死んだはずの俺は言われた。『あなたもその事故の原因です』

現実感のない白い空間で、天使は淡々と話を続けていた。
語られている内容は理解不能なはずなのに、
なぜか、不思議と意味だけは頭に入ってくる。

「まず、ここから進む場所では──」

「皆さんが生きていた状況と“真逆の運命”が付属されます」

……真逆?

意味が掴めないまま、思考が浮かんだ瞬間。

「は? なんの話してんだよ。分かるように言えって」

あのチャラい男が、苛立った声で割り込んだ。

天使は、特に気にした様子もなく応じる。

「あなた方は、第三世界での生を終え、次の世界へと移されます」

「これは“生まれ変わり”ではありません」

「現在の年齢、肉体、すべてを維持したまま移行されます」

「だったら“真逆の運命”ってなんだよ」

男はさらに食い下がる。
声には、わずかに苛立ちが混ざっていた。

天使は淡々と続ける。

「そこで与えられる“授かり物(ギフト)”のことです」

「初期ステータス、と説明すれば理解しやすいでしょうか」

「だから分かりにくいんだよ」

舌打ちでもしそうな勢いだ。

それでも天使は、声色ひとつ変えない。

「簡単に言えば──」

わずかに間を置く。

「これまでの人生で“幸福が大きかった者”は、不幸な状態から」

「逆に“どん底にあった者”は、恵まれた立場からのスタートになります」

……なるほど。

言われてみれば分かるが、
どうにも釈然としないルールだ。

「じゃあさ」

気づけば、俺は口を開いていた。

「良くも悪くもなかった奴は?」

極端じゃない人間なんて、いくらでもいるはずだ。

天使は、わずかにこちらへ意識を向けたようだった。

「その場合は、前回と大きな差のない状態からの開始になります」

「ただし──」

言葉がわずかに重くなる。

「“完全な公平”というものは存在しません」

「誰もが、多かれ少なかれ、不均衡を抱えているものです」

……なんとなく、こちらを見られた気がした。

「そのあたりは、移行先で確認していただくことになります」

「つまり、後は“お楽しみ”ということですね」

軽い調子の言い方。

なのに、妙に逃げ場がない。

「ちょっと待てよ!」

チャラ男が一歩前に出る。

「俺はな、大手ゼネコンの次男坊だぞ?」

胸を張って言い放つその態度に、
思わず呆れかける。

……そういうタイプか。

「で? どうなるんだよ」

当然のように問いかける男に対し──

天使は、ほんの一瞬だけ間を置いた。

「……お察し申し上げます」

その声は、どこか“真顔”だった気がする。

「は?」

空気が一瞬で張り詰めた。

「なんだとコラ!」

昂る男。

だが天使は、微塵も揺れない。

「そもそも──」

静かに、言葉を落とす。

「ここにいる三人は」

「あなたが“生を閉じさせた”結果として集められた存在です」


――は?

思考が、一瞬だけ止まる。

何を言っている?

事故だろ?

あれはただの──

「因果応報、というやつです」


……ちょっと待て。

意味が分からない。

俺が?
俺たちが?

誰かを──?


ふと、横を見る。

チャラ男は怒りで顔を歪めている。

だが。

あの女性は。


何も言わない。

最初からずっと、ただ静かに立っている。

驚きも、怒りも、疑問も見せない。


まるで──

全部、知っているみたいに。


その瞬間、さっきまでなかった“違和感”が、一気に膨れ上がった。


……何かがおかしい。


ここに来て、ようやく。

俺の中に、まともな疑問が浮かび始めた。