銀杏並木の毒舌な隣人たち(祝祭の檻編)

 ぐうの音も出なくなった麻美子は、耳を塞ぐようにして、逃げるようにホテルの自動ドアへと駆け込んだ。

(今度の隣人は、かなり強力ね……)

 汗で化粧を崩さないよう呼吸を整えると、そこには都会の喧騒を完全に遮断した、静謐(せいひつ)な空間が広がっていた。

 ロビーの中央に鎮座する、巨大な円柱形の水槽。色鮮やかな金魚たちが、無機質な空気の泡と共に、優雅に、けれどどこか虚無的に泳いでいる。

 受付へと向かおうとした麻美子の耳に、水の中から響くような、くぐもった湿り気のある声が届いた。

「おや。また一人の『自由という名の迷子』がやってきたね」

 麻美子はハッと胸を突かれた。

 ここは東京の真ん中、丸の内だ。こんな場所で出会う言葉を持つ動物など、せいぜい先ほどのカラスくらいだと高を括っていたからだ。

 慌てて声の先、水槽の中へと目を凝らす。魚までが声をかけてくるのかと、半分感心すらしていた。

 あれも違う、これも違う、麻美子は水槽のガラスに手をつけ、沢山の金魚から声の主を探した。

 すると、一匹の大きな金魚が、口をパクパクと動かし、近づいてくる。
 彼は年配の男性のような落ち着いた声で話しかけてきた。

「いやあ、麻美子。外の風で随分と羽を乱してきたみたいだね。ここは『正解』だけが許された場所だよ」

 周りの参列者に怪しまれないよう、麻美子はすっと顔を伏せ、小声で問いかけた。

「……正解?」