【悲報】異世界転生した救急救命士のチート能力、女性専用車両並みに男性お断りだった件

 とりあえず初っ端から叩かれるフラグを回避した俺はその後、無料診察で十数人の治療を行った。

 年齢は幼女からおばあさんまで色々だったが大きなトラブルもなく初日を終える事になった。

「なんとか初日が終わったぁ! 治療自体はそれほど大変では無かったけれど、やっぱり治療方法の説明や実際に治療する段階で難色を示す人がいてリリスさんには手間をかけたね」

 最後の患者が治療を終えて俺にお礼を言っているところへリリスが診療所の入口の札をCLOSEDに変えた。

「お疲れ様でした。もういい時間ですから今日はこれくらいにして夕食に行きませんか? なんかバタバタしてたらお腹がすいてきちゃいましたし」

 気がつけばもう夕の刻の鐘が鳴ってから随分過ぎていた。

「本当だ。忙しくしてたら時間がたつのが早いですね。俺もお腹が空いたので何か食べに行きましょうか」

 そう言うと俺はリリスと共に街の食堂へと向かった。

「このお店の料理が美味しいと評判らしいですよ」

 あるお店の前で立ち止まり、リリスが俺に教えてくれる。

「詳しいんですね。俺なんかはそう言った情報には疎いんで看板とかで目についた食堂にふらっと入るのが当たり前になってるから当たり外れが結構あるんですよね」

「まあ、ナオキさんはそんな雰囲気をしてますよね。治療の事以外はこだわりが薄いって感じが……ね」

「そうですか? 自分ではあまり気にした事ないですけど……」

 俺は頬を掻きながらリリスに答えた。

「あっ、別にそれが悪いって訳では無いんですけど、診療所という『営利を必要とする業務』を開業したからには正当な報酬を得て街に税を納めなければならない義務が発生した事をきちんと認識して頂ければ問題無いですよ」

 つまりはいつまでも無料で治療をするわけにはいかないと言われているんだよな。確かに今はふたりで決めた方針で無料診療をしてるけど少しは儲けないと彼女に払う報酬も必要になるわけだし。

「分かってますよ。何事も適正な対価は必要ですから、気づいた事があればどんどん意見をお願いしますね」

 俺はリリスにそう伝えると食事処のドアを開けたのだった。

◆

「――噂どおりに美味しいお店でしたね」

 食事を終え、家に帰りながらお店と出された料理について討論を繰り返した。

 変わった料理が多かったので初めて食べる味に色々な感想が飛び交ったが意外なお互いの好みの味が知れて楽しかった。

「リリスさんって意外と辛い物がイケるんですね。お酒もイケる口だし、なによりも美味しそうに食べる表情がいいですね」

 こちらの世界では十五歳が成人基準だそうで、当然お酒も十五歳から認められている。彼女も成人して就職してから付き合いで呑むようになったそうだ。

「まあ、お酒は付き合い程度ですけどね。基本的に一人で呑む事は無いですよ」

「あまり呑みすぎて身体を壊さないでくださいね。あっ、でも体調が悪くなったら俺が治しますから教えてください」

 俺は自然にリリスの身体を気遣っただけだったがリリスは顔を赤らめて「えっち」と小さく呟いた。

「――帰ったら今日の反省とこれからの事について打ち合わせをしますよ」

 その後でリリスは場の雰囲気を変えるように突然仕事モードに切り替えて逃げるかのように診療所兼自宅に向かった。

◆

「では、反省会を始めます」

「えっ!? 本当にやるんだ?」

「当然です。検証と検討の繰り返しが明日の成功を導くのですよ」

 自宅に帰った俺達は反省会を本当に始めていた。リリスは本当に真面目で勤勉な所が評価されてこの歳でギルドの受付嬢に抜擢されていたそうだ。

「お酒も入ってるから無理のないように短時間で終わらせよう」

 俺はそう言い、彼女の話に特に反論せずに静かに聞いていた。

「――今日の反省点と明日の方針はこのくらいでいいわね」

 およそ三十分程でリリスの話は終わった。思ったより長かったけどこれでようやく休めそうだ。

 俺がそう思った時、リリスが怪しげな表情で「悪いけど、これから私の検証に付き合ってくれないかな?」と言ってきた。

 そして、俺の同意を取る前にリリスは着ていた上着をそっと脱ぎはじめた。

「なっ!? 何をしてるんだ?」

「何?って『検証』に決まってるでしょ?」

「検証って何をするつもりなんだよ?」

 慌てる俺の言葉をスルーしてリリスはいきなり俺の右手を掴んで自分の胸に押し当てた。

「なっ!?」

 驚く俺にリリスは「早くしなさいよ」と命令する。

「えっ!? ええっ!?」

 右手にはリリスの感触がはっきりと感じられてどうしていいのか分からない俺は思わずリリスを抱きしめようと左手を彼女の後ろに回そうとした瞬間、リリスが次の言葉を叫んだ。

「早く《《治癒魔法をかけて》》と言ってるの!」

 ピシッ

 その時、俺の中で高まった気持ちがフリーフォールに乗ったようにその場に置いてきぼりにされたまま落とされていった。

「あ、ああ」

 俺はやっとそれだけの言葉を絞り出してから彼女の望む言葉を続けた。

「完全治癒(ヒール)」

 リリスが何を対象に治癒魔法を試したかったのか分からないまま唱えた言葉はその効果が何かに作用している事を示すように魔力の注入が始まっていた。