幼馴染の恋人になりたいので、アピールを始めました

 それからというものの日向のいない生活に寂しさを覚えてばかりだった。登校の時間も学校の時間も遊ぶ時間も全部、日向とだったから。
 この漫画面白かったよ、アニメ面白かったよって日向に言いたくても言えない。日向が好きそうな新作のお菓子を見つけても買ってあげることもできない。
 その時、ふと頭に浮かんだのは千優の、あの言葉だった。
 『あと、それと、律は気づいてないだけだよ。自分の気持ちに』
 ああ、そういうことやったんか。俺は日向が好きで、俺の日常はこんなにも日向に染まってたんや、と気づく。でも、もう今更よな……。
 「日向、会いたいよ」
 一人、誰もいない部屋で呟き、そしてベッドで横になり目を瞑ると浮かぶあの時の日向。
 「あん時、泣いてたな」
 あの時、泣いていた日向の涙を拭いてあげたかったのにできなかったこと、追いかけることができなかったこと。ずっと後悔している。
 「会いたい」
 ただ会いたい気持ちが溢れるけど、どうすることもできないまま俺は眠りについた。
 翌朝、目が覚めるとまさかの熱を出していた。
 「嘘やん。考えすぎて熱出すとか子供か」
 今日は学校を休んで様子を見ることになった。お母さんもお父さんも仕事を休めないけど、何かあったらすぐ連絡してね、と言い残し出かけていった。
 外を見ると、今日は雨が降っていた。
 「今頃、一時間目の授業かな」
 日向は一時間目の授業は高確率で寝るから、それを起こすか寝顔を見るのが好きだったなあ。
 薬を飲んで、もう一度横になろうとベッドへ行き、眠りにつく。目を覚まし時計を確認すると、十三時過ぎだった。
 三時間も寝てたんか。
 ああ、今頃昼休みかな。誰と過ごしてんのやろ。部活の仲間かな。
 お母さんが作ってくれていた雑炊を温めなおし食べ終わった頃、時計を見ると十四時前だった。
 日向、お昼休みの後はご飯食べて眠くなるからきっと授業中、寝てんのやろな。
 洗い物を済ませ、もう一度ベッドで横になる。
 さっきからずっと日向のことばかり考えている。
 「会いたい」
 でも、もう今更どうすることもできない苦しさを抱えたまま、また眠りについた。
 目が覚めると、外は真っ暗で時間は十八時を過ぎていた。
 寝ても覚めても日向のことが頭に浮かぶ。今頃、部活が終わって片付けしてんのかな、とか、今日は忘れ物してなかったかな、とか。ただ、日向の顔が見たくて話したくて声が聞きたくて、ただそれだけなのに。
 もう、もう無理。会いたい。
 俺は部屋を飛び出し、その辺にあったサンダルを履いて、家の鍵を閉めて、雨の中、走っていく。日向に会うために、この気持ちを伝えるために。
 「日向!」
 「え?律?雨の中、どうしてん?びしょびしょやんか、傘も差さんと。熱出たんやろ?」
 そう言いながら、日向は自分の差していた傘を律の方に寄せ、自分のバッグからタオルを取り出し、体を拭いてあげる。
 「あんな、日向、俺言いたいことがあって」
 体を拭いていた日向の手が止まる。
 「うん」
 「俺も日向のことが好き。離れてようやく気づいた。ずっと日向のことばっかり考えるし、ずっと会いたいし話したいし声も聞きたいし」
 感情が溢れて上手く言えなくて言葉に詰まる。
 「とにかく好きやねん。もうどうしたらいいか分からへんぐらいに。でも、もう遅いかも知らんけど、でもそれでも伝えたくて」
 律がそう言った時、律の体は日向の方へと抱き寄せられた。
 「全然遅くない。めっちゃ嬉しい。俺も律が好きやで」
 抱きしめる力が強くなるのを感じる。
 「辛いから離れるとか言ったけど、離れてる方が辛かった。離れたら気持ちを諦められるかと思ったけど、全然そんなことなかった。結局ずっと律のことばっかり考えてたわ」
 「俺ら一緒のことしてたんやな」
 クスッと笑いながら律も抱きしめ返す。
 「じゃあ、俺ら今日から恋人ってことやんな」
 「もちろん。今日が記念日な」
 律の言葉に返答する日向。雨の中だが、二人は陽が差したように暖かい空気に包まれていた。