「え!?マジであの人が部長なの!?」
「な!意外じゃね?ちっちぇし」
「ばっか、お前らやめろ!そんなこと言ったら……」
あ。
「んだとこらぁぁぁぁ!!もう1回言ってみろ!」
あーあ。
「うわ、なんだよ!?」
「お前らどこ高だ、ああん!?何年だ!?1年か!?1年だな!?名を名乗れー!」
「はいはーい。帰るよー」
俺は急いで大山を羽交い絞めにした。いつものことだし、慌てることなく、慣れたもんだとさえ思う。慣れちゃうのは、あんまりよくないけど。
「はなせー!」
ビチビチ暴れるのを抑えたまま、相手方と話を付けるのもお手の物だ。
「どうもすみません」
「いや、先に変なこと言ったのはこっちの部員なんで。おい、謝れお前ら!」
「すみませんっした!」
「すいやせん!」
素直に謝る二人を見て、少し収まりがついたらしい。ビチビチも止まっている。
「……ふんっ。次からは気をつけろよ!」
大人しくなったけど、まだ油断は禁物。
「じゃあ、失礼します」
嫌な予感がして、そそくさとその場を離れようとしたのだけど。
「……部長。あの人って」
「南野谷中高校、柔道部部長。そんで去年の60kg級でIH優勝の大山高広だよ。で、またの名を『狂犬チワワ』」
「あーん!?またなんか言ってんなー!?」
なんでこんなに地獄耳なんだろ?結構な距離をかせいだのに。
「はいはーい。大山。落ち着いて。もう帰るよ」
「はーなーせー!」
やっぱりこうなった。こんなこともあろうと、すぐ捕獲できるようにしておいてよかった。そのまま引きずるようにして競技会場を後にした。これもいつものこと。悲しいことにかなり慣れてしまった。
「すごいっすね。あの引きずってるほうも」
「あっちはIH、81kg級の優勝者。小川凪」
「見たことあると思った……。あっちの人にはまたの名ってないんですか?」
「まぁ『セントバーナード』だな」
「……確かに」
「っすね」
「くそっ!俺のどこが……まぁ大きくねぇのは認めるけど!……おっ!ジャンボ肉まん!」
あのあと、暴れる大山をなだめすかして、なんとかコンビニへ。部員を先に帰らせておいて本当によかった。
大山の中では怒りよりも食欲のほうが勝るらしく、あっという間におとなしくなってくれた。蒸し器に張り付いている大山……。うん。あの場では賛成しなかったけど、ああいいたくなるのもわかる。
「すいません、ジャンボ肉まん二つ!」
「え?」
「小川も食うだろ?」
「……うん」
蒸されてホカホカの肉まん。こんなのすぐに食べるしかない。邪魔にならないところに二人で並んで、さっそく一口。うん、美味しい!
しばらく無言で食べ進めていたんだけど、半分くらいなくなったところで大山が口を開いた。
「なぁ小川」
「ん?」
「俺ってさ……かわいいのか?」
「ん……うーん」
いや、かわいいけど!?超かわいいよ!?ジャンボ肉まんとほとんど顔の大きさ変わらないとことか、あと躊躇なく大口でがぶっといくところとか!というかさ、なにそれ!なんかほっぺ膨らんでるじゃん。ため込んでるの?肉まんを!?中身を?皮を?どっちなの?
こういう行動はまず間違いなく絶対にかわいい。かわいいポイント+1。
そんで、シンプルに顔もかわいい系なのがそれに拍車をかけていると思う。目が大きくてたれ目がち。動物でいうとタヌキ。かわいいポイント+1
脱いだらばっきばきに鍛えられてるんだけど。これはかっこいいポイントだな。カッコイイポイント+1。
でもほとんど見せることはないので、これは加点なしとする。
あと、ここは大事なんだけど。俺の個人的な加点。
かわいいポイント+1万、かっこいいポイント+1万。合計してかわいいポイント1万2、かっこいいポイント1万1。
という計算式によりかわいいに軍配が上がってしまっている。
でも素直にそう言ったらまた怒り狂うに決まっている。誰が付けたか『狂犬チワワ』。言い得て妙すぎる。
「なぁ?どうなんだよ?」
「えーと……」
どうする……俺!?
「かっ……こわいいかな」
「え?」
「あ!大山、それ肉まん、当たってるぞ!」
「マジだ、やった!」
危ない!ジャンボ肉まん当たりくじに救われた!敷紙にたまーに◎が書いてあるんだよな。地味に初めてみたかも。そもそも印刷が薄くて見えにくいんだよな。
大山はジャンボ肉まんを速攻で食べきり、新たなジャンボ肉まんを持って戻ってきた。そして。
「はい!半分!」
半分に割ったそれを俺に差し出している。断面からほやほやと湯気が立つ、ジャンボ肉まんを。
「あ、ありがとう」
「俺の強運に感謝しろ!はふっ……うめー!全然まだ食えるわ、な!」
「うん」
胃は余裕。高校生男子の胃袋なんてダイソンもびっくりの吸引力だ。だけど、胸はいっぱいなんですけど!?
「小川、両手に肉まん持ってるのウケるな!すげー食いしん坊みたい!」
「いや、大山が急に渡すからじゃん」
「いらなかったのか?」
「いるよ」
「もしかして実は腹いっぱいなのか?じゃあ俺が食う!」
いるに決まってるだろ!大山がくれたものなんだから!けたけた笑ってる顔もかわいいんだよなー。
「まだ食えるから!」
「食うってば!」
「あー!お前、上は卑怯だぞ!」
俺が腕を上げれば、大山には届かない。
「お前も、まだあるだろ!ちゃんと食い切れよ!」
「はふぁ……んぐんぐ……はい!今なくなった!」
口に押し付けるみたいにして一気に食べるじゃん!あ、敷紙はクシャっと丸めてポケットに突っ込んでるし!内側の汚れ落ちにくいから、怒られるぞ?
頭上で肉まんを守る俺に対して、身軽になった大山はジャンプして狙いに来た。
「ふんっ!ふんっ!」
「やめろって!」
脚力やばいから、普通に届きそう。何回か指先タッチくらいはされている。これだけ身長差があるんだ、俺も取られるわけにはいかない。
「っあーくっそ!届かねぇ!」
「おい、なんか途中から目的変わってなかったか?」
「ばれた?」
なんだよ、ジャンプしたかっただけかよ……。へへへって笑う大山がかわいいから許すけど。
「ったく。すぐ食うから、ちょっと待ってて」
「おう。電車の時間みとく」
「あんがと」
すぐ、とは言ったものの、少しでもこの時間を長引かせたくていつもより多くかんでしまった。体にはいいので良しとしよう。
大山の家はここから徒歩圏内だから、調べているのは俺の電車の時間。こんなことがどうしようもなく嬉しい。
「お待たせ。食べきった」
「当たった?」
「外れ」
さっき当たったんだから、もうしばらくないだろ。
「じゃいくか」
「駅まで来るのか?ここでもいいよ?小川遠回りになるじゃん」
「来てほしくねーの?」
「そんなこと言ってない!」
やべっ。ちょっと必死になりすぎた?俺、焦ると変なこと言っちゃうんだよな……。普段無口っぽく見えてるのはそれを隠すためだったりする。
「食後の運動にちょうどいいんだよ」
「はいはーい」
二人で駅まで歩き始める。まだ日は落ち切っていない。随分と長くなったなぁ。駅までの道がもっともっと伸びればいいのに。
「なー」
「ん?」
「やっぱさ。小川が部長やった方がよかったんじゃねぇ?」
「なんで?」
「俺だと、他高のやつらになめられるっていうか、さ」
「気にしてんの?」
「まーちょっとは」
並んで歩いていて、大山のつむじがよく見える時はそういう時だ。
「今まではまだ下級生だったけど、これからは最上級生で部長なわけじゃん?学校の代表っていうか」
「それわかってるなら、キレるなよ」
「そうだけど!気を付けるけどさ……やっぱ気になる。……気になってる」
「何が?」
「成績で言えばお前もほとんど同じじゃん。俺か小川の2択ってなったら、普通は小川なんじゃないの?」
「普通とかよくわかんないけど」
「俺、真剣なんだぞ」
「うん。あくまで俺の意見だけど。俺は大山のこと恰好いいと思ってる」
「……マジ?」
「うん。だって俺が南野谷中で柔道してるのってお前の影響だし」
「そうなの!?」
「うん」
大マジ。中学で柔道はやめようと思ってたんだ。そこそこの成績だしたから、スカウトも沢山あったんだけど、全部断った。
俺に向いてたとは思うんだ。筋力があって、体が柔らかかったし。できないことを練習してできるようにして、試合で勝つっていうのは楽しかった。でも、なんというか熱量が俺にはなかった。
周囲にはケガするの怖いからもうしないって言いまくってたんだけど、最後の大会で見ちゃったんだよ。大山のこと。
強くてうまくて、真剣勝負なのに楽しそうで。この人と一緒にやってみたいかもって思ったんだ。
「え、なんで?俺ら階級も全然違うじゃん」
そんで
「大山のこと見かけたことあってさ」
「いつ?」
「中学最後の大会。そのときに思ったんだ。格好いいなって」
「そんな派手なことしてたか?結構苦戦してたと思うんだけど」
「そういうのじゃなくて、なんていうか。その全体的に?」
「ふーん?」
「この人と柔道してみたいなーって思ったんだよ」
「……そうなんだ」
「だから俺は大山が部長でいいんじゃなくて、大山が部長がいいと思ってる」
「……」
「多分、先輩とか俺と同じこと思ってたと思う。後輩も。言わないけど」
確かに俺も結果は残している。真面目に練習もしているし、部長をやれと言われたら引き受けていたと思う。そしてそれなりにできるとも思う。でも大山にしかできないことがある。
「……そうなのかな」
「そうだよ」
大山、お前には熱があるよ。情熱とか熱血とかそういうの。それってさ。俺にはないんだ。でもお前のくれた熱で俺は動けている。だから部長になるんだったらそういうやつの方がいいと思うんだ。
だって大山、格好いいから。
「大山なら、大丈夫だよ」
「……うん」
「それに……これはいいや」
「なんだよ!?」
大山の柔道好きだし、と言おうとしてやめた。なんだか別の意味も載せてしまいそうだったから。
「そ、そーいえば!大山はなんで柔道始めたの?」
「ごまかしたな!」
「違うよ!」
違わないけど。実は気になってた。聞いたことなかった気がするんだよな。
「大山、他のスポーツもできるじゃん。体育とか見てたらそう思う。なんで柔道?」
「あー……なんか改まって言うと……小川から言え!」
「俺?俺は先生に勧められてやったらできたって感じ」
「なんだそれ!」
「本当にそうなんだから、仕方ないだろ!」
やってみたら、できたってだけなんだって!……今は違うけどさ……。
「いけすかねー!」
「嘘じゃないから!俺はちゃんと言ったぞ。大山は?」
「ん……誰にも言うなよ」
「うん」
「漫画、好きだったから」
「え」
「それ、主役は女の子なんだけど。一番下の階級の子なんだ。でもめちゃくちゃ強くてもっと上の階級の人と戦うんだよ……無差別級とか出るんだぜ?すごくね!?」
「聞いたことある、かも」
「柔よく剛を制すって言うのに、さ。痺れたんだよな。そんで今に至るってわけ。単純だろ?」
「……」
「なんか言えよ!」
「ごめん。そういうのいいなって思って」
「そうか?我ながら単純だなって思うけど」
「いいだろそれで。そういう愛があるから、みんな大山についていくんだよ」
「愛って。お前……」
あ!せっかく流れ変えたのに!
「まぁ、副部長は俺だし。お前がまた暴走したら止めてやるから」
「もうしねぇよ!」
「どうかなー?」
「……あんがと」
「え?」
「なんでもねー!」
やいやい言っていたらあっという間に駅に来てしまった。日はもう落ち始めている。もうすぐ街灯がつく時間だな。
「じゃ。また明日」
「おう……ちょっと待って!」
改札直前で声をかけられた。明日も会えるのになんだ?
「何?」
「さっき何言いかけたんだよ?」
「えぇ!?今よくない!?」
「いや気になる!」
「えーいや、その」
こうなった大山はしつこい。言うしかないか。幸い駅の街灯はまだついてなくて暗いし、顔色とかは見えないだろう。さっと言って逃げてしまおう。
「何なんだよ!?」
「好きだって話」
「は!?」
「あ、いや大山の柔道がっていうか人間性がっていうか……!」
あー順番間違えた!やってしまった!えと、どう修正すれば
「いやその好きなんだけど、好きっていうのはその……」
「え?嫌いってこと?」
「そうじゃない!好きだよ!大山のこと!」
「……マジ?」
あー!?うわー!言ってしまった!引退してから言おうと思ってたのに!やばいやばい!
「あ……いや」
「あのさ」
「ごめん!今の忘れて!じゃ、俺電車くるから!」
「あ、おい!」
俺はすぐに改札の中に駆け込んだ。大山の顔なんて見る余裕なかった。
「小川!」
「ん?」
「これ!」
「うわ!」
大山が何かを投げつけてきた。手のひらサイズのもの。顔面に飛んできたので慌ててキャッチした。
「ナイスキャッチ!」
「危ないだろ!」
「それ!俺の気持ち!じゃまた明日!」
そう言って大山は走って行ってしまった。あっという間に背中は小さくなっていく。足も速いんだよなーあいつ。
この紙なんだ?クシャクシャだけど……。
「え」
◎
え、なにこれどういうこと?あ、さっきの肉まんか!それはわかったけど、これ。どういう意味!?
その後俺は電車の方向を間違えて乗ってしまい、帰ったのは1時間以上も後。親からめちゃくちゃ連絡がきていた。しかも、悶々として眠れなくなり翌朝寝坊。バツとして体育準備室の掃除をしなきゃいけなくなって部活に行くの遅れたんだ……。
だから部活であんなことになっているなんて知らなかったんだよ……。
「よし、お前ら今日も練習するぞ!」
「うす!」
「その前に、ちょっと聞きたいことがある!」
「うす!」
「俺が部長で文句のあるやつはいるか!?」
「いないです!」
「よし!俺は……恰好いいか!?」
「うす!恰好いいっす!」
「よし!じゃあ……俺はかわいいか!?」
「うす!かわいいっす!」
「なんかいろいろ……かわいいっす!」
「何だとお前らー!!」
「部長が言えっていったんじゃないですか!」
「そうですよ!」
「うるせぇ!うるせぇ!」
「小川せんぱーい!助けてくださーい!」
「小川さーん!」
「え?なにこれ?」
「なんで、かわいいのところだけコメント多いんだよ!?おかしいだろ!?」
「はいはーい」
「はーなーせー!」
いやーほんと、かっこわいいなー。大山。
「な!意外じゃね?ちっちぇし」
「ばっか、お前らやめろ!そんなこと言ったら……」
あ。
「んだとこらぁぁぁぁ!!もう1回言ってみろ!」
あーあ。
「うわ、なんだよ!?」
「お前らどこ高だ、ああん!?何年だ!?1年か!?1年だな!?名を名乗れー!」
「はいはーい。帰るよー」
俺は急いで大山を羽交い絞めにした。いつものことだし、慌てることなく、慣れたもんだとさえ思う。慣れちゃうのは、あんまりよくないけど。
「はなせー!」
ビチビチ暴れるのを抑えたまま、相手方と話を付けるのもお手の物だ。
「どうもすみません」
「いや、先に変なこと言ったのはこっちの部員なんで。おい、謝れお前ら!」
「すみませんっした!」
「すいやせん!」
素直に謝る二人を見て、少し収まりがついたらしい。ビチビチも止まっている。
「……ふんっ。次からは気をつけろよ!」
大人しくなったけど、まだ油断は禁物。
「じゃあ、失礼します」
嫌な予感がして、そそくさとその場を離れようとしたのだけど。
「……部長。あの人って」
「南野谷中高校、柔道部部長。そんで去年の60kg級でIH優勝の大山高広だよ。で、またの名を『狂犬チワワ』」
「あーん!?またなんか言ってんなー!?」
なんでこんなに地獄耳なんだろ?結構な距離をかせいだのに。
「はいはーい。大山。落ち着いて。もう帰るよ」
「はーなーせー!」
やっぱりこうなった。こんなこともあろうと、すぐ捕獲できるようにしておいてよかった。そのまま引きずるようにして競技会場を後にした。これもいつものこと。悲しいことにかなり慣れてしまった。
「すごいっすね。あの引きずってるほうも」
「あっちはIH、81kg級の優勝者。小川凪」
「見たことあると思った……。あっちの人にはまたの名ってないんですか?」
「まぁ『セントバーナード』だな」
「……確かに」
「っすね」
「くそっ!俺のどこが……まぁ大きくねぇのは認めるけど!……おっ!ジャンボ肉まん!」
あのあと、暴れる大山をなだめすかして、なんとかコンビニへ。部員を先に帰らせておいて本当によかった。
大山の中では怒りよりも食欲のほうが勝るらしく、あっという間におとなしくなってくれた。蒸し器に張り付いている大山……。うん。あの場では賛成しなかったけど、ああいいたくなるのもわかる。
「すいません、ジャンボ肉まん二つ!」
「え?」
「小川も食うだろ?」
「……うん」
蒸されてホカホカの肉まん。こんなのすぐに食べるしかない。邪魔にならないところに二人で並んで、さっそく一口。うん、美味しい!
しばらく無言で食べ進めていたんだけど、半分くらいなくなったところで大山が口を開いた。
「なぁ小川」
「ん?」
「俺ってさ……かわいいのか?」
「ん……うーん」
いや、かわいいけど!?超かわいいよ!?ジャンボ肉まんとほとんど顔の大きさ変わらないとことか、あと躊躇なく大口でがぶっといくところとか!というかさ、なにそれ!なんかほっぺ膨らんでるじゃん。ため込んでるの?肉まんを!?中身を?皮を?どっちなの?
こういう行動はまず間違いなく絶対にかわいい。かわいいポイント+1。
そんで、シンプルに顔もかわいい系なのがそれに拍車をかけていると思う。目が大きくてたれ目がち。動物でいうとタヌキ。かわいいポイント+1
脱いだらばっきばきに鍛えられてるんだけど。これはかっこいいポイントだな。カッコイイポイント+1。
でもほとんど見せることはないので、これは加点なしとする。
あと、ここは大事なんだけど。俺の個人的な加点。
かわいいポイント+1万、かっこいいポイント+1万。合計してかわいいポイント1万2、かっこいいポイント1万1。
という計算式によりかわいいに軍配が上がってしまっている。
でも素直にそう言ったらまた怒り狂うに決まっている。誰が付けたか『狂犬チワワ』。言い得て妙すぎる。
「なぁ?どうなんだよ?」
「えーと……」
どうする……俺!?
「かっ……こわいいかな」
「え?」
「あ!大山、それ肉まん、当たってるぞ!」
「マジだ、やった!」
危ない!ジャンボ肉まん当たりくじに救われた!敷紙にたまーに◎が書いてあるんだよな。地味に初めてみたかも。そもそも印刷が薄くて見えにくいんだよな。
大山はジャンボ肉まんを速攻で食べきり、新たなジャンボ肉まんを持って戻ってきた。そして。
「はい!半分!」
半分に割ったそれを俺に差し出している。断面からほやほやと湯気が立つ、ジャンボ肉まんを。
「あ、ありがとう」
「俺の強運に感謝しろ!はふっ……うめー!全然まだ食えるわ、な!」
「うん」
胃は余裕。高校生男子の胃袋なんてダイソンもびっくりの吸引力だ。だけど、胸はいっぱいなんですけど!?
「小川、両手に肉まん持ってるのウケるな!すげー食いしん坊みたい!」
「いや、大山が急に渡すからじゃん」
「いらなかったのか?」
「いるよ」
「もしかして実は腹いっぱいなのか?じゃあ俺が食う!」
いるに決まってるだろ!大山がくれたものなんだから!けたけた笑ってる顔もかわいいんだよなー。
「まだ食えるから!」
「食うってば!」
「あー!お前、上は卑怯だぞ!」
俺が腕を上げれば、大山には届かない。
「お前も、まだあるだろ!ちゃんと食い切れよ!」
「はふぁ……んぐんぐ……はい!今なくなった!」
口に押し付けるみたいにして一気に食べるじゃん!あ、敷紙はクシャっと丸めてポケットに突っ込んでるし!内側の汚れ落ちにくいから、怒られるぞ?
頭上で肉まんを守る俺に対して、身軽になった大山はジャンプして狙いに来た。
「ふんっ!ふんっ!」
「やめろって!」
脚力やばいから、普通に届きそう。何回か指先タッチくらいはされている。これだけ身長差があるんだ、俺も取られるわけにはいかない。
「っあーくっそ!届かねぇ!」
「おい、なんか途中から目的変わってなかったか?」
「ばれた?」
なんだよ、ジャンプしたかっただけかよ……。へへへって笑う大山がかわいいから許すけど。
「ったく。すぐ食うから、ちょっと待ってて」
「おう。電車の時間みとく」
「あんがと」
すぐ、とは言ったものの、少しでもこの時間を長引かせたくていつもより多くかんでしまった。体にはいいので良しとしよう。
大山の家はここから徒歩圏内だから、調べているのは俺の電車の時間。こんなことがどうしようもなく嬉しい。
「お待たせ。食べきった」
「当たった?」
「外れ」
さっき当たったんだから、もうしばらくないだろ。
「じゃいくか」
「駅まで来るのか?ここでもいいよ?小川遠回りになるじゃん」
「来てほしくねーの?」
「そんなこと言ってない!」
やべっ。ちょっと必死になりすぎた?俺、焦ると変なこと言っちゃうんだよな……。普段無口っぽく見えてるのはそれを隠すためだったりする。
「食後の運動にちょうどいいんだよ」
「はいはーい」
二人で駅まで歩き始める。まだ日は落ち切っていない。随分と長くなったなぁ。駅までの道がもっともっと伸びればいいのに。
「なー」
「ん?」
「やっぱさ。小川が部長やった方がよかったんじゃねぇ?」
「なんで?」
「俺だと、他高のやつらになめられるっていうか、さ」
「気にしてんの?」
「まーちょっとは」
並んで歩いていて、大山のつむじがよく見える時はそういう時だ。
「今まではまだ下級生だったけど、これからは最上級生で部長なわけじゃん?学校の代表っていうか」
「それわかってるなら、キレるなよ」
「そうだけど!気を付けるけどさ……やっぱ気になる。……気になってる」
「何が?」
「成績で言えばお前もほとんど同じじゃん。俺か小川の2択ってなったら、普通は小川なんじゃないの?」
「普通とかよくわかんないけど」
「俺、真剣なんだぞ」
「うん。あくまで俺の意見だけど。俺は大山のこと恰好いいと思ってる」
「……マジ?」
「うん。だって俺が南野谷中で柔道してるのってお前の影響だし」
「そうなの!?」
「うん」
大マジ。中学で柔道はやめようと思ってたんだ。そこそこの成績だしたから、スカウトも沢山あったんだけど、全部断った。
俺に向いてたとは思うんだ。筋力があって、体が柔らかかったし。できないことを練習してできるようにして、試合で勝つっていうのは楽しかった。でも、なんというか熱量が俺にはなかった。
周囲にはケガするの怖いからもうしないって言いまくってたんだけど、最後の大会で見ちゃったんだよ。大山のこと。
強くてうまくて、真剣勝負なのに楽しそうで。この人と一緒にやってみたいかもって思ったんだ。
「え、なんで?俺ら階級も全然違うじゃん」
そんで
「大山のこと見かけたことあってさ」
「いつ?」
「中学最後の大会。そのときに思ったんだ。格好いいなって」
「そんな派手なことしてたか?結構苦戦してたと思うんだけど」
「そういうのじゃなくて、なんていうか。その全体的に?」
「ふーん?」
「この人と柔道してみたいなーって思ったんだよ」
「……そうなんだ」
「だから俺は大山が部長でいいんじゃなくて、大山が部長がいいと思ってる」
「……」
「多分、先輩とか俺と同じこと思ってたと思う。後輩も。言わないけど」
確かに俺も結果は残している。真面目に練習もしているし、部長をやれと言われたら引き受けていたと思う。そしてそれなりにできるとも思う。でも大山にしかできないことがある。
「……そうなのかな」
「そうだよ」
大山、お前には熱があるよ。情熱とか熱血とかそういうの。それってさ。俺にはないんだ。でもお前のくれた熱で俺は動けている。だから部長になるんだったらそういうやつの方がいいと思うんだ。
だって大山、格好いいから。
「大山なら、大丈夫だよ」
「……うん」
「それに……これはいいや」
「なんだよ!?」
大山の柔道好きだし、と言おうとしてやめた。なんだか別の意味も載せてしまいそうだったから。
「そ、そーいえば!大山はなんで柔道始めたの?」
「ごまかしたな!」
「違うよ!」
違わないけど。実は気になってた。聞いたことなかった気がするんだよな。
「大山、他のスポーツもできるじゃん。体育とか見てたらそう思う。なんで柔道?」
「あー……なんか改まって言うと……小川から言え!」
「俺?俺は先生に勧められてやったらできたって感じ」
「なんだそれ!」
「本当にそうなんだから、仕方ないだろ!」
やってみたら、できたってだけなんだって!……今は違うけどさ……。
「いけすかねー!」
「嘘じゃないから!俺はちゃんと言ったぞ。大山は?」
「ん……誰にも言うなよ」
「うん」
「漫画、好きだったから」
「え」
「それ、主役は女の子なんだけど。一番下の階級の子なんだ。でもめちゃくちゃ強くてもっと上の階級の人と戦うんだよ……無差別級とか出るんだぜ?すごくね!?」
「聞いたことある、かも」
「柔よく剛を制すって言うのに、さ。痺れたんだよな。そんで今に至るってわけ。単純だろ?」
「……」
「なんか言えよ!」
「ごめん。そういうのいいなって思って」
「そうか?我ながら単純だなって思うけど」
「いいだろそれで。そういう愛があるから、みんな大山についていくんだよ」
「愛って。お前……」
あ!せっかく流れ変えたのに!
「まぁ、副部長は俺だし。お前がまた暴走したら止めてやるから」
「もうしねぇよ!」
「どうかなー?」
「……あんがと」
「え?」
「なんでもねー!」
やいやい言っていたらあっという間に駅に来てしまった。日はもう落ち始めている。もうすぐ街灯がつく時間だな。
「じゃ。また明日」
「おう……ちょっと待って!」
改札直前で声をかけられた。明日も会えるのになんだ?
「何?」
「さっき何言いかけたんだよ?」
「えぇ!?今よくない!?」
「いや気になる!」
「えーいや、その」
こうなった大山はしつこい。言うしかないか。幸い駅の街灯はまだついてなくて暗いし、顔色とかは見えないだろう。さっと言って逃げてしまおう。
「何なんだよ!?」
「好きだって話」
「は!?」
「あ、いや大山の柔道がっていうか人間性がっていうか……!」
あー順番間違えた!やってしまった!えと、どう修正すれば
「いやその好きなんだけど、好きっていうのはその……」
「え?嫌いってこと?」
「そうじゃない!好きだよ!大山のこと!」
「……マジ?」
あー!?うわー!言ってしまった!引退してから言おうと思ってたのに!やばいやばい!
「あ……いや」
「あのさ」
「ごめん!今の忘れて!じゃ、俺電車くるから!」
「あ、おい!」
俺はすぐに改札の中に駆け込んだ。大山の顔なんて見る余裕なかった。
「小川!」
「ん?」
「これ!」
「うわ!」
大山が何かを投げつけてきた。手のひらサイズのもの。顔面に飛んできたので慌ててキャッチした。
「ナイスキャッチ!」
「危ないだろ!」
「それ!俺の気持ち!じゃまた明日!」
そう言って大山は走って行ってしまった。あっという間に背中は小さくなっていく。足も速いんだよなーあいつ。
この紙なんだ?クシャクシャだけど……。
「え」
◎
え、なにこれどういうこと?あ、さっきの肉まんか!それはわかったけど、これ。どういう意味!?
その後俺は電車の方向を間違えて乗ってしまい、帰ったのは1時間以上も後。親からめちゃくちゃ連絡がきていた。しかも、悶々として眠れなくなり翌朝寝坊。バツとして体育準備室の掃除をしなきゃいけなくなって部活に行くの遅れたんだ……。
だから部活であんなことになっているなんて知らなかったんだよ……。
「よし、お前ら今日も練習するぞ!」
「うす!」
「その前に、ちょっと聞きたいことがある!」
「うす!」
「俺が部長で文句のあるやつはいるか!?」
「いないです!」
「よし!俺は……恰好いいか!?」
「うす!恰好いいっす!」
「よし!じゃあ……俺はかわいいか!?」
「うす!かわいいっす!」
「なんかいろいろ……かわいいっす!」
「何だとお前らー!!」
「部長が言えっていったんじゃないですか!」
「そうですよ!」
「うるせぇ!うるせぇ!」
「小川せんぱーい!助けてくださーい!」
「小川さーん!」
「え?なにこれ?」
「なんで、かわいいのところだけコメント多いんだよ!?おかしいだろ!?」
「はいはーい」
「はーなーせー!」
いやーほんと、かっこわいいなー。大山。
