幼馴染の恋人になりたいので、アピールを始めました

「遅刻するぞー、早く」
 「待って、待って、もう行くから」
 俺の名前は坂本日向。今、家のドアを開けて出てきたのは藤井律。俺たちは幼馴染で住んでいるマンションも通っている高校も一緒。そのため、いつも一緒に登校をしている
 「俺たち今日から高校二年生やで」
 「ああ、そやな。今年も同じクラスになれるといいな」
 俺と律は小学校から高校一年生までクラスが離れたことがない。とはいっても小学校は一クラスしかない学校だったが。それでも、俺たちは奇跡的に今まで同じクラスだったのだ。
 「あ、なあ今日、昨日のゲームの続きするやろ?」
 「もちろん。今度こそは俺が勝つ!」
 「いやあ無理やと思うで。日向、めっちゃ弱いもん」
 「何やて?」
 俺は遊びで律の背後から腕を回し首を軽く絞める。
 「ごめん、ごめん。冗談やって」
 なんて、いつもこうして戯れて会話するのが俺たちだ。そして俺は中学生の頃から律のことが好きだ。さっきのああいう、あわよくば触れられるのも楽しくて仕方がない。だから次も同じクラスになったら、また楽しい一年を送れると思うとワクワクとドキドキが止まらない。きっと、俺たちはいつまでもこうして過ごしていくのだろうと思うし、告白はしていないけどこうして隣にいられるだけで充分。
なんて思っていたのに——。
 「日向、俺たち初めてクラス離れたな」
 ……なんで、なんでなんや。
 「聞いてる?日向」
 無理、律のおらん一年とか無理なんやけど……。
 「おーい」
 ショックで倒れそうや。今年も文化祭、体育祭、その他もろもろの学校行事でクラスが一緒という名目でずっと律を独り占めできたのに。今年はそれができひんてこと?
 「あかん、なんでか分からんけど口開けたまま動かんようになってるわ。日向、俺先行っとくな」
 「……ああ!待って!俺も一緒に行く!」
 律の言葉に気を持ち直し、渋々、律に別れを告げそれぞれのクラスへと入っていく。
 高校二年生、一度しかない高校二年生の生活が既に崩れる音がする。
 
 律は一組、日向は七組の教室へと入っていった。
 どうしたんやろ、日向。俺がクラスに入ろうとしたら、捨てられた子犬みたいな目をしとったな。クラスを離れたことがそんなに悲しかったんかな。まあ、その思いは俺も同じやけど。
 「ねえ、藤井律くん?」
 なんて考えていると、右隣の席から話しかけられた。
 「あ、うん。藤井律です。よろしく」
 うわ、びっくりした。ものすごいイケメン。あ、この人知ってる。山口千優や。去年、東京から引っ越して来た転校生で、モデルみたいにカッコよくて、性格も良いって話題の学校一の人気者。
 すごいわ、キラキラなオーラが溢れ出てるわ。
 「俺は、山口千優(やまぐちちひろ)です。よろしくね。あの、前に一回会ったことあるんだけど覚えてたりする?」
 「え?ああ…ごめん、覚えてないや。どこで会ったんやろう?」
 こんなイケメンと会ってたら絶対覚えてそうやけどな。
 「この前、街で」
 山口が喋り出した時に学校のチャイムが鳴り、と同時に担任の先生が教室に入ってきたことにより話が途切れた。
 「また後で話すね」
 そう放った山口の笑顔は中々な破壊力のある可愛さだった。
 長かったホームルームと始業式も終わり、今日はこれで学校も終わり。授業は明日から行われるのだ。
 「ねえ、藤井くん。良かったら一緒に帰らない?」
 「ああ…」そう言われ、真っ先に日向が頭に浮かんだが、日向はこの後部活で、帰る約束もしてないし大丈夫か、と俺はオーケーを出した。
 「名前なんだけど、律って呼んでもいいかな?」
 「うん、いいよ。じゃあ、俺も千優って呼んでもいい?」
 「うん!もちろん!」
 千優の笑顔は本当に眩しいな。
 そうして、俺たちは下駄箱へと向かって歩き始める。
 「なあ、千優って東京から大阪に去年引っ越してきたんやろ?」
 「そうだよ。親の転勤で」
 「そうやったんや。じゃあ、まだ大阪には慣れてない感じ?」
 「まあね。まだ自分の家の近所しか分からない」
 千優は苦笑する。
 「じゃあ、今度大阪の良いところ教えようか?」
 「え!いいの?やった!」
 千優の喜ぶ姿は魅力が存分に発揮されてるように見えた。
 「良かった。そんなに喜んでもらえて。あ、そういえば、さっき話しかけた話ってなんやったの?」
 「あ、そうだ。あの俺たち前にね」
 「律!」
 日向の声がして、またしても千優の話が途切れる。
 「日向、どうしたん?部活は?」
 「まだ始まるまで時間があって。それよりこの人誰?」
 日向は走ってきたのか息が上がっていて、俺と千優の間に割って入ってくる。
 「山口千優。俺とクラスメイトやねん」
 「どうも、山口千優です」
 「そうですか。俺は坂本日向。律とは小学生からの幼馴染でマンションも一緒で登校も一緒にしてる仲です。どうぞお見知りおきを」
 なぜか日向はガンを飛ばしながら圧をかけるような言い方で話す。
 「坂本くん、よろしくね。じゃあ、帰ろっか。俺たち一緒に帰る約束してるので」
 「はあ?!今日は俺と帰る約束してるからダメです」
 「え?日向、そんな約束した?」
 「今した」
 「なんやそら」
 どうしたんやろう。日向の様子がおかしい。
 「でも、律はそんな約束してないって」
 「律?!呼び捨てやと?!」
 なんかややこしくなりそうな予感。その前に日向を連れてどこかへ。
 「ごめん、千優。今日は一緒に帰れなさそうやわ。また今度帰ろう。ごめんな」
 俺は日向を連れて足早にその場を立ち去り、日向の所属するバレー部の部室へとやってきた。
 「どうしたん?日向。あんな喧嘩吹っかけるみたいな喋り方して」
 「あいつ、俺と同じ匂いがする」
 「はあ?匂い?」
 俺は日向の匂いを確かめるべく、日向に近づいて匂いを嗅ぐ。
 「な、何してんねん!」
 「いや、どんな匂いやったっけって。そんな驚くことか?」
 「その匂いちゃう!今は近づくの禁止!」
 なんや、様子がおかしい。耳も顔も真っ赤や。
 「日向、熱でもあるんか?」
 日向の額に手を当てると、日向は驚いて固まってしまった。
 「ほんまにどうしたん?日向、今日様子がおかしいで」
 「な、なんもない!さ、帰ろ、帰ろ」
 「部活どうするん?」
 「今日は体調悪いから休む!」
 そう言うと言う日向は荷物を持って、そそくさと行ってしまった。
 「待って、日向。一緒に行こう」
 俺も日向の後を追って部室を出て、二人で帰路に着いた。
 
夜。日向は恋のライバルの登場により、焦りを隠せないでいた。律との約束を断るほどに。そして、山口千優に負けない方法を考えるために。
 もういっそのこと告白する?今まで好きやったでって?
 自室で一人、頭を悩ませる。
 でも、告白したら今までの関係ではおられへんくなるのは確かや。律は俺のこと好きじゃないし。
 よし、まずは今まで友達としての好きで接してきたから、明日からは恋愛の好きで接してみるのはどうやろか。
 そう思い、俺はスマホの検索サイトで『好きな人 アピール 高校生 男子』と検索をかける。
 記事を読んでいると『何事も一生懸命頑張る』というアプローチ方法出てきた。その内容は、一生懸命に頑張る人は素敵だから、というものだった。他にないか、と記事を読み進めていくが、『勇気を持って話しかけましょう』や『連絡をしてみましょう』など、どれも毎日やってることだからあまり参考にならなかった。
 その後も、色々なサイトで情報を収集するが、どれもイマイチでピンとくるものがなかった。
 よし、こうなったら恋愛ドラマや。それ観て学ぶんや。どうやったら相手を振り向かせられるか、キュンキュンさせられるか。
 でも、時間も遅いからやから少し観たら寝ようっと。
 ——とか思ってたのに、観だしたら面白くてオールしてもうた。見入ってしもた。
 「もう朝やん」
 気がつけば夜が明け、カーテンから眩しい朝日が差し込む時間になっていた。
 やばい、やばい、とりあえず学校行く用意せな。
 一睡もしていない頭を回転させ、律が待つマンションのエントランスへと下りる。
 「おはよう……って、何その顔。くま、やばいで」
 「昨日、ドラマ観てて少しだけのつもりやってんけど、面白すぎてオールしてしもた」
 「俺とのゲームを断ってまで観るやつなん?」
 しまった、断ってたの忘れてた。でも、律にアプローチする方法を学ぶためにオールしました、とは言えない。
 「……ごめん。でも、本当はしたかってんで。けど、やむを得ない事情がございまして……」
 「なんやそら」と律はハハッと笑い「嘘、嘘。全然怒ってないで。次は一緒に遊ぼうな」と言った律の笑顔が光って見えた。
 ほんまに好き。この笑顔が一番胸をときめかせる。
 「もう絶対断らへん。何があっても、槍が降っても断らへん」
 「いや、そん時は遊ぶ遊ばん以前の問題やって」
 朝からなんて楽しい時間なんや。
 いや待て、アプローチは?いつも通りの幼馴染の時間を過ごしても意味ないやろ。律にかっこいいところを見せて、意識してもらわんと。頑張れ、俺!
 「律、危ないからこっち」
 「ん?ああ、ありがとう」
 俺は自然に車道側を歩く。これは恋愛ドラマで学んだ胸キュンポイント。
 どうや、ちょっとはかっこよく見えたか?
 「危ない!」
 俺は突然、律に腕を引っ張られ抱き寄せられる。
 「え?」
 「ごめん、前から猛スピードの自転車が来てて。日向、怪我ない?」
 「ああ、うん、全然大丈夫」
 日向の息が聞こえるほど近い。
 ドキッとさせるつもりが逆にさせられてどうすんねん、俺!
 「助けてもらった代わりに荷物持つわ。重いやろ」
 第二の矢。重いものを持つ。ヒロインは優しくされて、ときめいてた。
 これならどうや。
 「何言ってんの。どう見たって日向の方が荷物、重そうやで」
 「え?」
 確かに、日向は教科書などの学校の用意が入ったリュックに加えて、部活の用意が入ったスポーツバッグまで持っている。
 これじゃ説得力に欠けるやん……。
 「やから、そんな気遣ってもらわんで大丈夫」
 策が全て裏目に出ている……。今のところ、胸キュンさせてる気がしない。むしろ、させられている。
 次はどうするか、と考えていると学校に着いた。だが、そこには俺の天敵が……。
 「律!おはよう」
 「千優?なんで校門に」
 「一秒でも早く律に会いたくて」
 なんや、こいつのキラキラスマイルは。すれ違う女子たちがメロメロやんけ。
 「おお、それはありがとう?なんかな」
 律は首を傾げながら苦笑いを浮かべる。
 「はい、ストップ!今は、俺と律の時間なので邪魔しないでください」
 「何言ってるの。邪魔なんてしてませんけど?」
 やっぱり、こいつも律のこと好きなんや。絶対負けへんからな。俺はお前より身長も小さいし、顔もカッコよくないけど、律を想う気持ちは世界一やねんから。
 という気持ちを込めて山口にガンを飛ばし、そしてその思いが通じたのか対抗するように向こうも同じように睨んでくる。
 「なあ、二人とも何やってんの。さっさと教室行くで」
 この状況を見かねた律は、このままじやラチが明かないと踏み、日向と千優を引っ張って歩き出す。その後ろでは二人の睨み合いは続いていたのだった。
 「じゃ日向、また昼休みにな」
 俺は律と山口と別れ、寂しい気持ちを抱えながら渋々、教室へと入っていく。
 結局、全然アプローチできひんかった。
 机に突っ伏してため息をつく。
 昼休みこそ学んだ成果を発揮してみせる。
 
 十二時。昼休みを迎え、俺は逸る気持ちを抑えながら律のいる一組へと向かった。
 「律!ご飯食べよう!」
 「日向、今行く」
 律がこっちに来ようとした時、後ろから山口がついてきた。
 「ねえ、それ俺も参加していい?」
 「うげ」
 「そんな言い方しない。みんなでお昼ご飯、食べよう」
 律が日向の嫉妬を宥め屋上へと向かう。
 今がチャンス!
 俺はブレザーのジャケットを脱ぎ、地べたに敷きそこに律が座るよう促す。
 「律!ここ座り」
 「律、こっちに座って」
 なんやて?と思い隣を見ると、山口も同じことをしていた。
 「二人とも何してんの。千優も大丈夫やし、日向はそんなことしたことないやろ」
 そう言いながら律は日向のジャケットについた泥を叩いて返し、三人が円形になる位置に座る。
 また失敗や……。
 「あ、そういえば昨日、千優なんか言おうとしてなかった?」
 「うん?何それ」
 「昨日、俺と律がどこで会ったか言おうとしたんだけど、どこかの誰かさんに邪魔されて言えなかった話」
 「え?俺?」
 「まあまあ、いいやんか。で、なんやったん?」
 「この前の春休みに出かけようとしてて駅で本読みながら電車待ってて、そしたら誰かにぶつかって本、落としちゃって。それを拾ってくれたのが律だったってわけ。それが、前に会ったことあるよっていう話」
 「あ!もしかして日向の忘れ物、届けに学校に行った帰りにショッピングモールで買い物しようと思って電車乗った日かも」
 日向たちのの学校では、忘れ物を取りに行く、届けに行く、という少しの時間の用事でも制服を着て行かなければならないのだ。
 「でも、ごめんな。全然覚えてなくて」
 「いいよ、いいよ、そんな。俺、私服だったし、帽子も被ってたし」
 「こんなかっこよかったら覚えてそうなのに。ごめんな」
 「いいよ、いいよ」
 律にかっこいいと言われ少しニヤける千優。
 「何やそれ!かっこよかったら覚えてそう?律、浮気か!」
 日向は思わず立ち上がる。
 「浮気て。いつ付き合ってん、俺たち」
 律に座らされる日向。
 「それはそうやねんけど……。それより山口、なんで律ってわかったん?」
 「その時、律は制服着てて昨日見たときに初めて名前知ったってわけ」
 こいつ、春休みに会った事を忘れることなく覚えてて、昨日会ったばかりの人にここまで距離縮めてくるなんて。なんて人たらしなやつなんや。
 こんなやつに勝てるんか、俺。
 
 それからというもの日向たち三人は一緒に昼休みを過ごすことが多くなり、仲を深めていった。だが、律に対する日向と千優のアプローチは律は全く気づいてないようだった。
 そんな中、千優はもっと仲を深めようと一緒に下校しないかと誘う。
 「律、一緒に帰らない?部活、今日休みで」
 「うん、いいよ」
 俺たちが帰ろうとした時、向こうから日向が走ってやってくる。
 「日向、どうしたん?」
 「なあ、ごめん律。今日俺、寝坊したやんか。そん時、バレーシューズ忘れたみたいでさ取りに行ってくれへん?俺、今から補講あんの忘れてて行かれへんくて。でも次忘れ物したって監督にバレたら、どれだけ怒られるか」
 日向の顔から血の気が引いていく。
 「だから言ったやん、この前。休んでも大丈夫なん、って」
 どうやら始業式の日、日向は体調不良で部活を休んだのだが、それが仮病だと監督にバレて大目玉をくらったらしい。
 「ごめん、千優。ちょっと日向の忘れ物、取りに行くわ。また今度一緒に帰ろう」
 「あ、うん。オッケー、大丈夫」
 律は気づいてないようだけど、日向のことを優先することが多いよね。
 千優の顔には寂しさが滲み出る。
 「ごめん。これ家の鍵。ほんまにごめん、よろしく」
 鍵を律に渡し自分のクラスへと走って戻っていく日向。律も日向のためにと走って家まで行く。その何気ない、やり取りを見て、きっと二人は助け合って思い合って過ごしているんだよね、と感じる千優。
 二人に入る隙なんてないのかも。でも、俺はまだ諦めないよ。だって律が振り向いてくれるかもしれないから。まだ分からない、多分……。