俺はこのまま、教師を続けていてもいいのだろうか?
2026年4月16日(木)
吹田中学校 職員室
木曜日の3限目は担当している授業がなく、次の授業の準備をしていた。教科書の内容をもう一度確認しようとした時、職員室の奥にある校長室のドアが開いた。
校長先生が穏やかな顔でこっちを見ていた。
またか。嫌な予感がした。大体察しはついている。
「大野先生、ちょっとよろしいですか?」
校長先生が優しい口調で聞いてきた。
校長先生は34歳の俺にも敬語で話してくれる。
「はい。」と俺が返事をする。
「どうぞ、どうぞ。」と俺を招き入れると校長先生はドアを閉め、ソファに腰掛けるように手をソファに向けていた。「失礼します。」と言って俺はソファに腰掛けた。テーブルを挟み校長先生が俺の正面に座った。テーブルの上にはタブレットが置かれている。
「実は佐藤くんのお母様からまたお電話がありまして。」
校長先生は申し訳なさそうに話を切り出した。
俺の予感は的中した。
この佐藤という生徒の母親は些細なことでも学校に電話をして意見を言ってくる。いわゆる、モンスターペアレントというやつだ。
「で、今回はどういった内容でしょうか?」
俺は恐る恐る聞いた。
「昨日、返却したテストなんですが問13の採点に納得がいっていないご様子で。」
校長先生は小さくため息をつきながらタブレットを手にすると、画面に佐藤の答案用紙を表示した。俺が教員をしている吹田中学校では成績をつける時や今回のようなトラブルに備えて採点済みのテストをスキャンして保存している。それを全教員が共有できるシステムだ。
校長先生が問13のところに指をさす。そこにはたしかに佐藤の回答を否定するように赤い線が斜め右に向かって引かれていた。
「私も内容を確認しましたが、大野先生の採点には問題がないように感じました。ただ、言われてみればそういう解釈ができるのかもというところがあるので私もどう説明すればいいのか困っていまして。」
「私は授業で教えた回答ではなかったので不正解にしました。授業で教える時と採点をする時は指導書に記載されている内容に基づいて指導、採点をしています。」
俺は自分に非がないことを伝えた。
「そこなんですよ。問題は。」
校長先生の語気がほんの少し強まった。
塾ではこう教わったというのが佐藤くんのお母さんの言い分でして。それと、息子が正しいと思って書いた回答を不正解にされてしまったことで佐藤くんが傷付いているとも仰っていました。まぁ、佐藤くんが傷付いたというのはお母様も感情的になっているだけだと思うので、あまり気にしなくていいように思います。ただ、塾で教えてもらったからを認めてしまうと他の生徒も塾で教えてもらったからと言って、あんまり生徒を疑いたくはありませんが嘘をつく子がでてくるかもしれません。私としてもどう対応すればいいのか困ってしまっている状況でして。」
気まずさから逃れるようにお互いテーブルの上に視線を向けて目を合わさずにしばらく沈黙が続いた。先に沈黙を破ったのは校長先生だった。
「まぁ、今回は指導書をお見せして納得していただくしかありませんね。学校ではこれが正解だと。本当は保護者や生徒に見せてはいけないのですが仕方ないですね。この件は藤井先生にお任せすることにします。採点をした大野先生より学年主任である藤井先生の方が佐藤くんのお母さんも感情的にならずに済むでしょう。私から藤井先生に言っておきます。」
「申し訳ありません。よろしくお願いします。」
と俺は小さく答えた。でもなぜ俺が謝らないといけないのかは分からなかった。
「いえいえ、大野先生は何も悪くありません。」
校長先生が穏やかに言った。
俺はソファから立ち上がり校長先生に軽く一礼をして職員室に戻った。やりかけの授業の準備が机の上に広がっていた。いつも以上にやる気が起きなかった。俺は自分の仕事をマニュアル通りにやっただけだ。変な言いがかりをつけられて傷付いたのは俺の方だと佐藤と佐藤の母親の顔を思い浮かべていた。
2026年4月16日(木)
吹田中学校 職員室
木曜日の3限目は担当している授業がなく、次の授業の準備をしていた。教科書の内容をもう一度確認しようとした時、職員室の奥にある校長室のドアが開いた。
校長先生が穏やかな顔でこっちを見ていた。
またか。嫌な予感がした。大体察しはついている。
「大野先生、ちょっとよろしいですか?」
校長先生が優しい口調で聞いてきた。
校長先生は34歳の俺にも敬語で話してくれる。
「はい。」と俺が返事をする。
「どうぞ、どうぞ。」と俺を招き入れると校長先生はドアを閉め、ソファに腰掛けるように手をソファに向けていた。「失礼します。」と言って俺はソファに腰掛けた。テーブルを挟み校長先生が俺の正面に座った。テーブルの上にはタブレットが置かれている。
「実は佐藤くんのお母様からまたお電話がありまして。」
校長先生は申し訳なさそうに話を切り出した。
俺の予感は的中した。
この佐藤という生徒の母親は些細なことでも学校に電話をして意見を言ってくる。いわゆる、モンスターペアレントというやつだ。
「で、今回はどういった内容でしょうか?」
俺は恐る恐る聞いた。
「昨日、返却したテストなんですが問13の採点に納得がいっていないご様子で。」
校長先生は小さくため息をつきながらタブレットを手にすると、画面に佐藤の答案用紙を表示した。俺が教員をしている吹田中学校では成績をつける時や今回のようなトラブルに備えて採点済みのテストをスキャンして保存している。それを全教員が共有できるシステムだ。
校長先生が問13のところに指をさす。そこにはたしかに佐藤の回答を否定するように赤い線が斜め右に向かって引かれていた。
「私も内容を確認しましたが、大野先生の採点には問題がないように感じました。ただ、言われてみればそういう解釈ができるのかもというところがあるので私もどう説明すればいいのか困っていまして。」
「私は授業で教えた回答ではなかったので不正解にしました。授業で教える時と採点をする時は指導書に記載されている内容に基づいて指導、採点をしています。」
俺は自分に非がないことを伝えた。
「そこなんですよ。問題は。」
校長先生の語気がほんの少し強まった。
塾ではこう教わったというのが佐藤くんのお母さんの言い分でして。それと、息子が正しいと思って書いた回答を不正解にされてしまったことで佐藤くんが傷付いているとも仰っていました。まぁ、佐藤くんが傷付いたというのはお母様も感情的になっているだけだと思うので、あまり気にしなくていいように思います。ただ、塾で教えてもらったからを認めてしまうと他の生徒も塾で教えてもらったからと言って、あんまり生徒を疑いたくはありませんが嘘をつく子がでてくるかもしれません。私としてもどう対応すればいいのか困ってしまっている状況でして。」
気まずさから逃れるようにお互いテーブルの上に視線を向けて目を合わさずにしばらく沈黙が続いた。先に沈黙を破ったのは校長先生だった。
「まぁ、今回は指導書をお見せして納得していただくしかありませんね。学校ではこれが正解だと。本当は保護者や生徒に見せてはいけないのですが仕方ないですね。この件は藤井先生にお任せすることにします。採点をした大野先生より学年主任である藤井先生の方が佐藤くんのお母さんも感情的にならずに済むでしょう。私から藤井先生に言っておきます。」
「申し訳ありません。よろしくお願いします。」
と俺は小さく答えた。でもなぜ俺が謝らないといけないのかは分からなかった。
「いえいえ、大野先生は何も悪くありません。」
校長先生が穏やかに言った。
俺はソファから立ち上がり校長先生に軽く一礼をして職員室に戻った。やりかけの授業の準備が机の上に広がっていた。いつも以上にやる気が起きなかった。俺は自分の仕事をマニュアル通りにやっただけだ。変な言いがかりをつけられて傷付いたのは俺の方だと佐藤と佐藤の母親の顔を思い浮かべていた。
