刈谷たちからの誘いはすべて承諾するようにした。
すると夢野が不在でも声をかけられるようになり、いつの間にやらグループの一員のように扱われ始めた。
昼休みになると八人で机を囲んで弁当を食べる日々だ。
ならばとぼくは意気込み、あるとき弁当をつくって持ってきた。
「以前食べてみたいと言っていただろう?」
夢野は教師に呼ばれて不在だったが、今や不安感はだいぶ薄れていた。
「ガチ?」
「これ全部真琴がつくったわけ?」
「秀才さまは料理も完璧ってやつ?」
八人分ともなると大掛かりになるため、腹のすべてを賄う量じゃない。舌で楽しんでもらうくらいの分量だ。
夢野の弟たちがぼくを慕うようになったのは、おそらく胃袋を掴んだことが契機となったのだと考察した。ならば男子高校生も同じだと考えたのだ。
「……これ、鈴白が?」
思ったよりも早く戻ってきたらしい。
夢野の声がして、ぼくは胸を踊らせながら振り返った。
しかし、彼の表情を見た瞬間に踊っていた胸が凍りついた。
こんな夢野は見たことがない。
夢野は温度のない顔で、不愉快そうに見えた。
「先週つくった卵焼きが好評だったから」
「……だからこいつらにもって?」
声には皮肉めいた響きを感じた。
なぜこんな反応をするのだろう。
ぼくはわけがわからなくなり、言葉を続けられなくなってしまった。
「もらっていい?」
「いただきまーす」
刈谷たちはぼくらの硬直した空気などつゆ知らず、さっそくとばかりに箸をつつき始めている。
なにが悪かったのだろう。
夢野は席についたが、ぼくの弁当にはいっさい手を触れなかった。
◆◆◆
夢野とは会話するタイミングがないままに、放課後となった。
夢野の自宅へ通いだして二ヶ月が経っている。
最近は平日の放課後すべてを夢野家で過ごしていたから、日課になっているとも言える。
だからと不安を抱えつつも、ぼくは普段どおり夢野の席へ近づいた。
「ごめん、今日は外食することになったらしくて。さっき連絡が来たんだ。だから手伝いは要らないよ」
ぼくは肩を落としたが、ほっとしてもいた。
夢野はまるで別人のようだった。
ぼくと目も合わせず、声にはいっさいの温度がなかった。
あんな夢野は知らない。
刈谷たちに声をかけられても気がそぞろな反応で、強張った顔のまま教室を出ていった。
「航樹、変じゃね?」
「具合い悪いんかな?」
刈谷たちも異変を感じ取っている。ということは、体調のせいというのは事実かもしれない。
外食は主に週末と聞いていたため、嘘をつかれたような気がしたのだが、ぼくは刈谷たちの推察を答えとして結論づけることにした。
じゃなかったら気分を落ち着かせることができない。
ぼくは怖かった。
夢野から素っ気なくも他人のような態度を取られて、これから先どんなふうに接したらいいのかパニックだった。
だから両親に相談してみることにした。
なにせ友人をつくれと指摘してきた張本人たちだ。
刈谷たちの推察が正しいかどうかの意見を聞きたかった。
「事実は本人に聞かなきゃわからないわよ。でも、迷惑をかけたかもって不安になったら、一度引いたほうがいいわ」
結果としては、耳にタコとなっている意見しか返ってこなかった。
ぼくは今度ネットを参照することにした。
書籍を探す時間が惜しかったからだ。
ネットは信用するに足りない世界だが、時に便利だ。集合知としては活用できる。
するとわかったのは、溜めこんでいた不満が表に出てきたという意見だった。
ずっと迷惑に感じていたけれど、はっきり言うには角が立つ。やんわりと距離を置き始めたのだというのだ。
もっともらしい。
正解かもしれない。
ぼくは知見をまとめつつ、質問のできるサイトにも投稿してみた。
すると返ってきたアンサーは、二度と近づかないほうがいい、ストーカーになりかねない、友達というのは勘違いなどの意見だった。
ぼくは結構なショックを受けた。
両親の意見とほぼ同義ではないか。
思えばネットを探して見つけた意見も同じ線上にある。
つまり、ぼくは夢野にとって迷惑な存在で、ずっと疎まれていたということだ。
一向に気づいてくれないから、このたび態度で現すことにした。
やんわりと、二度と来ないように。
ぼくは頭を抱えた。
どうしたらいいかわからない。
こんなふうにひとりでは行き詰まったとき、最近はもっぱら夢野に相談していた。
当人のことが問題となっては、聞けるはずがない。
ぼくはため息をつき、明日が土曜日でよかったと心底思った。
今はまだ決意ができない。
登校して夢野の姿を見ながらも声をかけてはならないのだ。
放課後になっても家へ行ってはいけないし、これから先二度と話しかけちゃいけない。
考えるだけで涙が滲んでくる。
ぼくの初めての友達。夢野とさよならしなきゃいけないなんて、どうやったって決意できなかった。
すると夢野が不在でも声をかけられるようになり、いつの間にやらグループの一員のように扱われ始めた。
昼休みになると八人で机を囲んで弁当を食べる日々だ。
ならばとぼくは意気込み、あるとき弁当をつくって持ってきた。
「以前食べてみたいと言っていただろう?」
夢野は教師に呼ばれて不在だったが、今や不安感はだいぶ薄れていた。
「ガチ?」
「これ全部真琴がつくったわけ?」
「秀才さまは料理も完璧ってやつ?」
八人分ともなると大掛かりになるため、腹のすべてを賄う量じゃない。舌で楽しんでもらうくらいの分量だ。
夢野の弟たちがぼくを慕うようになったのは、おそらく胃袋を掴んだことが契機となったのだと考察した。ならば男子高校生も同じだと考えたのだ。
「……これ、鈴白が?」
思ったよりも早く戻ってきたらしい。
夢野の声がして、ぼくは胸を踊らせながら振り返った。
しかし、彼の表情を見た瞬間に踊っていた胸が凍りついた。
こんな夢野は見たことがない。
夢野は温度のない顔で、不愉快そうに見えた。
「先週つくった卵焼きが好評だったから」
「……だからこいつらにもって?」
声には皮肉めいた響きを感じた。
なぜこんな反応をするのだろう。
ぼくはわけがわからなくなり、言葉を続けられなくなってしまった。
「もらっていい?」
「いただきまーす」
刈谷たちはぼくらの硬直した空気などつゆ知らず、さっそくとばかりに箸をつつき始めている。
なにが悪かったのだろう。
夢野は席についたが、ぼくの弁当にはいっさい手を触れなかった。
◆◆◆
夢野とは会話するタイミングがないままに、放課後となった。
夢野の自宅へ通いだして二ヶ月が経っている。
最近は平日の放課後すべてを夢野家で過ごしていたから、日課になっているとも言える。
だからと不安を抱えつつも、ぼくは普段どおり夢野の席へ近づいた。
「ごめん、今日は外食することになったらしくて。さっき連絡が来たんだ。だから手伝いは要らないよ」
ぼくは肩を落としたが、ほっとしてもいた。
夢野はまるで別人のようだった。
ぼくと目も合わせず、声にはいっさいの温度がなかった。
あんな夢野は知らない。
刈谷たちに声をかけられても気がそぞろな反応で、強張った顔のまま教室を出ていった。
「航樹、変じゃね?」
「具合い悪いんかな?」
刈谷たちも異変を感じ取っている。ということは、体調のせいというのは事実かもしれない。
外食は主に週末と聞いていたため、嘘をつかれたような気がしたのだが、ぼくは刈谷たちの推察を答えとして結論づけることにした。
じゃなかったら気分を落ち着かせることができない。
ぼくは怖かった。
夢野から素っ気なくも他人のような態度を取られて、これから先どんなふうに接したらいいのかパニックだった。
だから両親に相談してみることにした。
なにせ友人をつくれと指摘してきた張本人たちだ。
刈谷たちの推察が正しいかどうかの意見を聞きたかった。
「事実は本人に聞かなきゃわからないわよ。でも、迷惑をかけたかもって不安になったら、一度引いたほうがいいわ」
結果としては、耳にタコとなっている意見しか返ってこなかった。
ぼくは今度ネットを参照することにした。
書籍を探す時間が惜しかったからだ。
ネットは信用するに足りない世界だが、時に便利だ。集合知としては活用できる。
するとわかったのは、溜めこんでいた不満が表に出てきたという意見だった。
ずっと迷惑に感じていたけれど、はっきり言うには角が立つ。やんわりと距離を置き始めたのだというのだ。
もっともらしい。
正解かもしれない。
ぼくは知見をまとめつつ、質問のできるサイトにも投稿してみた。
すると返ってきたアンサーは、二度と近づかないほうがいい、ストーカーになりかねない、友達というのは勘違いなどの意見だった。
ぼくは結構なショックを受けた。
両親の意見とほぼ同義ではないか。
思えばネットを探して見つけた意見も同じ線上にある。
つまり、ぼくは夢野にとって迷惑な存在で、ずっと疎まれていたということだ。
一向に気づいてくれないから、このたび態度で現すことにした。
やんわりと、二度と来ないように。
ぼくは頭を抱えた。
どうしたらいいかわからない。
こんなふうにひとりでは行き詰まったとき、最近はもっぱら夢野に相談していた。
当人のことが問題となっては、聞けるはずがない。
ぼくはため息をつき、明日が土曜日でよかったと心底思った。
今はまだ決意ができない。
登校して夢野の姿を見ながらも声をかけてはならないのだ。
放課後になっても家へ行ってはいけないし、これから先二度と話しかけちゃいけない。
考えるだけで涙が滲んでくる。
ぼくの初めての友達。夢野とさよならしなきゃいけないなんて、どうやったって決意できなかった。



