ギルドを出た俺は今夜泊まる宿を探して町を歩いていた。
町長から治療の報酬として受け取った金銭で一週間程度は過ごせそうだったので、その間にギルドから新たな仕事を受ければ生活費は稼げるだろうと俺は簡単に考えていた。
当然だろう。制限があるとはいえ、どんな怪我や病気も治療することが出来るのだから依頼がないとは思えなかったからだ。
そう安易に考えていた俺だったが、とんでもない現実を見せつけられることになるとは思いもしなかった。
◆
翌日。宿で朝食を済ませた俺はギルドに足を運び、担当となったリリスに治療依頼がないかを問いかけたのだが、彼女は首を左右に振りながら「ありません」と答えた。
まあ、昨日の今日だ。まだ周知も十分ではないし、緊急性のあるものでなければ飛び込み依頼などはなかなか無いのかもしれない。俺は彼女に「わかりました。何かあればお願いします」と伝えてギルドを出るとそのまま町を散策して過ごす。
その流れを五回繰り返した日、流石に手持ちの金銭が乏しくなったことにより危機感を持った俺はリリスになんとかならないかと頼み込む。
「少しお話をしましょうか」
リリスは俺にそう告げると相談室に案内してくれる。そこで聞かされた内容に俺は溜め息をついた。
「実は、治療に関する問い合わせはいくつかあるんですが、条件が合わない――つまり男性の患者さまであったり、治療方法が受け入れられないとの事で依頼の取り下げをされる方がおられるのも事実です」
リリスはそう話しながら厳しい表情を見せる。彼女としてもなんとか仕事に繋げられないかを模索してくれているのだろう。
「実はさらに悪いことに男性の方々から『男は診れないとかふざけるな!』とか『自分好みの若い女しか治療しないでそうでない時は法外な報酬を要求するクズだ!』とかのデマが流れていて余計に依頼が無い状態になってるんです」
「どうしてそんな事になっているんだ?」
「基本的にはやっかみと不満ですね」
「女性限定なのは女神様のせいだし、別に女性であれば年齢は関係ないんだけどな」
「はい。ナオキさんの言い分は分かります。分かるのですが、この町の人々は病気にしても怪我にしても、もともと薬師が調薬した薬で対応してきた経緯があります。ですので、ほとんど聞いたことのない治癒魔法に対する不安が無いとは言い切れないのが現実なんです」
まあ、リリスの言っていることは間違ってはいない。俺も自分が治療を受ける際に新しい治療方法をと言われても症例が無ければ躊躇しないとは言い切れないからだ。
「では、どうすれば……」
「一介の受付嬢にすぎない私が言う事ではないのかもしれないですけど、この町で仕事をするならば転職をおすすめします」
「転職ですか!?」
「あ、すみません。間違えました。転職ではなくてもうひとつ主となる職業の登録をおすすめします。つまり、治癒魔法士の仕事はたまたま依頼があった時に対応して、日頃は別の仕事で生活費を稼ぐスタイルですね」
「そう言われても俺には治癒魔法しか得意なものが無いからどうすればいいか分からないんだが」
「どんなことでも良いですから、他の人より優れていると感じるものを探しておいてください。それさえ分かればギルドの方で仕事を探してみますので……」
リリスの言葉に僕は唖然としていた。治癒魔法を極めれば多くの苦しんでいる人を助ける事が出来ると思い、今の能力を選んだのに人々は自分が考えているほど万能な治癒など必要ないのだろうか。
「それか……」
俺が悩んでいるとリリスが別の提案もしてきた。
「それか、領都サナールへ行って知名度を上げる努力をするか……ですね。今のナオキさんはいくら治療の腕が良くても知名度がありませんのではっきり言って信用が足りていませんから」
普通、信用を得るには実績を積むことが必要だ。治療も公開で行えばある程度知名度は上がるかもしれないが、患者を見せ物にしているようで気が引ける。
せめて、手足の骨折とかであれば患部に触るだけだからいけるかもしれないが、そう都合よく依頼があるとは思えない。
「そうですね。領都になれば人も各地から集まってくるでしょうし、もしかしたら俺の条件でも治療を受けてくれる人がいるかもしれないな。それならばすぐにでも出発したいと思うが領都に行く方法を教えてくれるか?」
「そうですね。一般的には定期的に乗り合い馬車が出ていますのでお金を払って馬車でいくのが現実的ですね。ただ、領都までは馬車で五日間くらいかかるのでそれなりにお金もかかります。具体的には金貨二枚ぐらいですね」
「き、金貨二枚。ちょっと今の俺には手が出ない金額だな」
俺は馬車の金額を聞いて本気で歩いて行こうかと思い始めていた時、ふとある事を思い出した。
「あの、アイテムボックスって知ってます?」
「アイテムボックスですか? いえ、聞いた事ありませんね。どういったものなのでしょうか?」
リリスは初めて聞く言葉に首を傾げながら俺に説明を求めた。
「アイテムボックスと言うのは魔法で物を別の空間に入れて運ぶ事の出来る能力の事で収納魔法とも呼ばれているものです。これを使って大量の荷物を運んだりする依頼とかってあったりしますか?」
俺はそう言って側にあった植木鉢を収納してみせた。
「えっ!? 植木鉢は何処にいったんですか?」
目を丸くしてリリスが俺に質問する。それに答えるように俺は収納した植木鉢をアイテムボックスから取り出して元の位置に置いた。
「こんな感じで重たい荷物なんかを移動させたい時に使えるんじゃないかと思うんですけど……」
その一連の流れを把握したリリスは「なんですか、そのデタラメな能力は……」と言いながら思い当たる依頼の書類を棚から取り出して準備してくれたのだった。
町長から治療の報酬として受け取った金銭で一週間程度は過ごせそうだったので、その間にギルドから新たな仕事を受ければ生活費は稼げるだろうと俺は簡単に考えていた。
当然だろう。制限があるとはいえ、どんな怪我や病気も治療することが出来るのだから依頼がないとは思えなかったからだ。
そう安易に考えていた俺だったが、とんでもない現実を見せつけられることになるとは思いもしなかった。
◆
翌日。宿で朝食を済ませた俺はギルドに足を運び、担当となったリリスに治療依頼がないかを問いかけたのだが、彼女は首を左右に振りながら「ありません」と答えた。
まあ、昨日の今日だ。まだ周知も十分ではないし、緊急性のあるものでなければ飛び込み依頼などはなかなか無いのかもしれない。俺は彼女に「わかりました。何かあればお願いします」と伝えてギルドを出るとそのまま町を散策して過ごす。
その流れを五回繰り返した日、流石に手持ちの金銭が乏しくなったことにより危機感を持った俺はリリスになんとかならないかと頼み込む。
「少しお話をしましょうか」
リリスは俺にそう告げると相談室に案内してくれる。そこで聞かされた内容に俺は溜め息をついた。
「実は、治療に関する問い合わせはいくつかあるんですが、条件が合わない――つまり男性の患者さまであったり、治療方法が受け入れられないとの事で依頼の取り下げをされる方がおられるのも事実です」
リリスはそう話しながら厳しい表情を見せる。彼女としてもなんとか仕事に繋げられないかを模索してくれているのだろう。
「実はさらに悪いことに男性の方々から『男は診れないとかふざけるな!』とか『自分好みの若い女しか治療しないでそうでない時は法外な報酬を要求するクズだ!』とかのデマが流れていて余計に依頼が無い状態になってるんです」
「どうしてそんな事になっているんだ?」
「基本的にはやっかみと不満ですね」
「女性限定なのは女神様のせいだし、別に女性であれば年齢は関係ないんだけどな」
「はい。ナオキさんの言い分は分かります。分かるのですが、この町の人々は病気にしても怪我にしても、もともと薬師が調薬した薬で対応してきた経緯があります。ですので、ほとんど聞いたことのない治癒魔法に対する不安が無いとは言い切れないのが現実なんです」
まあ、リリスの言っていることは間違ってはいない。俺も自分が治療を受ける際に新しい治療方法をと言われても症例が無ければ躊躇しないとは言い切れないからだ。
「では、どうすれば……」
「一介の受付嬢にすぎない私が言う事ではないのかもしれないですけど、この町で仕事をするならば転職をおすすめします」
「転職ですか!?」
「あ、すみません。間違えました。転職ではなくてもうひとつ主となる職業の登録をおすすめします。つまり、治癒魔法士の仕事はたまたま依頼があった時に対応して、日頃は別の仕事で生活費を稼ぐスタイルですね」
「そう言われても俺には治癒魔法しか得意なものが無いからどうすればいいか分からないんだが」
「どんなことでも良いですから、他の人より優れていると感じるものを探しておいてください。それさえ分かればギルドの方で仕事を探してみますので……」
リリスの言葉に僕は唖然としていた。治癒魔法を極めれば多くの苦しんでいる人を助ける事が出来ると思い、今の能力を選んだのに人々は自分が考えているほど万能な治癒など必要ないのだろうか。
「それか……」
俺が悩んでいるとリリスが別の提案もしてきた。
「それか、領都サナールへ行って知名度を上げる努力をするか……ですね。今のナオキさんはいくら治療の腕が良くても知名度がありませんのではっきり言って信用が足りていませんから」
普通、信用を得るには実績を積むことが必要だ。治療も公開で行えばある程度知名度は上がるかもしれないが、患者を見せ物にしているようで気が引ける。
せめて、手足の骨折とかであれば患部に触るだけだからいけるかもしれないが、そう都合よく依頼があるとは思えない。
「そうですね。領都になれば人も各地から集まってくるでしょうし、もしかしたら俺の条件でも治療を受けてくれる人がいるかもしれないな。それならばすぐにでも出発したいと思うが領都に行く方法を教えてくれるか?」
「そうですね。一般的には定期的に乗り合い馬車が出ていますのでお金を払って馬車でいくのが現実的ですね。ただ、領都までは馬車で五日間くらいかかるのでそれなりにお金もかかります。具体的には金貨二枚ぐらいですね」
「き、金貨二枚。ちょっと今の俺には手が出ない金額だな」
俺は馬車の金額を聞いて本気で歩いて行こうかと思い始めていた時、ふとある事を思い出した。
「あの、アイテムボックスって知ってます?」
「アイテムボックスですか? いえ、聞いた事ありませんね。どういったものなのでしょうか?」
リリスは初めて聞く言葉に首を傾げながら俺に説明を求めた。
「アイテムボックスと言うのは魔法で物を別の空間に入れて運ぶ事の出来る能力の事で収納魔法とも呼ばれているものです。これを使って大量の荷物を運んだりする依頼とかってあったりしますか?」
俺はそう言って側にあった植木鉢を収納してみせた。
「えっ!? 植木鉢は何処にいったんですか?」
目を丸くしてリリスが俺に質問する。それに答えるように俺は収納した植木鉢をアイテムボックスから取り出して元の位置に置いた。
「こんな感じで重たい荷物なんかを移動させたい時に使えるんじゃないかと思うんですけど……」
その一連の流れを把握したリリスは「なんですか、そのデタラメな能力は……」と言いながら思い当たる依頼の書類を棚から取り出して準備してくれたのだった。

