「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

「俺が、運ぶからあっち、澪は席座ってて」
「ありがとうございます」

 きょろきょろって席を見渡して、空いていた二人掛けの窓側の席に先輩が来る方向を向いて座った。
 お店の中に一人では怖いなって思ってたけど全然そんなことなくて、適度に波音みたいなざわめきのある店内も居心地が良くてリラックスできる。
 5分ぐらいして、先輩が飲み物だけじゃなく、お盆の上にスィーツを載せて持ってこっちにやって来た。

(先輩ってすっごい甘いもの好きなんだなあ)

 クールなイケメンなのに、甘いものが好きなんてなんか親しみやすく感じていいな。
 彼氏というのはピンとこないけど、僕も甘いものが好きだから仲良くなりたいなあって思った。

「わあああ、すごい! 生クリームとチョコシロップ、沢山かかってる!」 

 キラキラ輝いて見えるスィーツみたいなドリンクから目が離せないでいると、先輩がトレー飲み物とスィーツの位置を僕からとりやすいように整えてくれた。

「これ、こないだのクッキーのお礼。今食べてもいいし、持って帰ってもいいよ。飲み物も甘いだろうから」
「え……、ありがとうございます。いただきます」

 先輩が選んでくれたのは個包装されていたレモン風味の甘酸っぱいパウンドケーキで、僕はありがたくその場でいただくことにした。爽やかなレモンの香り、チョコ系の飲み物とはまた違った美味しさだった。 
 先輩は甘いドリンクをクールな顔して飲んでいる。いかにもブラックコーヒーが似合いそうな見た目なのに、なんだかちぐはぐで不思議な感じ。
 じっと見てたら「なに?」って静かな声で聞かれた。

「甘いもの好きなんですね」
「変かな? 『そんな甘いもの飲むの? 似合わない。格好悪い』とか、言われたことがある」
(今までの彼女さんたちに言われてきたのかなあ)

 何に対してか分からないけど、胸がちょっとちくんってなった。
 甘いものが好きな先輩だって、充分優しいし、格好いい。
 誰かの好きなものを、わざわざ否定しなくてもいいのになって思う。

「変じゃないです! 僕も甘いもの、大好きですよ! 作るのも食べるのも好き。だから昨日先輩が僕が作ったクッキーを美味しそうに食べてくれて、凄く嬉しかったです」

 先輩は切れ長の瞳を少しだけ丸くしてからにこっと笑った。

「そっか……。ありがと。……澪は見るからにスィーツ好きそう」
「ええ、そうですか? やっぱり夏の間に少し太っちゃったんですよね……、頬が丸くなったって母さんが……」
「違うよ」

 先輩が口元を緩めてふっと凄く優しく笑った。

「可愛いから、似合うってこと。スィーツも甘い匂いも。澪って喋り方も柔らかくて甘くて、ふわふわしてるから」

 冷たい氷の粒が喉を通り過ぎたのと、先輩の言葉の波状攻撃で、僕は危うくむせそうになってしまった。

(イケメンから繰り出される甘い言葉、やばい……、この飲み物に甘さで全然負けてない!)

 お付き合いってこんな感じなのかなあ。初めてなので全然分からないけど、ただずっとそわそわ落ち着かない、もじもじしたくなる気分になるのは、他の誰といる時とも違ってるなあって思う。

「昨日のパンプキンクッキー、すごく美味しかった。好みの味だった。ありがとう」

 先輩が僕が話しやすい話題を振ってくれた! こういうところ、先輩だなあって思っちゃう。

「ほんとですか! じゃあ、今度また作りますね! 他にはどんな味が好みですか? 最近は甘くない黒コショウとチーズ入りのクッキーも作って、お母さんがお酒のつまみにちょうどいいって、あっ、でも流石にそれはないか……」
「それも美味しそう。勉強の合間に摘まんでたら……、いい気分転換になりそうだな。でも部の活動に参加してないから。太らないように筋トレも頑張らないと」
「先輩もう、引退されたんですか?」
「夏休み明けすぐに大学の推薦入試の対策で色々準備することがあったから、その前に引退したも同然かな」
「へええええ! 受験って来年するんじゃないんだ」
「一般入試はね……」

 言いながら先輩はちょっとうかない顔になってドリンクを飲んでる。受験の話は嫌だったのかもしれない。僕は思わず口に出してしまった。

「先輩! 美味しいものは楽しく味わいましょ?」