食事の時間をどんなに寄せ合わせたって、寝てる時間やお仕事してる時間の長さには敵わないでしょう? だから、僕はとっても大事にしたい。先輩と今、美味しいものを楽しく味わいたい」
「それ、いいね。賛成」
(先輩が賛成してくれた……)

 先輩の表情が明るくなって、またストローに口を付けた。僕も真似して飲んでみながら、僕は先輩の言葉に、ちょっと感動して胸がじんわり温かくなった。 
 先輩は確かにクールな雰囲気と端正な顔立ちで、黙っていると近寄りがたいぐらい、格好いいから女子はそういうのが好きかもしれない。

(でも僕はこうして笑ってる顔が幸せそうで素敵だなあって思うよ)

 先輩がストローから口を放して「美味しいな」って微笑んだ。冷たくて甘い飲み物、僕にとっても好みの味わいだ。

「これ本当に美味しいですね。もっと早く来ればよかった」
「じゃあまた一緒に来よっか?」
「本当ですか!」
「うん。ここ注文の仕方、裏技とかあるらしいよ」
「えーそうなんですか! また一緒に来たい!」

 なんて言っちゃってから……、受験で忙しい先輩が俺にそんな構っていられるはずないよなあって思って、冷たく甘い飲み物をくっと喉に流した。

(そもそも、僕と先輩って……、どういう関係なんだろ、これ。友達みたいに普通にお誘いしちゃってもいいのかな)

 ちらっと見た先輩は、こっち見てまた微笑んでた。

「……澪と話すとなんか癒される。調理部の女子がみんなお前に夢中だって部長が言ってたけど、分かる気がするな」

 思いがけない評価を受けて、びっくりして、恐縮して、なんか申し訳なくなって……。

「あの……、でもね。僕はマイペースすぎて、部のみんなも、家族にも、クラスの友達にも……。たまに呆れられてます。周りに合わせなさすぎって。なんかぼんやりしちゃう時も多くて……」

 でも仕方ないんだ。直せない。僕はせかせかするのも、周りの誰かが争っているのを見るのも、自分も争いに参加するのも苦手。自分の世界を乱されたくない。平和なのが好き。
 ただ美味しいものを食べて、のんびりして……。でもたまにね、それってあんまり人に関心がないみたいに思われることがある。気を付けたいとは思ってるけどね。

「自分のペースを護れる人は、人の機嫌に流されないで、ちゃんと立っていられる人だろ。澪はそのままでいいと思う」
「……先輩」
(それって僕が大事にしてる、僕の中の世界の事も、大事にしていいって言ってもらったみたい)

 じーんって、また胸の奥があたたかくなる。
 それで今、僕は。これまで経験したことがない気持ちにちょっと困ってた。
 食べ物より、飲み物より、目の前の人が気になってしまうだなんて……。

(先輩のこと、知りたいな。色々聞いてもいいのかな)

 僕が迷っているうちに、胸がちょっときゅうってなって、切なすぎるその感覚に戸惑った。

「先輩……、あのね」
「ん?」

 聞き返してくれる声があんまり優しくて泣きそうな気分になる。

「僕、ここに一人で来て注文するの、苦手だなって先送りし続けてて今日になっちゃって……。今日ももしかしたら、先輩が声をかけてくれなかったら、あのまま帰っちゃってたかも。だから今、本当に嬉しいです。一人じゃ注文とか無理だったと思います。一緒に居てくれて、ありがとうございます」

 僕にしては、長文で、自分の気持ちを頑張って伝えられたと思う。ちょっと語尾ふるえちゃったけど。でも先輩は呆れたりしない。静かに聞いて頷いてくれた。

「俺がいなくても、ちゃんと注文できたと思うよ。スマホにメモ通りで完璧だった」

 悪戯っぽく笑われて、僕は「あー!」って少し大きな声を出して先輩に「しー」って窘められた。

「ごめんなさい……、先輩。あの時僕のスマホの画面見てたんだ!」

 先輩は少しだけ肩を揺らしてまた笑った。目が細まると柔らかい雰囲気だ。

(先輩こそ、癒しの雰囲気があるよ)

 僕は傍にいて、沢山笑ってくれる人っていいなって思う。

「昨日も思ったんだけど、澪って無防備すぎだよね? 考え事していると周りが見えなくなるだろ?」
「あ……」
「ぼんやりしてて、危ないなあ」
「う……」
「でもまあ、俺が隣にいる時は、好きにぼんやりしてるといいよ。ちゃんと手を繋いで見はっとくから」
「え、あ……」

 僕が心臓をバクバクさせている間に、先輩は飲み終わった食器を手早く片づけて戻って来た。顔が整ってて身長がある先輩はこっちに歩いて来るだけでも凄く目立つ。

(ああ、聞きそびれた、何で先輩僕と付き合おうと思ったんだろ……)
「澪」
 名前を呼ばれてすっごい大きな掌を差し出してくる。戸惑ってたら、手を掴まれてくっと引っ張られた。
「帰ろっか」