イケメン双子と熱愛疑惑があるぼくですが、本命は別にいます。




◇◇


 落ち着いた頃にはすっかり日が暮れていた。
 部活見学を終えて帰る生徒たちに混ざって、ぼくら三人も昇降口を目指して廊下を歩いている。
 
「ごめんな、ヒナタ。さすがにピアスは言い過ぎた」
「陸斗くん……」

 さっきまでの焦りはどこへやら、今はぼくの後ろでしょんぼりと項垂(うなだ)れている陸斗(りくと)くん。
 ぼくの耳にピアスを開けようとしたことを叱られ、彼なりに考え直したみたいだ。

「どうするか、ミウとも話し合ってみる」
「うん。それが良いと思う」
「……アンタは甘やかし過ぎ」

 ぼくが頷いたタイミングで、隣を歩いていた空我(くうが)がぼそりと呟く。

「俺だったらもう二度と夕飯作ってやらない」
「は!?ヒナタのメシが食えなくなるとか無理!」
「安心しろ、兄貴たちの分は俺が代わりに食っとく」
「やめろ!……って、それ匠海(たくみ)も巻き込まれてね?」
「──ふふっ」

 険悪になりそうでならない二人のやり取りがおかしくて、思わず笑ってしまう。

「気にしないで。陸斗くんが彼女さんのこと大切にしてるの知ってるし」
「……へへっ」

 とぼとぼ歩く陸斗くんのペースに合わせて歩きながら言うと、視界の端で赤い髪が照れくさそうに揺れた。

「やっぱヒナタには敵(かな)わないなぁ!今度カモフラとか抜きでお前のテーマソング作らせてくれっ」
「ええっ?」
「あっ、そうだ」

 戸惑うぼくをよそに、陸斗くんは思い出したような声を上げる。

「ミウも部活が終わったはずだから、顔見てくるわ」
「あ、うん」
「じゃ、また明日な!」
「気をつけてねー!」

 元気を取り戻し、弾む足取りでぼくらを抜かしていく背中に手を振った。
 陸斗くんとミウさんが二人きりで歩くのは怪しまれるだろうけど、部活終わりの大人数に混ざってわいわい帰るなら問題はなさそうだ。
 
「……ヒナタ」

 と、同じく陸斗くんを見送っていた隣に名前を呼ばれる。

「ん?」

 見ると、今度は空我が力なく俯(うつむ)いていた。

「く、空我どうしたの……!?」
「しんどくないの」
「しんどい?」
「その……」

 長い前髪の隙間から覗くアイスグレーの瞳が、気まずそうに泳ぐ。
 形の良い唇が一回きゅっ、と締まったあと、再び遠慮がちに開かれた。

「アンタは陸斗のこと好きなんじゃ」
「……え?」

 自分でも初耳な情報に脳の処理が遅れた。
 ……いや、初耳も何も。

「好きじゃないよ!?」

 思わずその場に立ち止まり、全力で首を横に振る。
 異様な光景だろうけど、陸斗くんも匠海(クミちゃん)も傍にいないぼくを誰も気にしなかった。
 
「いや、大事な友達ではあるけどっ」
「……そう」

 ぼくと同時に足を止めて、肩にかけた鞄を背負い直してから空我はまた歩き出す。慌てて追いかけるけど、また隣に並ぶのは無理そうだ。

 ──信じてくれたっぽい……?
 ──というか、今の感じって……。
 
「空我、もしかして」
「……なに」
「ぼくのこと心配してくれた?」
「……」
 
 空我は答えない。
 ただ、制服の襟から覗くうなじが夕焼け色に染っていく。
 それで合点(がてん)がいった。

 ──そっか。
 ──だから、さっき教室であんなに怒ってくれたのか。
 
 ぼくが陸斗くんのためにピアスまで開けようとしたから勘違いさせたんだ。
 実の兄よりもぼくの味方になって、守ろうとしてくれた。

 ──やっぱり、優しいな。

 どくん、と心臓が大きく跳ねる。

 ──ダメだ。
 ──知れば知るほど、空我を好きになっていく。

 
『俺だったら、万が一でも相手の迷惑になる可能性があるならイラスト上げるのやめる』


 実際いるのかすら分からない。
 イラストに人生を捧(ささ)げてきた空我にそう言わせる“相手”が、羨ましくて仕方ないんだ。
 
「──陸斗じゃないってことは……ヒナタが好きなのは匠海……?」
「何か言った?」
「何も言ってないけど」
「そう……?」

 今は空我はぼくの数歩前を歩いてるので、あまり小さな声だと聞き取りづらい。
 昇降口に近づいて、大勢の話し声が飛び交ってるせいもある。

「じゃあ……一年の靴箱あっちだから」
「うんっ、靴履いたらそのまま待ってて。迎えに行く!」

 こちらをちらりともせずに遠ざかっていく空我に置いて行かれないように、ぼくは急いで自分の靴箱に駆け寄った。