【悲報】異世界転生した救急救命士のチート能力、女性専用車両並みに男性お断りだった件

 ミリーナの雰囲気に分が悪いと感じた俺はふたりに座るように促してから飲み物を注文した。

 真剣な表情のミリーナに対していつもの笑顔を崩さないリリス。ふたりの議論が始まろうとしていた。

「リリスさん。ナオキさんの依頼の受付をされたのはあなたですよね? たしか、あなたはカルカル斡旋ギルド担当の受付嬢ですよね? それがどうして領都サナール斡旋ギルドに依頼した案件を処理出来たのかしら?」

「それは、私が領都ギルドに研修目的で来ていたのがひとつ、そしてカルカルギルドのマスターからナオキさんが困っていたら手伝ってあげるようにとの命令を受けてたからですね」

「なるほど。その件は後でギルドに確認を取りますが一応分かりました。では、次にギルドの受付嬢は依頼者の依頼を個人的に受ける事は出来ない規則についてはどう申し開きをされますか? こちらはあなたが個人的にナオキさんの依頼を受けていると認識していますよ」

 ミリーナの追求に涼しい顔でリリスが答えた。

「ああ、やっぱりそうなりますよね。さっき本部でも同じ言葉を言われましたので『認めてくれなければギルドを辞めます』と言ったら……」

「言ったら……?」

「『どうぞ辞めて頂いて結構です』と言われたので辞めてきちゃいました(笑)」

「………はぁ!?」

 俺は彼女が何でもないことかのように笑って答えるので心配になりリリスに聞いた。

「それって俺のせい……だよね」

 笑っているリリスを見ると胸が痛くなるが何故か彼女には悲壮感が無かった。

「そうですか。それでギルドを辞められてこれからどうされるのですか?」

 話を聞いていたミリーナがリリスに問う。

「そうね。折角だからこの診療所で雇って貰おうかな。責任とってもらえるそうだしね」

 リリスはそう言うと俺に向けてウインクをひとつした。

「まさか、本当にギルドを辞める事になるとは思わなかったんだけど、本部の偉い人の頭が堅くて何を言っても通らなかったのよね。カルカルギルドのマスターには悪い事しちゃったからこっちが一段落したら一緒に謝りに行ってくださいね」

 リリスはぶちぶちと愚痴を言い始めたが『後悔はしていない』とばかりに終始笑顔だった。

「あなたがそう決めたのでしたら特にありませんが、もしギルドに戻りたいならば私から旦那様に報告してギルドにとりなしてもらう事も出来るかと思いますが……必要は無さそうですね」

 ミリーナは溜め息をついてリリスに確認するが無駄だと悟ってすぐに諦めた。

「分かりました。では、診療所の開業にはリリスさんがサポートされると言う事で報告をしておきます。開業の日にちが決まりましたら必ず知らせるようにお願いします。では、私はこれで失礼しますね」

 ミリーナはそう言うと報告する為に伯爵邸へと帰って行った。

「さあて、私達も役所に行きますか」

 リリスは元気な声で俺を促す。

「なんですか? その顔は……。もしかして、私がナオキさんを手伝ってギルドを辞めたのを後悔してると思ってるのですか? だったら心配しないでください、確かにギルドの受付嬢もいろんな人と出会えて楽しかったですけど、ナオキさんと出会ってもっとあなたの事を知りたいと思ったらギルドの受付でおとなしく立ってるだけなんてつまらなく感じてしまったのですから」

「すまない。俺をそこまで評価してくれて嬉しいよ。できるだけ期待に応えられるように頑張るからこれから宜しくお願いします」

 俺がそう告げるとリリスは満面の笑みを見せながら答えた。

「宣伝、事務、接客、お金の管理までなんでも任せてくれて大丈夫よ。しっかり稼がせてもらいますからね」

「法外な報酬は取らないぞ」

「分かってますって。取るのは生活に余裕のある人達からにするから心配しなくても大丈夫よ。あ、それと診療所が完成したら私も住み込みにして貰うからね。余計なお金は出来るだけ使わないようにしないとなかなか貯まらないからね」

「そんなにお金を貯めて何か買いたいものでもあるのか?」

「今は特に無いけど必要な時にあると無いとじゃお金の価値が変わるからね」

「意外としっかりしてるんだな」

「でしょ? いい奥さんになれるかな?」

 リリスはしれっと爆弾を投下していく。

「そっ、そうだななれるんじゃないかな……」

 俺はなんとなく曖昧な返事を返しておいた。それが爆弾だとは気が付かずに……。

「まあ、それは置いといて役所に行かないか?」

「そうね。さっさと開業の手続きをして仕事をしないとあの石頭たちのせいで無職になってしまったからね」

 あれだけ機嫌の良かったリリスが急に声のトーンを下げあからさまに不機嫌になったのを感じて、やっぱり俺は女性の扱いが下手なんだなと反省していた。

 その後、役所にて必要な手続きを完了した俺はリリスにお礼という名目で甘いお菓子を贈ったら「仕方ないわね。今はこれで誤魔化されてあげるわ」と言って機嫌をなおしてくれた。

 良かったと心の底から本当に思った瞬間だった。