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生徒会役員である匠海から部活動停止の警告を受けた、次の日。
放課後になってすぐ家庭科室に来たぼくはひとり、茶道部の人たちを迎える準備をしていた。
【今帰りのHR終わった。SNSの手続き終わったらそっち行く】
【了解!】
お茶とお菓子をテーブルに並べながら、空我からのメッセージに目を通す。
──SNSで部員募集するための許可申請は空我が行ってくれるし、ぼくはこっちで頑張らないとっ。
【風邪でお休みしてる湯沢くんのためにも全力でやろう!】
【おう。俺、湯沢先輩には会ったことないけど】
メッセージが一段落したところで、家庭科室を見渡してみる。
新入生の頃。どの部活も馴染めそうになく途方にくれていたぼくを、当時の先輩たちが暖かく迎えてくれた。
元々得意だった料理だけじゃなく裁縫という趣味も増えて……双子たちとの熱愛疑惑にも左右されない、大切な居場所になった。
──万が一新入部がなくても……今日の茶道部との顔合わせで好印象を残せれば、合併の道が開ける。
──どんな形になっても、家庭科部は絶対に守ってみせる!
小さく拳を握ってそう頷いた直後、ごんごん!と扉が叩かれた。
茶道部の人たちが来たんだ。
「どっ、どうぞ!」
「失礼しまーす」
結構力強いノックだな……と圧倒されてるうちに扉が開き、三人の女子生徒が入ってくる。
ばっちり整えられたメイク。
着崩した制服に、大きめのピアス。
みんな同じ雰囲気だ。
──茶道部の子たちだよね……?
──なんかイメージと違う……って、見た目で決めつけるのは良くないか。
「やば、家庭科室久しぶりに入ったわ」
「朝比奈くんだよね?よろしくー」
「よ、よろしくお願いします……!」
がばっ、と勢い良く頭を下げるぼくをスルーして、三人はテーブルの空いてる席につく。
三人ともぼくと同じ二年生だって聞いてるけど、どうしても緊張してしまう。
「ねー匠海くんは?一緒じゃないの?」
「えっと、生徒会の仕事があるから後で様子見に来るって……」
「マジかー。会いたかった」
「このクッキー手作り?食べて良いの?」
「ど、どうぞ!手作りが駄目なら買ってきたやつもあるので……」
「見て!お茶ペットボトルなんだけど!」
「ふつう茶道部にペットのお茶出す?」
「いや、うちらいつも部活の時コレ愛飲してるじゃん!」
「それな!ぎゃはははははは!!」
「……」
何を言えば良いか分からない。
引きつる口元を隠すために、クッキーを一枚頬張る。
──……どうしよう。
──この人たちと上手くやっていける未来が見えない……!
「えっと……茶道部って専用の茶室があったよね。週に何回くらいお茶点てたりするの?」
「うちらお茶なんか点てたことないよ?」
「……え?」
クッキーを飲み込んでから少しでも歩み寄るべく話を振ってみる。……けど、一番髪色の明るい子が笑いながら言う。
「この子の元カレが去年の部長でさ、ノリで入ったけど難しいことは分かんない。茶道ガチ勢はみんな辞めるか卒業しちゃった」
「茶道ガチ勢……」
「活動停止ってなってマジか部費でアフヌン行けないじゃんって思ったけど、匠海くんが家庭科部なら合併してくれるかもって言うからさー」
「部費でアフヌン……?」
話に付いていけずオウム返ししか出来ない。
っていうか今この子、とんでもない暴露しなかった?
「放課後はお茶の研究だって言ってカフェ行ったりすんの。うちらイカつくない?」
「部費使えるようになってからバイト代めっちゃ浮いたよね」
「おい朝比奈くんにバラすなし!」
「どーせ家庭科部も似たようなことしてるって」
「そんなこと……」
『最近は部費の不正使用の取り締まりもしなきゃだから、色々と余裕がなくて』
昨日のクミちゃんの話が頭を過ぎる。
話を聞く限り、部費でカフェに行くという彼女たちもそれに当てはまるんじゃないか。
あとで相談に行くべき?……いやそれよりも。
「……お茶が点てられないなら勉強すれば良いんじゃない……?」
「え?」
「せっかく立派な茶室もあるのに……使ってないって知ったら、卒業した茶道部の先輩たちが悲しむんじゃ」
「……うわだる」
「朝比奈くんそんな感じかー」
今彼女たちの考えを変えることが出来れば、家庭科部合併の可能性を残せる。そんな淡い望みは、リーダーっぽい子の大きなため息を前に散った。
「卒業した奴らのことなんかどうでも良くない?」
「どうでも良いわけないよ、先輩たちが頑張ってくれたから今ぼくたちが楽しく部活できるわけだし──」
「はい、説教うざいでーす」
「つか家庭科部とかいらなくない?授業でも家庭科やんのにわざわざ放課後使って極めてどーすんの」
「朝比奈くん要領悪いんじゃん?うちらと合併してさ、料理の研究ってことでファミレス行ったりしよーよ」
「上手く言い訳すれば部費使い放題なんだからさ」
「……」
──これは無理だ。
瞬時に悟った。
ぷつりと、胸の奥で何かが切れた音がする。
「……君たちとは合併出来ない」
「へ?」
お菓子をつまんでいた三人が一斉にこちらを見る。
「君たちが部費を何に使おうとぼくには関係ない。でも、家庭科部の部費まで狙ってるなら話は別」
手が震える。
三人の顔から目を逸らさないようにぐっ、と頭を固定した。
「ぼくは家庭科部が大好きで……どんな形でも残したいから合併を考えたんだ。部費で好き勝手遊ぶためじゃない。君たちの力を借りないと存続できないとしたら──家庭科部はぼくの代で終わらせる」
この場に湯沢くんがいたら、もう少し上手く断れたと思う。
でも今はぼくしかいなくて、一人でどうにかするしかない。
「……は?」
「何それ、言ってることめちゃくちゃなんですけど」
「あとで頼んで来ても合併してあげないよ?」
三人の顔から余裕が消えて、手に持たれたクッキーがお皿に叩きつけられる。
──合併出来なくて困るのは彼女たちだろう。
──茶道部がなくなったら部費で遊べなくなるから。
──きっと家庭科部以外に合併してくれそうな部がないんだ。
「さっさと謝れよ。今なら許してや──」
「君たちに許されて何か良いことあるのかな」
「!?」
唐突な五人目の声に、全員が扉を振り返った。
いつの間にか開いていたそこから迷いのない足取りで入ってきたのはクミちゃん……と、空我。
「頑張ってくれてありがとう、ヒナ。おかげでやっと言質がとれたよ」
「言質……?なんのこと?」
「君たちがここにいる間、茶道室を調べさせてもらったよ」
「……!」
問い掛けるぼくを通り越してかけられたクミちゃんの言葉に、茶道部の三人の顔色が変わった。
「お茶菓子代として遊ぶお金を計上していた証拠がわんさか出て来た。今の話もしっかり聞かせてもらったから……言い逃れは諦めて」
「ちょ、ちょっと待ってクミちゃん。一体なにがどうなって……」
「……茶道部との合併は無理だったってこと」
困惑するぼくを見かねた空我が、隣に立って教えてくれる。
「さっき扉の前で聞いた。匠海は前から茶道部が部費を不正利用してること調べてて……証拠を掴むために俺たちを利用したらしい」
「な、何それ……!」
「俺からすればアンタの方が“何それ”なんだけど」
「えっ」
横を見ると、拗ねたような空我がぼくを睨みつけていた。
「勝手に終わらせようとすんなし。入ったばかりだけど俺、アンタと部活すんの気に入ってんだから」
「空我……」
言うだけ言うと空我は、ふい、とぼくと反対方向に目を逸らしてしまう。
「マジで先生には言わないで匠海くんっ!」
「今度可愛い子紹介してあげるからぁっ」
「なんならうちらと遊ばないっ?陸斗くんも誘って!」
「間に合ってまーす」
場違いに胸をときめかせるぼくの前では、にこにこ顔のクミちゃんが茶道部の子たちをあしらっていた。



