魔族の娘と盲目の王子

 しかしラビーネの鏡を見ながらの発言が、全てを壊してしまいました。

「え〜と、なになに。この薬草は医薬的効果は認められない。分類は雑貨か……えっ、雑貨なのこれ!?」

 初めて知った事実に、言葉を失い、鏡と薬草を交互に見つめます。

 少女の手の温もりに女神の面影を見ていたはずの騎士ブラウンでしたが、あまりに現実的すぎる魔界の鑑定結果に、深い困惑の表情を浮かべたまま、無言でそっと目を閉じました。
 
 ふと、ラビーネの視線が王子の瞳に注がれました。

 その瞳は、どんな宝石よりも美しく開いているのに、踊る木漏れ日の光さえ追いかけることはありません。

 ラビーネはそこで初めて気づきます。

「王子様……もしや、あなたは光が見えていらっしゃらないの?」

 ラビーネの震える問いに、ブラウンは静かに頷きました。

「そうです。王子は、この世のまやかしの光を見ぬ代わりに、心の目ですべての真実をご覧になる。……私が今日まで」

 ブラウンは一度言葉を止めました。
 しかし、ラビーネの慈悲深い顔と、手当てされた自身の腕が視界に入ると、堰を切ったように言葉を続けました。

 ブラウンの語る声は、まるで古い教会の鐘が、夕闇の中に響き渡るような重みを持っていました。

「私はかつて、この国で泥にまみれ、(うと)まれた異民族の男でした。罪もなく捕らえられ、冷たい断頭台の上で、己の運命を呪っていたのです。鋭い刃が首筋に触れ、死の冷気が這い寄ったその時でした。まだ小さな雛鳥のようだったリノス王子が、私の前に立ちはだかったのです」