イケメン双子と熱愛疑惑があるぼくですが、本命は別にいます。


◇◇
 

 茶道部の三人が先生に連れられ家庭科室を出て行っても、話は終わらない。

「……で」

 ぼくは腕を組んで、目の前に座る匠海(クミちゃん)を睨む。

「ぼくたちを利用したって、どういうことかちゃんと説明してよねっ」
「さっき言った以上のことはないんだけどな……」

 優雅にクッキーをかじってから口を開くクミちゃん。
 まるでお茶会(こっち)がメインかのような落ち着きっぷりだ。

「ここ数カ月の茶道部の部費の使い方が不自然でね、こっそり調べてたんだ。なかなか尻尾を掴めなくて困ってたんだけど……活動停止をちらつかせたら目に見えて焦り始めて」

 ここでクミちゃんはあの三人が手を付けなかったペットボトルのお茶を手に取り、蓋を開けて飲み始めた。
 
「合併の道もあるって持ち掛けたらすぐに食いついたよ。で、比較的僕が介入しやすい家庭科部(君たち)を紹介した」
「ようするに……顔合わせって体(てい)でヒナタに茶道部を見張らせて、その間に匠海(たくみ)は部費の不正使用の証拠を掴んだってこと」

 ぼくの隣に座る空我(くうが)もお茶を開けながら補足する。

 ──もし茶道部との顔合わせがうまくいっても、合併は出来なかった?
 ──さっき空我が言った通り、ぼくたちはクミちゃんに利用されただけ?
 
「……っ、クミちゃんの鬼!魔王!!」

 理解した瞬間、ぼくは腹の底から叫んでいた。

「実の弟と幼なじみ騙して何が楽しいのっ!?」
「ドラマでたまに観る孤高の主人公……って感じが楽しかったよ」
「……」

 語尾にハートマークでも付きそうな調子だ。
 ここまで開き直ってるとどんな文句も無駄に思える。

 ──何が孤高の主人公だ。
 ──さっきの説明、二時間サスペンスの犯人の自白みたいだったぞ。

「ヒナたちのおかげで茶道部自体は救われたんだよ。あの三人が原因で辞めていった、ちゃんとお茶が好きな子たちは戻って来れる」
「……それならまあ……良いけど」
「何も良くない。家庭科部は救われてない」
「あっ、そっか」
「そっちも安心して?」

 空我のツッコミに納得してしまったぼくに、クミちゃんがスマホの画面を見せてくる。

「僕が前に仲(・)良(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)子たちにお願いして家庭科部に入ってもらった。これで部員は合計五人、活動停止は免(まぬが)れる」

 クミちゃんのスマホには入部届らしき紙が二枚写った写真が表示されている。
 ……長年彼の幼なじみをやってるから分かる。“仲良くなった子たち”というのは、生徒会の活動の中でクミちゃんが弱みを握ってきた生徒のことだ。

「ただの数合わせの幽霊部員だけどね。最低でも、ヒナが引退するまではいてもらう約束になってる」
「あ、ありがとう……?」

 クミちゃんなりに家庭科部を助けてくれたんだろうけど、素直に喜べない。
 本人もそれを察したらしく、困ったように眉を下げた。

「ごめんね、生徒会長を納得させるにはこれしかなくて……。でももうひとつ良い話があるよ」
「良い話?」
 
 次にクミちゃんが「これ」と取り出したのは、きのう持って行かれた手作りロゼット。

「生徒会で好評だったんだ。今度のオープンスクールで使えそうだし、家庭科部の活動内容が分かりやすいから」
「うん……」
「生徒会から依頼があった時にこれを作ってくれるなら、家庭科部の予算を増やしても良いって」
「……え?」
「文化祭なんか、去年より余裕ができると思う」
「本当に!?」

 思わずガタッ、と椅子から立ち上がる。
 頭の中にいろんな光景が浮かんだ。
 去年の文化祭はあまりの予算の少なさに、家庭科室を展示場兼休憩所として開放するくらいしか出来なかった。
 それが今年は、もっと盛大にやれるかもしれない?

「クミちゃん大好き!!」

 他の生徒たちに聞かれようものなら熱愛疑惑に拍車がかかりそうだ。
 それでも高ぶる気持ちを抑えられなかった。

「なら僕たち付き合っちゃおうか」
「それはごめんなさい」
「残念。……それじゃあロゼットの件は了承ということで、話を通しとくよ」

 ちっとも残念じゃなさそうに肩をすくめると、クミちゃんは立ち上がって扉の方へ歩いて行く。

「僕は生徒会室に戻るね。クッキーごちそうさま」
「あ、うん」

 お茶のペットボトル片手に家庭科室を出て行くクミちゃんを見送ってすぐ、隣から視線を感じる。もちろん、空我しかいない。

「ど、どうしたの空我……?」
「……これ見て」

 数分前のクミちゃんよろしく、次は空我が自分のスマホ画面を見せてくる。

「これって、うちの学校のSNS……?」
「ここに来る前にやった手続きが投稿に反映されてる」
「そ、そうだね」
 
 うちの学校は公式のSNSアカウントがあって、そこに家庭科部の部員募集を投稿してもらったのだ。

「……あれ?このロゼットの真ん中にあるのって空我のイラスト?」
「ん。推し活用だって分かるように、昨日の夜描いた」
「えっ、そうだったの!?」
 
 空我には家庭科部の活動を宣伝するためのロゼットの写真撮影も頼んでいた。よく撮れてるのはもちろん、中央には初めて見るイラストが埋まっている。

 ──このクオリティのイラストを一晩で描いてくれたんだ。
 ──家庭科部のためにそこまで……。

「ありがとう空我っ。コメント欄すごいね、イラストのおかげでロゼットに興味持ってもらえてる」
「……」
「見て、“明日にでも部活見学したい”って!これはほんとに部員増えちゃうかも……!」
「……ないの」
「ん?」

 付いたコメントを興奮状態で読み上げるぼくに対し、空我は控えめな声を上げる。

「俺、結構頑張ったと思うけど」
「結構どころか、すごく頑張ってくれたよ?」
「……俺には、“大好き”って言わないの」
「………………へ?」

 何を言われたか、処理するのに時間がかかった。

「だだだだ大好きって、なんでそんな……!?」
「匠海のことは大好きって言ってた」
「そっ、そうだけどっ」
「俺、家庭科部が潰れないようにすごく考えたのに……。匠海には“大好き”って言えて、俺はダメなの」
「ダメじゃないっ!」
 
 きゅ、とスマホを握りしめる空我の長めの前髪から、寂しそうに揺れる瞳がよく見える。
 幼稚園の頃を彷彿(ほうふつ)とさせる表情を前に、黙ってられるわけがない。

 

「クミちゃんに言った“大好き”は友達としてってことで、空我へのとは意味がちが──あっ」


 
 ……危うく呼吸を忘れるところだった。
 慌てて口元を両手で隠しても、もう遅い。
 
 ──今。
 ──空我に誤解されたくない一心で、ぼくは何を言った?

「く、くうが……」

 指の隙間から、思いの外(ほか)弱々しい声が出る。

 ──友情以外の“大好き”の意味なんて、ひとつしかない。
 ──ぼくはなんてことをしてしまったんだ。

 困らせてしまうからと、隠し通そうと決めたはずの気持ちが……あっけなく漏れた。
 しかも、相手は男同士で付き合うのは別世界のことだと思っている。

 ──せっかく家庭科部を守れたのに……!
 
 空我と言えば、こちらを見て固まったまま。
 軽蔑されるか、引かれるか。
 ぼくのせいでトラウマにならないと良いけど──と心配になった、その時。

「ヒナタ、それって……」
「──……!」
 
 今度はぼくが固まった。
 やっと確認できた空我の反応は想像のどれとも違って──……見える範囲の肌が全部赤く染まっていたからだ。

「……」
 
 机の方に視線を落とす。
 空我につられるように顔がどんどん熱くなって、心臓の音がうるさい。

 ──なに、それ。
 ──なんで空我はそんなに照れてるの!?