【悲報】異世界転生した救急救命士のチート能力、女性専用車両並みに男性お断りだった件

「ここはカルカルの町だ。この辺りでは領都を除けば一番大きい町で大抵の物は揃っているぞ。この町に入るには東西にある門で身分証を提示する必要があるぞ」

 御者の男性は町の門前に馬車を移動しながら教えてくれる。

「今日は私たちと一緒に門を通るので問題ないが、中に入ったら身分証を取得しておくことだ。特にこの町を拠点にするつもりならなおさらだな」

「身分証はどこで発行してもらえるんですか?」

「一番簡単なのはギルドに所属して発行してもらう事だ。他の方法は……無くはないけどおすすめは出来ないかな」

「分かりました。ところでこの馬車は何処に向かっているんですか?」

「この馬車の行き先かい? それは町長様のお屋敷だよ。あの地で保護した者は必ず町長様のお屋敷に案内することが町に住む住人の間では義務になっているからね」

「えっ? いきなり町長さんと面会なんて、突然尋ねて行っても大丈夫なものなんですか?」

「ああ。義務だと言っただろ? まあ、気さくな方だからそんなに気負わなくても心配ないぞ。そら、お屋敷が見えてきた」

 僕を乗せた馬車はひときわ大きな屋敷の前に停車すると門番をしている男がすぐに駆けつけてくる。

「迷い人をお連れしたので町長様に面会をお願いしたい」

 御者の男性が門番に告げると門番の合図で案内担当であろう女性が馬車の前にて待機をする。

「では、あなたはその女性について行ってください。私は主人を家にお連れしてから説明のために後ほど出向きます」

 御者の男性はそう告げると俺を降ろしてから馬車を発車させた。

「お疲れでしょう。町長をお呼びしますので部屋で休まれてください」

 彼女は俺を応接室に案内すると町長を呼ぶために部屋を出ていく。その後ろ姿を眺めながら俺は町長の人物像を想像する。

 御者の男性からすれば気さくな人だと話していたが、実際に会ってみないと分からないからな。不味い、緊張してきた。

 俺は緊張をほぐすために出された紅茶に口をつけて一口飲み込む。その時、カチャリと音がしてドアが開くと男性の声が聞こえた。

「お待たせしましたかな?」

 そこには恰幅の良い頭の薄い中年……ではなくビシッとしたフォーマル服に身を包んだ壮年の男性が立っていた。

「私が町長のバルドです。数年ぶりの迷い人が現れたと聞き屋敷に呼ばせて貰ったのだよ。少し話をしてもいいかな?」

「あ、はい。もちろんです」

 権力者である彼だが特に上から目線で話す威圧的な様子もなく穏やかな口調でいくつか質問をしてくる。

「まず、名前を聞いてもいいかい?」

「ナオキといいます」

「では、ナオキ殿。君は神木の地に現れた迷い人である自覚はあるかね?」

「迷い人ですか? その表現はよく分からないですけれど、気がついたらあの場所にいたことは事実です」

「なるほど。では、神と会ったことがあるかね?」

「おそらく。美しい女性に出会い、自らを女神と名乗っていました」

 俺は普通ならば突拍子もない話に鼻で笑われるだけだと思っていたが、バルドは神妙な顔つきで何かを考えていたが「やはりか……」と呟いた後、話を続けた。

「今の話で君は神の選定に遭ったであろう事が分かった。非常に珍しい事ではあるが過去にも数例の事案があり、その者達は皆『神の祝福』を授かっていた」

「神の祝福……」

「おそらく君にも何かしらの祝福を授かっていると思うが、何か心当たりはないか?」

「女神様からは医療に関する知識とスキルを頂きました。ただ、女神様の話では彼女の担当である女性にしか効果がないそうです」

 俺は隠しても仕方ないと正直に答えるとバルドは首を傾げて何かを考えていた。

「医療系のスキルとはどういったものなのかね? あと、女性にしか効果がないとは一体どういうことなんだい?」

「その名の通りですよ。怪我や病気を治せる魔法スキルで女性限定効果の範囲は女神様が決めたことなので……」

 魔法スキルで治療するのは一般的ではないのだろうか、町長はしきりに首を捻っている。

「医療系の魔法――治癒魔法とは怪我や病気を魔法で治す手法の事ですけど、そんなに一般的ではないのですか?」

「ああ、怪我や病気の治療は薬師に調薬してもらった薬を使うのが一般的だ。もちろん万能薬などある訳ないので効果は限定的だがな。もしかして、その治癒魔法というのは高い効果があるのかい?」

「おそらくですが、今使われている薬より効果は高いのではないかと思います」

 実際は高いどころではないのだが、薬の効果がどれくらいか分からない段階で大風呂敷を広げる訳にはいかない。

「ほう、それは実際にこの目で見てみたいものだな。ふむ、屋敷に誰か怪我をしているか不調の者はいたかな?」

「そうですね。侍女のミリーが昨日より体調を崩して休んでおりますが……」

 後ろに控えていた女性がバルドの言葉に応える。

「ミリーは薬を飲んで休んでいたのではなかったか?」

「はい。ですが、まだ回復の兆しが見られませんので……」

「確か、ミリーは君の妹だったな。心配なのは当然の事だろう」

 バルドはそう言うとすぐに俺の方へ顔を向け、治療の依頼を打診してきた。

「どうだね。君が治癒士ならばミリーの状態を見てやってくれないか? もちろん、報酬は出させてもらうよ」

 バルドの願いは俺にとってもラッキーなもので治癒魔法スキルの経験を積める貴重な機会になりそうだった。

「はい。全力で治療にあたらせていただきますので宜しくお願いします」

 俺はジッと自分の手を見てグッと握るとそう誓いの言葉を口にしたのだった。