ニナのきせき

 私は数分前から今まで、深い森で大勢の魔物と戦い続けています。
 なぜ戦わざるを得なくなったかと言うと、次の国へと向かうために森に入ると、同い年くらいの少年が魔物たちに襲われかけていて逃げていくのを見かけたからです。

「数が多すぎるわ……。ちょっと大袈裟に魔法を使ってみようかな……」

 木属性に属する風と光属性の発する熱を併せて急速に圧縮し、空気中の油分や可燃物の発火点を超えさせ、爆発させる……。

「ーーデトネーション」

 その瞬間、音速を超える速さで炎を伴う爆発が広がった。

「物理と化学の知識がここで役に立つなんて思わなかったわ。おかげで楽に魔物を殲滅できたみたいね」

 私は魔法で魔物の大群を殲滅したあと、ふと先ほど魔物から逃げていた少年を思い出し、辺りを探した。

「いた!よかった、無事だったのね」

「あ、あなたは……?あとさっきの爆発も」

「私はニナ。さっきの爆発は私の魔法よ。私が魔物を退治したの。あなたは?」

 私は走り回って息を切らしているフードを被った子に話しかけた。
 少年だと思っていたその子はあたふたしている様子の女の子だった。

「わ、わ、私は、アミュ……です……。兎人族。村が襲われて、助けを求めに行こうとしたら、今に至って……。あ、助けて下さりありがとう……ございます……。」

「兎人族とは珍しいですね。村は魔物に?」

「え、ええ……。あ、あの。初対面ですみませんなのですが、パパを……村長を助けてください!」

「大丈夫よ。落ち着いてもう一度状況を教えてくれる?」

 緊張の解れないアミュに、私は言葉を崩してその身に起こった状況を聞いた。
 アミュ曰く、兎人族の村であるキュー村に魔物の大群が押し寄せ、アミュの父でありキュー村の村長が捕らわれたという。しかも、死者は出ていない。
 魔物は本来、目的や思考は持っておらず、本能のままに動くもの。
 私はアミュの話に異常性を感じた。

「分かったわ。案内してくれるかな?」

 * * *

 私はアミュに案内してもらい、本来なら他種族の立ち入り厳禁の地、兎人族の村であるキュー村に着いた。
 村には動物の皮製のテントが家としてたくさんあり、兎人族っぽさを感じた。

「アミュー。村長さんの場所、教えてくれる?」

「は、はい!」

 村に入ってからは、アミュに先導してもらいながら村長の捕らわれている場所へと案内してもらった。
 その間も襲ってくる魔物を倒しながら進んでいった。

「あ、ありました!パパが捕まってるテントです!」

「あれですね!」

 テントに入ると村長以外にも口と目が覆われ捕らわれている兎人族がたくさんいた。

「大丈夫ですか!今、解放しますからね」

「はあ。ありがとうございます。村長として、村の一員として、感謝致します」

 村長をはじめとする兎人族たちを解放すると私の考えを彼らに伝えた。

「事情はアミュさんから聞きました。この魔物襲来には裏で操っている者がいると見た方がいいでしょう。」

「裏……ですか……」

 兎人族は本来なら戦闘民族。
 その誇りが偽りでないと信じざるを得ないほどに村長は真剣な顔で考え始めた。

「助言、ありがとうございます。あとは兎人族の我々が対処します」

「分かりました。私にもぜひ、お手伝いさせてください」

「よろしいのですか」

「ええ。むしろ私も参加させて下さい」

 このまま旅に戻ったとしても、戦闘民族である兎人族なら力の差でなんとかできる。
 しかし、もしその時にキュー村が滅ぶようなことがあれば、私からこの旅の意味が無くなってしまうと思った。

「早速、準備に取り掛かりましょう」

 村長と私の作戦を照らし合わせながら、準備を整えた。
 夜になると森に潜む魔物たちが活発的に行動を始める。
 村に攻め込んできた魔物たちは村長をはじめとする兎人族が対応し、その間に私は魔物たちを操っている黒幕を探し出す手筈になった。

「作戦開始です!」

 * * *

 予定通り村に攻め込んできた魔物の対処は兎人族のみで十分だったため、私は黒幕探しに集中した。

「こんな大勢の魔物を操るにはとてつもない集中力がいるはず……。なら、安全な場所に隠れているかも」

 私は村を囲む森に入り、対峙する魔物を倒しながら黒幕を探した。
 森の中は生い茂る木々のせいで、村の中よりも暗く感じた。

「あれは……!」

 黒幕を探すために森の中を駆け回っていると、村の方向から煙が上がっているのが見えた。

「今すぐ戻らないと……」

 * * *

 村に引き返すと、そこはもぬけの殻となっていた。

「アミュ……村長……!」

 どうすればいい……?どうすれば……。
 いえ、こういう時こそ冷静にならないと……。

「気配を探らなきゃ……。アミュの気配なら記憶している……」

 私は王家に伝わる神聖魔法の《天使のささやき》を使い、アミュの気配を追った。

「いた!」

 アミュの気配を見つけてすぐ、私は急いで気配のある方へ向かった。
 アミュとは出会ったばかりで、まだお互いのことも知らない。でも、まだ助けられる人たちを諦めてしまっては、いつか国王として国を復興させた時に国民を危険から守れなくなる。
 だから、私は生きる事を諦めない人々と一緒に戦う。

 * * *

 アミュの気配があった場所に辿り着くと、そこには洞窟の入口があった。
 見張りは無く、洞窟内は迷路のように複雑なつくりになっているようだった。

「魔法でアミュの所まで穴を作りたいけど、その前に村長たちもここに捕らわれているのか確かめないと、巻き込んでしまうかもしれないわね……」

 光属性魔法で洞窟全体に励起フィルターを作り、光の波長を合わせ、数秒もしない間だけ透過させる。

「ーートランスパレント」

 見つけた……。村長をはじめとする村人たちだ。

「こうなれば、あとは真っ直ぐアミュたちの元へと行けばいいだけ……」

 魔力によって熱を収束させられるだけの回路を一方向に作り、そこへと威力を制御したデトネーションを放つ……。

「ーーデトネーション・ディレクション」

 アミュたちが捕らわれている洞窟の広場に繋がる穴が開き、私は急いで中に入った。

 * * *

「大丈夫ですか!」

 広場が見え始め、声を掛けながら走っていると村長たちの姿が目に入ってきた。

「今すぐ解放します!アミュはどこですか?」

 村人たちはいたものの、アミュの姿だけが見えなかった。
 気配はこの辺りで間違いはないが、ここには村長たちしかいなかった。

「アミュはこの壁の向こうさ……。兎人族の若い娘は捕まって競売に掛けられることがある……」

「村長さん!諦めないでください!そんな事は絶対にさせませんから!」

 悪い人の身勝手な行動のせいで、大切な家族を失うなんて経験はして欲しくない。
 幸せで笑顔の絶えない家族は一生、幸せに暮らすことができればそれ以上の幸せなんてない。

 ーーふう……。

「はあ!」

 私は村長が指さした洞窟の薄壁に向かって拳を叩きつけた。

「アミュ!大丈夫ですか?」

「……!」

 そこには口を塞がれ、手枷によって拘束されたアミュが目で不安な気持ちを訴えていた。
 その姿は傷だらけで、尻尾は血塗れで千切れかけていた。

「アミュ!」

「なんだ?その格好はいいとこのお嬢様って感じか?こりゃ、とんでもない臨時収入だな」

 そう言いながら体内から魔力が漏れ出ている巨漢がバットを振り回しながら歩いてきた。

「あなたが……アミュさんをこんな姿にしたのですか!」

「生意気な目ぇしてんじゃねぇか。舐めてんじゃ……ねえぞ!」

 巨漢が振り下ろしたバットを掌底で受け止め、同時にバット越しの発勁で巨漢の腕の骨を粉砕した。

「いっ……左腕が……」

「アミュさんの尻尾、千切れかけてるでは無いですか。それに、こんな事しておいて腕一本で償えるとでも?」

「くっ……。こいつを殺せ!野郎ども!」

 巨漢が叫んだ途端、大勢の魔物が広場の方から現れた。

「おい、兎人族のガキ。あれを見てみろよ」

 巨漢が笑いながら指を差した方向には魔物に頭を掴まれた村長がいた。

「村長さん!」

「兎人族のガキ、あのジジイをよく見ておけよ」

「やめなさい!村長さんを離しなさい」

 私は数で押されているこの状況を体術で半分ほどの魔物を倒した。
 そして、アミュの拘束を解き、こちらの戦力を増やした。

「アミュさん!尻尾はあとで治すわ!村長たちを洞窟の外まで逃がして!」

「し、尻尾は大丈夫です!自然治癒が発動するので私は逃げ道を確保します!」

 出会った頃とは別人のようにテキパキとした口調と行動を見せてくれた。

「お願いします!」

 アミュが村長たちを率いて洞窟から出ると、私はここにいる巨漢と魔物たちを殲滅することにした。

「あなたが魔物たちを操っていた黒幕ね。助かるとは思わないで貰いたいわ」

「クソガキがふざけんな!助からねぇのはてめえの方だ!」

 その途端、魔物たちから無理やり引き抜いた魔力をバットに吸収し始め、巨漢がそれを振るうと打撃が空中を飛び、洞窟の壁を破壊した。

「これが俺の力だぜ、お嬢ちゃん。もう逃げれねえと思うことだな」

「あなたは兎人族を傷つけた罰を受けるべきです。ですが、この辺りには警察もいませんので、ここは私があなたに裁きを与えましょう」

「何言ってやがる。今の俺は最強だ!」

 巨漢はそう叫びながら私にバットを力の限り振るってきた。

「効きませんよ」

 私は飛んでくる打撃に対し、木属性魔法のリグナムバイタで鉄より硬い木を盾にした。

「チッ……。魔法を使うのかよ」

「あら?まだ見せていませんでしたか?」

 そういいながら、私は次に神聖魔法の構築を始めていた。
 罪人に罰を与えるのに一番最適な魔法。

「ーー神聖魔法ヴァジュラ」

 唱えた瞬間、辺りの大気は重みを増し、巨漢が地に伏すほどだった。
 そしてその重みが巨漢の元へ集まり、その四肢に雷が落ちた。

 * * *

 「おお……。ご無事でしたか!」

 「お待たせしました。村長」

 村長や村人はしっかり休んでいたようだった。
 アミュはこの短時間ですっかり傷が癒えて、みんなの治療に当たっていた。

「アミュさんも頑張ってくれてありがとうございます」

「い、いえ。ニナさんこそ私たちを救ってくださってありがとうございます」

「アミュさん。ニナでいいですよ。戦線を共にしたのですから」

「ニナ……。な、なら私のこともアミュと……」

「分かったわ、アミュ」

 それから、村長の計らいで宴会の準備がされ、私はそれに呼ばれることになった。
 その前に私は巨漢を異空間の檻に入れた。

「旅に戻る前に巨漢の身柄を預けるために、どこかの国に寄らないとね」

 * * *

「では、村長のわしが音頭を取らせて頂きます。
 強く可愛いニナちゃんへのいってらっしゃい、そして感謝の意を込めて……乾杯!」

 私がこの村に来た時の村長は魔物の襲来のせいで気を張っていたようでしたが、今ではとても気さくな方という印象になっていた。
 私はお酒を飲めないのでジュースを頂きましたが、みんなとても楽しそうに笑っていた。

「またいつか、この国に訪れたいわね」

「それは嬉しい事を言ってくれますなー」

「そ、その時は何かおもてなしをしますね」

 笑顔でそう言った村長とアミュに私は私なりに笑顔を返した。
 このようなヘリクリサム王国を思い出せる素晴らしい平和がこの村でも続けばいいと思った。

 * * *

 次の日の早朝、私は村のみんなに見送られていた。

「それでは村長、アミュ。またいつかここに戻ってくるわ。行ってきます。」

「ああ。短い時間だったが、娘が増えた気分だったよ。またいつでもおいで、ニナちゃん」

 こうして私は再び旅に戻った。