「本人と保護者の許可をとって眠っている時に治療するというのはどうだろうか? 寝ている女の子の身体に触れるのは絵面的にも倫理的にも少しばかり抵抗があるけど本人が嫌悪感から逃げまくるのを無理矢理に治療するのも辛いと思うからね」
「なるほど!それは良い提案……なんて言う訳ないでしょ!!!」
俺が良かれと思って言った提案はあっさりとリリスに破棄された。
「普通に考えてみなさいよ! 男嫌いの彼女がいくら意識のない寝てる間といっても身体に触らせるなんて話、絶対に許可するはずがないでしょうが!」
「やっぱりそうか……。そうだ!いっそのこと治療方法を黙っておいてなら……」
「既に伝えてあるから無理です」
俺が何を言っても即座に却下されるこの状況で良い案も浮かばず時間ばかりが過ぎていった。
「――時間切れですね。仕方ないですから明日は臨時休業にして対応しましょう」
リリスが「お腹が空いたので今日は終わりです」と締めたので俺とユリナも同意した。
「では、明日。昼の鐘が鳴る頃に連れてきてください」
ユリナにそう伝えるとリリスは台所に入って行った。
「依頼を受けてくださりありがとうございます。すみませんが明日は宜しくお願いします」
ユリナは深々と頭を下げるとギルドへ帰って行った。
「――で、結局どうするのが最適解なんだろうね」
リリスが作ってくれた夕食を食べながら明日の対応の仕方を話し合う。
「まあ、私が先に患部の状態確認してから治療の方法についての説明をして、その後にナオキが面談する流れが良いと思うわ」
「まあ、やっぱりそれが一番無難だろうね。男嫌いというのが本当ならばリリスが話の詳細を聞くしかないだろうし、あまりに難しいようなら治療を諦めてもらう手段も考えなくてはいけないだろうな」
結局のところ無難な選択しか出来ない事にもどかしさを感じながら休む事にした。
◆
次の日の昼下りに診療所の前に馬車が止まり、ユリナに続いてふたりの女性が馬車から降りた。
一応、俺はリリスの聞き取りが終わるまでは顔を出さない方針で診察室へ籠っていた。
「ようこそお越しくださいました。当診療所の受付兼助手をしておりますリリスといいます。始めに診察内容の確認がございますので待合室の方へお入りください」
リリスが三人を待合室へと迎え入れるとユリナがふたりを紹介した。
「こちらが依頼人のアーリー様でお隣の方が娘さんのナナリー様になります。今回、治療して頂きたいのはナナリー様の方で症状は首筋から腹部にかけてのアザの除去、若しくは軽減となります」
ユリナがギルドの依頼書に記載されている内容を読み上げる。
「いくつか確認したい事があるのですが宜しいですか?」
説明が終わるとリリスがふたりに対して質問を投げかけた。
「ええ、どうぞ」
応えたのは母親のアーリーで、娘のナナリーはふてくされた表情で横を向いていた。
――あ、これは娘の方は納得して来てないわね。母親に無理矢理連れて来られたって感じがみえみえだわ。
リリスは心の中で苦笑いをしながら質問を始めた。
「では、アザの方は生まれつきで間違いないですね?」
「ええ、昔はもう少し薄かったのだけど大きくなるにつれて濃くなった気がするのよ」
「見せて頂いても宜しいですか?」
その日のナナリーは黒のハイネックの大きめサイズの服で、出来るだけ肌を見せたくない意思が前面に出ているものだった。
「大変申し訳ないのですが、治療箇所の確認が出来なくては治療のしようがありませんのでこちらの診察着に着替えて頂けますでしょうか?」
時々ではあるが、そういった患者が来ることもあったのでリリスはサイズ別に何着も診察着を準備していた。
「本当に治療を受けないといけないの?」
ここでようやくナナリーが母親に対して不満をあらわにした。
「先日も話したけれど、あなたは成人を迎えたので今後は公の場に出る機会が増えます。そのほとんどで胸元の開いたドレスを着用することになるわ。その際に気にしなくてもいいようにアザの除去をお願いに来たの。あなたも理解して了承したと思ってたのだけど……違ったかしら?」
アーリーは娘の煮えきらない態度に丁寧な言葉遣いでありながらジワジワと圧力をかけていった。
「ママの言ってる事は頭では分かってるけれど治療をするのは男の人なんでしょ? それに何?『胸を触って治療する』とかただの変態じゃないの」
ナナリーの言葉に反応したのはリリスだった。
「ナオキの治療は患部に触れるだけ、今回は傷跡が首筋から腹部にかけてなのでその中心となる胸部に触れるのは必然。その重要性は説明した筈です」
「そ、それでも――」
ナナリーはリリスの反論に怯みながらもさらに自らの経験したことを感情のままに吐き出す。
「それでなくても前にママが連れてきた魔術士の男に『傷を確認します』と言って私の胸をジロジロ舐め回すように見て『傷を触ってみても?』と胸も揉まれたし! しかも結局『生まれつきのアザは回復魔法では治せません』と言って帰ったじゃない!」
その魔術師の男、よく処罰を受けなかったな。俺がそんなことを考えているとアーリーがそんな俺の考えを見透かしたように口を開いた。
「だから彼は二度と魔術師として仕事が出来ないようにギルドから締め出してあげたでしょ」
まあ、話を聞けば当然の処置とも言えるかもしれないが、俺も気をつけないとな。
しかし、これが男嫌いの根源か……。確かにそんな男に当たったら男嫌いになってもおかしくないか。まだ成人したばかりと言ってたから十五歳だしな。
「では、確実に治る保証があればどうですか? 確かに当治癒師の治療方法は女性の患部に触れますが『本当に治療に必要な行為』ならば許容出来ませんかね?」
終始不機嫌に拒否の言葉を口にするナナリーにリリスは説得を続ける。
「当診療所としましても女性が困っている、苦しんでいる状態を改善したいとの信念で開業しております。その主旨を汲み取って頂けるならば治療をお受けいただきたいと思いますが、それでも拒絶されるならば仕方ありませんのでお引取りを願う事になります」
リリスの言葉巧みな説得にナナリーが反応する。
「確実に治るって保証はどう証明するのよ?」
その言葉を待っていたとばかりにリリスが奥の手を提案したのだった。
「なるほど!それは良い提案……なんて言う訳ないでしょ!!!」
俺が良かれと思って言った提案はあっさりとリリスに破棄された。
「普通に考えてみなさいよ! 男嫌いの彼女がいくら意識のない寝てる間といっても身体に触らせるなんて話、絶対に許可するはずがないでしょうが!」
「やっぱりそうか……。そうだ!いっそのこと治療方法を黙っておいてなら……」
「既に伝えてあるから無理です」
俺が何を言っても即座に却下されるこの状況で良い案も浮かばず時間ばかりが過ぎていった。
「――時間切れですね。仕方ないですから明日は臨時休業にして対応しましょう」
リリスが「お腹が空いたので今日は終わりです」と締めたので俺とユリナも同意した。
「では、明日。昼の鐘が鳴る頃に連れてきてください」
ユリナにそう伝えるとリリスは台所に入って行った。
「依頼を受けてくださりありがとうございます。すみませんが明日は宜しくお願いします」
ユリナは深々と頭を下げるとギルドへ帰って行った。
「――で、結局どうするのが最適解なんだろうね」
リリスが作ってくれた夕食を食べながら明日の対応の仕方を話し合う。
「まあ、私が先に患部の状態確認してから治療の方法についての説明をして、その後にナオキが面談する流れが良いと思うわ」
「まあ、やっぱりそれが一番無難だろうね。男嫌いというのが本当ならばリリスが話の詳細を聞くしかないだろうし、あまりに難しいようなら治療を諦めてもらう手段も考えなくてはいけないだろうな」
結局のところ無難な選択しか出来ない事にもどかしさを感じながら休む事にした。
◆
次の日の昼下りに診療所の前に馬車が止まり、ユリナに続いてふたりの女性が馬車から降りた。
一応、俺はリリスの聞き取りが終わるまでは顔を出さない方針で診察室へ籠っていた。
「ようこそお越しくださいました。当診療所の受付兼助手をしておりますリリスといいます。始めに診察内容の確認がございますので待合室の方へお入りください」
リリスが三人を待合室へと迎え入れるとユリナがふたりを紹介した。
「こちらが依頼人のアーリー様でお隣の方が娘さんのナナリー様になります。今回、治療して頂きたいのはナナリー様の方で症状は首筋から腹部にかけてのアザの除去、若しくは軽減となります」
ユリナがギルドの依頼書に記載されている内容を読み上げる。
「いくつか確認したい事があるのですが宜しいですか?」
説明が終わるとリリスがふたりに対して質問を投げかけた。
「ええ、どうぞ」
応えたのは母親のアーリーで、娘のナナリーはふてくされた表情で横を向いていた。
――あ、これは娘の方は納得して来てないわね。母親に無理矢理連れて来られたって感じがみえみえだわ。
リリスは心の中で苦笑いをしながら質問を始めた。
「では、アザの方は生まれつきで間違いないですね?」
「ええ、昔はもう少し薄かったのだけど大きくなるにつれて濃くなった気がするのよ」
「見せて頂いても宜しいですか?」
その日のナナリーは黒のハイネックの大きめサイズの服で、出来るだけ肌を見せたくない意思が前面に出ているものだった。
「大変申し訳ないのですが、治療箇所の確認が出来なくては治療のしようがありませんのでこちらの診察着に着替えて頂けますでしょうか?」
時々ではあるが、そういった患者が来ることもあったのでリリスはサイズ別に何着も診察着を準備していた。
「本当に治療を受けないといけないの?」
ここでようやくナナリーが母親に対して不満をあらわにした。
「先日も話したけれど、あなたは成人を迎えたので今後は公の場に出る機会が増えます。そのほとんどで胸元の開いたドレスを着用することになるわ。その際に気にしなくてもいいようにアザの除去をお願いに来たの。あなたも理解して了承したと思ってたのだけど……違ったかしら?」
アーリーは娘の煮えきらない態度に丁寧な言葉遣いでありながらジワジワと圧力をかけていった。
「ママの言ってる事は頭では分かってるけれど治療をするのは男の人なんでしょ? それに何?『胸を触って治療する』とかただの変態じゃないの」
ナナリーの言葉に反応したのはリリスだった。
「ナオキの治療は患部に触れるだけ、今回は傷跡が首筋から腹部にかけてなのでその中心となる胸部に触れるのは必然。その重要性は説明した筈です」
「そ、それでも――」
ナナリーはリリスの反論に怯みながらもさらに自らの経験したことを感情のままに吐き出す。
「それでなくても前にママが連れてきた魔術士の男に『傷を確認します』と言って私の胸をジロジロ舐め回すように見て『傷を触ってみても?』と胸も揉まれたし! しかも結局『生まれつきのアザは回復魔法では治せません』と言って帰ったじゃない!」
その魔術師の男、よく処罰を受けなかったな。俺がそんなことを考えているとアーリーがそんな俺の考えを見透かしたように口を開いた。
「だから彼は二度と魔術師として仕事が出来ないようにギルドから締め出してあげたでしょ」
まあ、話を聞けば当然の処置とも言えるかもしれないが、俺も気をつけないとな。
しかし、これが男嫌いの根源か……。確かにそんな男に当たったら男嫌いになってもおかしくないか。まだ成人したばかりと言ってたから十五歳だしな。
「では、確実に治る保証があればどうですか? 確かに当治癒師の治療方法は女性の患部に触れますが『本当に治療に必要な行為』ならば許容出来ませんかね?」
終始不機嫌に拒否の言葉を口にするナナリーにリリスは説得を続ける。
「当診療所としましても女性が困っている、苦しんでいる状態を改善したいとの信念で開業しております。その主旨を汲み取って頂けるならば治療をお受けいただきたいと思いますが、それでも拒絶されるならば仕方ありませんのでお引取りを願う事になります」
リリスの言葉巧みな説得にナナリーが反応する。
「確実に治るって保証はどう証明するのよ?」
その言葉を待っていたとばかりにリリスが奥の手を提案したのだった。



