【悲報】異世界転生した救急救命士のチート能力、女性専用車両並みに男性お断りだった件

「――おはようございます。今日は宜しくお願いします」

 次の日の朝、宿の食堂でマヤ親子が俺達に挨拶をしてきた。

 今日は彼女の仕事を探す為に斡旋ギルドへ一緒に行く事になっていたからだ。

「おはようございます。朝食後に向かいますのでもう少しだけ待っていてくださいね」

 リリスはそうマヤに伝えるとちぎったパンを急いで口へと運んだ。

◆

「お待たせしました。では行きましょうか」

 リリスはマヤにそう言うと斡旋ギルドへ向かってゆっくりと歩いて行く。

「それでマヤさんからするとどんなお仕事が無理なく続けられそうですか?」

「前も言ったかもしれませんが、借家も契約解除してしまいましたし、家財もありませんのでやはり住み込みの仕事がありがたいですね。料理やお掃除は得意ですので家政婦の仕事でもあればいいのですが……」

「家政婦ですか……。マヤさん一人ならばあるかもしれないですが小さな娘さんも一緒となると果たして依頼人が何と言うか分からないですね」

 そう答えるリリスの横では足取りのまだまだおぼつかないマリを俺が背負って一緒に歩いていた。

「マリ、ちゃんとお留守番できるよ?」

 母の話を聞いていたマリが心配をしてそう告げる。

「そうね。でも、まだマリは小さいからママが心配になってしまうの。だから仕事をしている間、マリを見ていてくれるところも探したいの」

 マヤは俺に背負われている小さな娘の手を握って優しく微笑んだ。

「何か良い仕事が見つかるといいですね」

 その光景を見ながらリリスがそっと呟いた。

 ――からんからん。

「斡旋ギルドへようこそ……ってリリスじゃない昨日は色々とゴメンね」

 最初に入ったリリスを見つけたダリアが側に来てくれた。

「それで今日はどうしたの?」

「うん。実は用事があるのは私じゃあないの。今日は彼女の仕事を斡旋して貰いたいと思ってね」

「彼女?」

 ダリアの言葉にリリスの影からマヤが横に出て来てお辞儀をした。

「マヤと言います。宜しくお願いします」

「詳しいお話をお聞きしたいので第二受付へお願いします」

 ダリアがマヤを受付カウンターへと案内する。

「では、詳しいお話を伺いますね。リリスも一緒に聞く?」

「ええ、そうさせて貰うわ」

「じゃあ俺とマリちゃんは向こうのカフェで待ってるよ」

 俺はそう言うとギルドに併設されているカフェにマリと向かった。

「――なるほど。小さい子供がいるのと借家の契約を解除した為に住み込みで働かせて貰えるところを探している……と」

「はい。出来れば……」

「うーん。何か特技がありますか?」

「すみません。特殊な技能は持ってないので家政婦か何かでもあればと思いまして……」

 マヤは遠慮がちに要望を伝える。

「うーん、そうですねぇ。小さな子供さんが居るので住み込みでの契約を希望される依頼人の紹介は難しいですね」

「やっぱりそうですよね。どこかに安い家を借りて改めて仕事を探すしかないですよね」

 ダリアの言葉にマヤはちらりと娘の方を見て自分に言い聞かせるように呟いた。

 その時、ダリアの後ろから「ちょっとまちな」と声がかかり、皆が声の主をみるとそこにはラーズが立っていた。

「ラーズギルドマスター。何か良い話があるんですか?」

 ダリアがラーズに声をかけた意図を聞く。

「いやな。お前達が住んでいる女子寮の寮母ヨルンが体力の限界とかで退職をしたいと言って来てるから代わりを募集しようと思ってたんだ」

「えっ!? ヨルンさんが?」

「ああ、どうやらお前達の自由な生活態度に疲れたらしくて暇が欲しいそうだ。ヨルンもいい歳なんだから若いお前達に付き合っていたら腰のひとつも悪くするだろう?で、新しい寮母の募集をするからいい人が見つかったら退職を了承すると伝えてある」

 ラーズはそう言いながらマヤを見て「君、料理や掃除は得意か?」と聞いた。

「はっ、はい。どちらも得意です……というかそれしか出来ないです。ごめんなさい」

「ふむ。何故謝るのか分からないが、そのふたつが満足に出来るのならば試しに寮母をやってみる気は無いか?」

「寮母……ですか?」

「ああ、このギルドに勤務している独身の女子達、主に受付嬢の住んでいる女子寮の管理者兼食堂のシェフだ。もちろん寮内に管理人の部屋があるからやってくれるならばそこに住んで貰う事になる」

 ラーズはチラリとリリスを見ると話を続けた。何かあるのだろうか?

「女子寮だから当然女性しか住む事は出来ないし、管理人も女性で無ければいけないので未婚者か夫を亡くした未亡人に任せる事になる。本来ならば子供は居ない方が良いのだが娘みたいだし、君たちも小さな子供は嫌いじゃないだろ?」

 ラーズはダリアにそう聞くと彼女は「好きです」と笑顔で答えた。

「――と言う事だが、どうだ? やってみる気はあるか? もちろん、研修は受けてもらうぞ。寮母といえどギルド管轄の女子寮だからギルドの職員扱いになるんだから」

「本当に私なんかがやってもいいのですか? 私、そんなに学のある方じゃないし普通の家庭料理くらいしか出来ませんよ?」

「だから研修があるんでしょ。せっかくギルマスが声をかけてくれたんだからやってみると良いんじゃない? 私もギルドに所属していた時はお世話になっていたから分かるけど凄く家庭的でいいところだったわよ」

 リリスもマヤを後押しする。

「私……やってみます。いえ、やらせてください!」

 リリスに後押しされたマヤが決心をする。

「よし! 詳細はこの書類に書いてあるからダリア、処理を頼むぞ」

 ラーズはそう言い残すと自分の部屋に戻っていった。

◆

「――本当にありがとうございました」

 ギルドでの手続きを終え、宿に戻った俺達は夕食を共にしていた。

「まあ、運が良かったと思って頑張ってよね」

「はい。このご恩を忘れずに頑張って務めさせて貰います」

 目を潤ませながら何度もお礼を言うマヤを応援しながら食事を終えた僕達は部屋に戻り、ひと息ついた後でこの後の事について話し合った。

「リリス。あの後、ギルマスからと言って何か渡されていただろ? あれは何だったんだい?」

 その言葉にリリスは一枚の書類を俺に見せて言った。

「今回の件は貸しひとつにしておくからよろしく、だって。マヤさんの件はギルドも助かる事なのにねぇ」

 リリスはそう言いながらもマヤ親子が笑っていたのを思い出し「まあいいか」と笑いながら納得していた。