【悲報】異世界転生した救急救命士のチート能力、女性専用車両並みに男性お断りだった件

「――ここはどこだ?」

 女神様から強制的に送り出されたのち、気がつけば大きな樹の下に寝転んでいた。視線を周りに向けるが人の気配などはなく、鳥が鳴く声が空に響くだけだった。

「そういえば身体はどうなったんだ?」

 女神様の話だと元の世界での身体は焼け焦げて無残な姿になったと聞いた。だが、この世界に転生する際に俺の記憶から身体を再生してくれると言っていたはずだ。

「おおっ、どこも痛くないし、手足もちゃんと動く。鏡が無いから顔までは確認出来ないが見える範囲は問題ないし、動作も大丈夫そうだ。訓練で鍛えた肉体がそのままなのはありがたいな」

 俺は一通り身体の調子を確認すると女神様の言葉を信じて荷物を探す。だが、周りを見回してもそれらしいものは見当たらない。

「おかしいな。荷物も一緒に送ると言っていたはずなんだけど。まさか、慌てて俺だけ送ったなんてことはないよな?」
 
 俺は少しばかり焦りだす。

「こんなところに荷物もない状態で放り出されたら速攻で餓死してエンドじゃないか」

 そう思い始めたとき、ポケットに違和感を覚えて手を突っ込む。

「なんだこれ? 緑の石?」

 ポケットから出てきたのは直径三センチほどの緑色の石。それをつまんでジッと見ると急にめまいを起こしたような感覚となる。

「うわっ!?」

 次の瞬間、俺の頭の中に大量の記憶が流れ込んで来たのだ。女神様がくれた祝福の使い方やこの世界の大まかな情報など、必要なことが手に取るように理解出来ていた。

「……これは凄いな」

 そう呟きながら俺は記憶に刻み込まれた言葉を発する。

「――アイテムボックス」

 その言葉に反応するように俺の目の前に小さなブラックホールのような穴が現れる。そっと手をいれると中に入っている物が頭の中に整理された状態で浮かぶ。

「なるほど。こうやって中身を取り出すのか」

 俺はアイテムボックスからパンと水筒を取り出すとその場に座り込んでパンを口にする。現代日本のようなふわふわのパンではないが、岩みたいなゴツゴツほど酷いものではなくて安堵の息をつく。

「しかし、アイテムボックスか。ファンタジーって凄い便利だな。重たい荷物を抱えて行く必要ないし、盗まれる危険もない」

 俺は女神様の祝福に感心しながら記憶の中にある一番重要である治癒スキルについて理解を深めていく。

「あのとき女神様から聞いた内容とそれほど違いはなさそうだ。あとは本当に手を添えるだけで怪我や病気が治せるのかだが、こればかりは女神様を信じるしかないか」

 パンを食べ終わった俺はこれからの行動をすべく、その場に立ち上がる。

「さて、これからどうするか。食料はそれなりにあるみたいだけど、どこかの町か村にでもたどり着かないとずっと野宿生活を送らないといけなくなるからな」

 俺はそう呟くとぐるりと辺りを見回す。すると少し離れた場所に一本の道があるのが見えた。

「道があるならなんとかなりそうだな」

 俺は見つけた道に向かって歩き出すと、ものの数分ほどで馬車が通れそうな幅の道に辿り着いていた。

「さて、どちらの方向が正解か」

 ここが町を繋ぐ街道であると仮定するならば町に近い方向へ向かいたいのは当然の心理だ。

 どうせなら馬車でも通りかかってくれれば最高なんだが、こんな何もない道をこのタイミングで通りかかる幸運なんてあるはずがないだろう。普通であれば……。

 ―――ガラガラガラ

「やはり来たか。まあ、お約束だな」

 俺が道のすぐ側で休んでいると通りかかった馬車から声がかかる。

「――こんな場所に旅人とは。なにかお困りですかな?」

 御者の男性は馬車を止めたまま俺の返答を待ってくれている。ここは正直に話した方が良さそうだ。

「気がついたらこの近くにいたんですが、ここはどこでしょうか?」

「なるほど、迷い人ですか。少し待っていなさい」

 俺の話を受けて御者の男性は馬車に乗っているであろう主人になにかを話しかけている。この通りがかった馬車が女神様の意思であれば問題なく受け入れてくれるはずだ。

「君、町に行きたいのだろう?」

 主人と話し終わった御者の男性は俺にそう問いかけてくる。ここは当然ながら肯定しておく。

「はい」

「ならば、私の横に乗るといい。さすがにご主人と同じ馬車には乗せられないからね」

「ありがとうございます」

 俺は礼を言うと御者台に座る。御者台は二人が座れる大きさがあり、俺は初めて乗る馬車に内心興奮していた。

「――しかし、よく俺みたいな旅人を乗せてくれましたね」

 馬車で暫く進んだころ、俺は素朴な疑問を御者の男性に投げかけた。すると男性は優しい笑みを見せて話してくれた。

「君が気がついたのは大きな樹があるところだろ? あの樹はこの辺りでは有名な神木で過去にも記憶の曖昧な旅人が保護された事があるのです。言い伝えによると『神界と繋がっている場所』とも言われています」

 御者の男性が話を続ける。

「そういった経緯もありますので、君のような見慣れない服装の方と出会った時は町へお連れする。この辺りを通る馬車の御者ならば皆が知っている話です」

 やはり、この馬車は女神様が手配したイベントなのだろう。いくらなんでも知らない者に対して寛大すぎる。

 その後、馬車は途中で少し長めの食事休憩に川辺に停車した。御者の男性は馬車に乗っていた主人たちを丁寧に降ろしてから食事の準備を始める。その慣れた様子から執事を兼務しているのだろうと感じた。

「君は食事は大丈夫かい?」

 カバンも持っていない俺を心配してか馬車から降りてきた少々恰幅のよい男性が声をかけてくれる。

「あ、はい。お気づかいありがとうございます。一応ですが、パンはありますので大丈夫です」

 正直、パンと水だけでは味気ないが旅の途中は基本的にそんなものなのだろう。馬車での移動である彼らもパンと携帯できる干し肉など簡易な食事をしていた。

「――お名前を聞いてもよろしいかな?」

 恰幅のよい男性は優しい笑みを浮かべながら問いかけてくる。特になにかを探る意図は見られず、少しだけの話題としているだけに見える。

「ナオキといいます」

「ナオキ殿ですね、良い名前だ。ナオキ殿はどのような職種を生業にされているのですかな?」

「医療系の仕事を少しだけ……」

「ほう。治癒士というわけですな。それはいい、これから向かう町は治癒士が足りていないので歓迎されることでしょう」

 これはいい情報だ。いや、この状況も女神様の手の上かもしれない。だけど、仕事にあぶれないとなれば当面の生活も安定させられるに違いない。

「ああ、町で仕事を探すにはお仕事ギルドという斡旋所を訪ねるといい。きっといい職場を紹介してくれるだろう」

「貴重な情報をありがとうございました。町に着いたら早速行ってみる事にします」

 俺が彼に礼を言うとちょうど休憩も終わったようで馬車はまたゆっくりと走り出した。

「基本的に迷い人は特殊な能力を持ってこの地に現れると言われています。君がそうだとは言わないけれど、もしもそうであれば町の人々のために力を貸してくれるとありがたいと思う」

 御者の男性は俺の方を見ることなく真っ直ぐに先を見ながらそう話してくれる。これも俺みたいにこの世界へ来た者が真っ直ぐに生きられるようにとのアドバイスなのだろうと感じて素直に頷いたのだった。

「町が見えたぞ。もう少しだ」

 陽の光が西に沈む少し前、空が夕焼けに染まる中で見た町の姿はとても綺麗で俺の新たな生活の始まりを楽しみにさせてくれたのだった。