轟け、響かせトロンボーン! ー仄暗い、それでいて甘酸っぱい、中学生な私たちの青春譚ー

「おはようございまーす」

 そして次の日の朝、私は機嫌よく登校した。今日も部活があるはず。今日の体験入部では何をするのだろうと思いながら、席についた。

 本鈴代わりの「愛のあいさつ」の主旋律――無論、電子音だが――が、学校中に響き渡る。これも「Vitalität」の演奏にしてほしいな……と思いつつ、真衣とのお喋りをやめて席に着いた。
 教壇に立つ教師の平田が、何やら重要そうに生徒たちを見つめてくる。少し騒がしかった皆が、教壇に視線を集中させた。

「さて、中高一貫の生活にも慣れてきただろうし、丁度一か月が経つだろう? そこで今日は……」
「はいはーい、席替え! でしょ、ヒラケン?」

 教師の名前(平田健斗)を呼び捨てにするどころか、一か月であだ名まで作ってしまっているザ・ギャルな女子……それが原本澪だ。自由な校風とはいえ高速ギリギリな衣服の乱し方、全く無駄ではない端麗な顔。
 私の持たざる者を全て持っている代わりに、私の持っているものを全て持っていない代表格ともいえる。
 可愛さというか年齢にそぐわない美しさというか……世の中は世知辛い。

 ――それじゃ私、オジサンみたいだな。

「そうだな。今回はくじ引きだ。だが、次回からは様子を見て先生が決めるぞ」
「えーっ、つまんないですよ」

 皆それぞれに不満が現れているが、不正するつもりだったことは明白だ。

 ――HR前の時間に堂々と話してたら、そうなるに決まってるよね……。

 そうして始まった席替え。皆ノートの端を千切る(集団不正をする)準備をしていたのだが、デジタルくじ引きの導入によりあっけなく終わってしまったようだ。

 ――うわぁ、よりにもよって話したこともない男子が隣って……もう片方は壁だし、忘れ物したら誰に借りればいいの? 後ろは原本さんだし……。

「ウーン……お前、柳亜子だっけ? 吹部かぁ……」
「そ、そうだけど……」

 ――名前覚えられてる!? 私、何かした? もしかして悪名高い誰かと同姓同名とかそういう……。

「ウチの姉も吹部なんだけどさ、キミ高校の吹部目指してるんでしょ? 覚悟しときな、病むよ」

 ――「病むよ」!?

 私が見た限りでは、人間関係は良かった。少し気になるのは練習時間と、顧問の先生と会えなかったことだが……。

「……あっ、ところで君は……?」

 ヘンな話題になりかけて吹奏楽部から話をそらそうと考えに考えた結果、まさかの隣の男子に話しかけるという暴挙に出てしまった。

 ――人見知りじゃなかったの、私? いいえ、人見知りです。

「えっ、僕? ……河月鴻(かわつき こう)。習い事が多かったから帰宅部やってた。……でも、最近はただの帰宅部」
「た、ただの帰宅部……?」
「……そう。習い事を出来なくなっちゃって」

 ――訳アリ? 関わらない方がいいのかな……。

 そう思っても、私の心の隅にある欠片ほどの小ささの良心が邪魔をしてくる。自分自身のほのぼの吹部ライフのためには関わらない方がいいかもしれないけれど……。

 ”不穏な”吹部ライフが、音を立てて幕を開いたような気がした。