「好きです、付き合ってください」を噛まずに言う練習だったのにメロ先輩とお付き合いした

(ななな、なんで?)

 瞬間的にかあっと耳まで熱くなってしまう。先輩は以前、通常通りって感じのクールさだ。

「他に何か欲しいものある?」
「な、ないです……」
「今のと同じの、もう一ついいですか。スマホ決裁で」

 先輩が逆の手でスマホを取り出して、決裁をかけようとした。それはまずい。僕は本当に慌てて、掴まれていない方の手でスマホを振りかざした。

「峰雪先輩、待って、待ってください」
「敬語じゃなくていいよ。依弦って呼んで」
(峰雪依弦っていう名前なんだ。名前まで格好いい……)
「い、依弦先輩……、あの」

 そういってまたクスクス、お姉さんも含めて笑っているから、僕はなんだか居たたまれない気持ちで唇をきゅって結んでしまった。

「悪い、ごめん。今の俺、感じ悪かったよな? 笑ったりしてごめん」
「そそそそ、そんなことないです。感じは、悪くない。先輩、優しいです」
「澪、顔真っ赤……。なんか、可愛くてつい」
(可愛くてって、なに、なんで?) 
「でも……、あの……、あの」

 色々パニックになってしまって、言いたいことを伝えたいのに、ささっと言えないんだ。峰雪……依弦先輩はそれを僕の機嫌を損ねたって捉えたみたいだ。

「ほんとごめん。澪が可愛すぎてキューアグ起こしてた。お詫びに奢るから、機嫌直して?」
「キューアグ……、ああ、あの」
(違う、違うんです。僕チケット持ってて……)

 僕は自分のスマホをぎゅうっと握りしめて俯いた。こういう自分は情けなくて嫌いだ。

「お客様、決済方法はどうなさいますか?」

 店員のお姉さんにすごく申し訳なさそうに聞いて来た。ふと後ろを見たら他のお客さんも並び始めてた。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

「あの、ちょっと……、待ってください」

 僕にしてはありったけの勇気を振り絞って、チケットのページを開けて、恐る恐るスマホをお姉さんに見せた。

「あ、あの……、これ、使いたい、です」
「はい、ではこちらを全額おつかいですね?」
「はい」

 お姉さんがくれたチケットで、二人分の飲みものを全額支払えた。

「あちらでお待ちください」
「澪」

 先輩が何か言いかけたので、僕は身体をよじって振り返りながら、すっと先輩の顔の前にスマホの画面を翳した。
「あの……、このチケット、従姉のお姉さんがくれたもので、今日までの期限で、でも僕ここ来るの初めてで、使えて、良かった。先輩がいてくれたから、ちゃんと欲しいもの、注文出来て嬉しい」
「あー、分かった。うん。ありがと」

 そういって先輩は優しく笑って、僕の手を一度きゅって握ってから離した。