ーーヘリクリサム王国
その名に恥じない不滅とも思える平和な王国。
信頼の厚い同盟国であるカルミア連邦国の力添えもあり、絶対的な平和が守られていた。
「ニナ、マナ、こっちにおいで」
二つ下の妹と手を繋ぎ、両親に駆け寄り、抱きついた。
「ニナとマナは仲がいいわね」
「お父様!お母様!大好き」
「あたしも、お母しゃまとお父しゃま、しゅきー」
「今日はニナの五歳の誕生日ね。」
お母様は嬉しそうに私の頭を撫でた。
そしてお父様も穏やかな顔で言った。
「もう五歳になるのか。こんなに立派になって、八年後のデビュタントが今から楽しみだよ」
私が照れて「ありがとうございます」と呟きながら俯いていると、お父様は続けて言った。
「ニナならきっと立派な王になれる。マナの姉として、第一王女として」
しかしーー。
カチャンッ!カチャンッ!
炎と剣同士がぶつかる音ーー。
国民たちの悲痛な叫びーー。
「ニナ、マナ。ここに隠れていなさい。絶対に出てきてはいけないよ」
お父様の真剣な顔とお母様の不安な顔。
隣から聞こえるマナがすすり泣く音。
「見つけたぞ!包囲しろ!」
お父様とお母様が男達に囲まれると、火属性魔法が付与された弓矢が雨のように二人に降り注いだ。
「お父しゃま!お母しゃま!」
気が付くとマナはお父様とお母様の元へと走っていた。
「危ないよ!マナ!」
マナは攻撃によって発生した煙の中に走って入ってしまった。
私はこの物置の中から動くことはできなかった。
「マナ!マナ!」
煙が晴れ、男達が引き返した後、この物置から飛び出し、様子を確認しに行った。
「いない……」
辺りを見渡してもマナの姿が見えず、私は焦り、お父様とお母様にマナがいなくなったことを伝えるべきだと考え、二人の姿を探した。
「お父様!お母さ……ま?」
そこには矢が無数に刺さり、血塗れで倒れている両親がいた。
私は呼吸の仕方を忘れてしまうほど気が動転していた。
窓から街の方を見ると、炎に包まれ静まり返っていた。
「何……これ」
ーーヘリクリサム王国の滅亡。第二王女マナの消失。
この歴史的大事件はわずか五歳のニナの心に、深く深く刻まれた。
* * *
何も考えることができない日々……。
いえ、考え過ぎて何もできない日々が半年続きました。
「お父様……お母様……マナ……」
私はどうすれば……。
また、みんなが笑っている日々を過ごしたい。
国民もーー。家族もーー。
「そうだ。この王国を建て直そう……」
あわよくば、マナが生きていれば一緒に……。
* * *
それから三年もの間、国民と家族を失った悲しみのやり場を作るかのように国の歴史と魔法の勉強に励んだ。
「……これって」
ある日、お父様の書斎にあった記録帳に王国が襲われた衝撃の原因が書かれていた。
「カルミア連邦国の裏切り……」
お父様の筆記体で確かにそう書かれていた。
歯を食いしばり、動揺や憎しみを抑え、再び魔法の鍛錬に打ち込んだ。
「はっ!」
三年間の鍛錬で八歳になった今、木と光の二属性の上級魔法を扱えるようになった。
「これだけではまだ……」
魔法の鍛錬は続けつつ、これからは剣術と体術、そして本来、私が王女として学ぶはずだった分野を身に付けることにした。
* * *
ーー四年後
私はできる限りの知識と技術を身につけた。
王国史。
経済学
外交
地理
剣術
体術
八歳から十歳までの間にこれらを身につけた。
そしてその二年間、私はどうすれば王国の復興へと漕ぎ着くことができるかを考え、自分なりに答えは出た。
そして十二歳の誕生日を迎えた今日、私は改めて考えを固めた。
「十三歳の誕生日の日。本当ならデビュタントだった日。旅に出よう」
相変わらず、国中は静寂に包まれ、朝も昼も夜も市場には人はいない。
七年ほど前から両親や国民たちの埋葬を始め、去年、全ての人の埋葬が終わった。
そして国民たちの命日であり私の誕生日でもある今日、教会で祈りを捧げようと思った。
「やっと来られた」
やるべき事を全て終え、ようやく時間を作ることのできた私は教会で祈りを捧げた。
お父様……お母様……国民......。
シュワーー
「これは……神聖魔法。そっか、今年か……」
神聖魔法とは王族のみに代々伝わる人知を超えた大魔法。
本来ならデビュタントの一年前。つまり、十二歳の誕生日の日に教会で精霊に対し祈りを捧げ、力を授かる儀式が行われる。
すっかり忘れてしまっていたが、これで晴れて王族として授かるべき力を全て手に入れた。
* * *
ーー十三歳、誕生日。
ニナは再び教会にいた。
「お父様……お母様……国民の皆様……」
どうか待っていて……。必ず復興してみせるから……。
私は一度王城に戻り、旅の支度を整えた。
そして、王族に伝わる秘宝の拡声器を手に取り、静寂に包まれた街に向かって言葉を投げた。
「国民の皆様。本日はヘリクリサム王国、第一王女ニナのデビュタントにお集まり頂きありがとうございます。
本日、お城へとお招き出来なかったこと、深くお詫び申し上げます。
私は改めて、皆様のために力を尽くすことを誓いましょう。
これから、どうぞ私を見守ってください。」
一礼をし、部屋の中へ入るとニナは一度深呼吸をし、荷物を持って国の門へと向かった。
そして、門の前に立ったニナはもう一度振り返った。
「行ってまいります」
零れそうな感情に蓋をするように歯を食いしばり、笑顔で国を出た。
かつて国王であり騎士隊長のお父様が持っていた剣を腰にしてーー。
その名に恥じない不滅とも思える平和な王国。
信頼の厚い同盟国であるカルミア連邦国の力添えもあり、絶対的な平和が守られていた。
「ニナ、マナ、こっちにおいで」
二つ下の妹と手を繋ぎ、両親に駆け寄り、抱きついた。
「ニナとマナは仲がいいわね」
「お父様!お母様!大好き」
「あたしも、お母しゃまとお父しゃま、しゅきー」
「今日はニナの五歳の誕生日ね。」
お母様は嬉しそうに私の頭を撫でた。
そしてお父様も穏やかな顔で言った。
「もう五歳になるのか。こんなに立派になって、八年後のデビュタントが今から楽しみだよ」
私が照れて「ありがとうございます」と呟きながら俯いていると、お父様は続けて言った。
「ニナならきっと立派な王になれる。マナの姉として、第一王女として」
しかしーー。
カチャンッ!カチャンッ!
炎と剣同士がぶつかる音ーー。
国民たちの悲痛な叫びーー。
「ニナ、マナ。ここに隠れていなさい。絶対に出てきてはいけないよ」
お父様の真剣な顔とお母様の不安な顔。
隣から聞こえるマナがすすり泣く音。
「見つけたぞ!包囲しろ!」
お父様とお母様が男達に囲まれると、火属性魔法が付与された弓矢が雨のように二人に降り注いだ。
「お父しゃま!お母しゃま!」
気が付くとマナはお父様とお母様の元へと走っていた。
「危ないよ!マナ!」
マナは攻撃によって発生した煙の中に走って入ってしまった。
私はこの物置の中から動くことはできなかった。
「マナ!マナ!」
煙が晴れ、男達が引き返した後、この物置から飛び出し、様子を確認しに行った。
「いない……」
辺りを見渡してもマナの姿が見えず、私は焦り、お父様とお母様にマナがいなくなったことを伝えるべきだと考え、二人の姿を探した。
「お父様!お母さ……ま?」
そこには矢が無数に刺さり、血塗れで倒れている両親がいた。
私は呼吸の仕方を忘れてしまうほど気が動転していた。
窓から街の方を見ると、炎に包まれ静まり返っていた。
「何……これ」
ーーヘリクリサム王国の滅亡。第二王女マナの消失。
この歴史的大事件はわずか五歳のニナの心に、深く深く刻まれた。
* * *
何も考えることができない日々……。
いえ、考え過ぎて何もできない日々が半年続きました。
「お父様……お母様……マナ……」
私はどうすれば……。
また、みんなが笑っている日々を過ごしたい。
国民もーー。家族もーー。
「そうだ。この王国を建て直そう……」
あわよくば、マナが生きていれば一緒に……。
* * *
それから三年もの間、国民と家族を失った悲しみのやり場を作るかのように国の歴史と魔法の勉強に励んだ。
「……これって」
ある日、お父様の書斎にあった記録帳に王国が襲われた衝撃の原因が書かれていた。
「カルミア連邦国の裏切り……」
お父様の筆記体で確かにそう書かれていた。
歯を食いしばり、動揺や憎しみを抑え、再び魔法の鍛錬に打ち込んだ。
「はっ!」
三年間の鍛錬で八歳になった今、木と光の二属性の上級魔法を扱えるようになった。
「これだけではまだ……」
魔法の鍛錬は続けつつ、これからは剣術と体術、そして本来、私が王女として学ぶはずだった分野を身に付けることにした。
* * *
ーー四年後
私はできる限りの知識と技術を身につけた。
王国史。
経済学
外交
地理
剣術
体術
八歳から十歳までの間にこれらを身につけた。
そしてその二年間、私はどうすれば王国の復興へと漕ぎ着くことができるかを考え、自分なりに答えは出た。
そして十二歳の誕生日を迎えた今日、私は改めて考えを固めた。
「十三歳の誕生日の日。本当ならデビュタントだった日。旅に出よう」
相変わらず、国中は静寂に包まれ、朝も昼も夜も市場には人はいない。
七年ほど前から両親や国民たちの埋葬を始め、去年、全ての人の埋葬が終わった。
そして国民たちの命日であり私の誕生日でもある今日、教会で祈りを捧げようと思った。
「やっと来られた」
やるべき事を全て終え、ようやく時間を作ることのできた私は教会で祈りを捧げた。
お父様……お母様……国民......。
シュワーー
「これは……神聖魔法。そっか、今年か……」
神聖魔法とは王族のみに代々伝わる人知を超えた大魔法。
本来ならデビュタントの一年前。つまり、十二歳の誕生日の日に教会で精霊に対し祈りを捧げ、力を授かる儀式が行われる。
すっかり忘れてしまっていたが、これで晴れて王族として授かるべき力を全て手に入れた。
* * *
ーー十三歳、誕生日。
ニナは再び教会にいた。
「お父様……お母様……国民の皆様……」
どうか待っていて……。必ず復興してみせるから……。
私は一度王城に戻り、旅の支度を整えた。
そして、王族に伝わる秘宝の拡声器を手に取り、静寂に包まれた街に向かって言葉を投げた。
「国民の皆様。本日はヘリクリサム王国、第一王女ニナのデビュタントにお集まり頂きありがとうございます。
本日、お城へとお招き出来なかったこと、深くお詫び申し上げます。
私は改めて、皆様のために力を尽くすことを誓いましょう。
これから、どうぞ私を見守ってください。」
一礼をし、部屋の中へ入るとニナは一度深呼吸をし、荷物を持って国の門へと向かった。
そして、門の前に立ったニナはもう一度振り返った。
「行ってまいります」
零れそうな感情に蓋をするように歯を食いしばり、笑顔で国を出た。
かつて国王であり騎士隊長のお父様が持っていた剣を腰にしてーー。

