毎日、悪夢を見ているようだった。
家は普通で、悩みを打ち明けられるような家じゃない。けど学校は違う。最悪な学校。悪夢みたいな苦しい場所。
いじめられてて、皆に笑われて、誰も救ってくれなくて、先生も見て見ぬふりをして――いっそ、いっそのこと、夢であればいいのにと何回も思った。
最初は、まだ良かったんだ。無視だけだったから。
その日の空はびっくりするくらいの快晴で、雲一つなかった。空気が仄かな温かいオレンジ色に染まっている気がした。
「おはよう」
近くにいた生徒に挨拶をした。いつもなら相手も、おはよう。とだけ言ってどこかへ行く。それが僕にとっての普通だった。それが、いつも見ている夢だった。
「……」
張り詰める静寂、笑っている人間、目を合わせないようにする人。一瞬で理解できた、否、理解させられた。
青い空にさっと雲がかかったようだった。その空気は、氷の様な水色になっていた。
「固まったんだけど、ガチキモーい」
「ね、それなガチで」
小声のはずで、普段なら聞こえない声量のはずなのに、苦しい程の静寂の中では嫌でも耳に入って、理解できてしまう。
これを皮切りにいじめは、日に日にエスカレートしていった。
無視なんて、悪夢の序章に過ぎなかったのだ。女子たちは、どんどんと、自分が進むためのレッドカーペットを敷かせるんだ。
「掃除当番よろ~」
「あっ、え、でもっ」
「は? どうせ暇でしょ? オタクなんだし、どーせ帰ったってアニメ見るだけでしょ」
彼女のゴミを見るかのような目が、僕の心に刺さる。
違う、習い事がある。目線に刺された僕は、そんな簡単な一言を、言い出すことができなかった。その言葉は、吐き出されることがないまま僕の心の中に黒く溜まった。
なんで僕がオタクと呼ばれているのかはわからない。流行ってるアニメを知ってるくらいの知識。だから、これは彼女達の都合のいい解釈の一つなんだ。彼女たちが進みやすくするための。
去っていく背中に何も言えないまま、扉は閉まった。
僕は、こうやってどんどん言えなくなってしまうのかな、自分も、忘れてしまうのかな。
どうしようもない不安が怪物のように襲ってくる。ほうきでその不安も倒してしまおうとするけれど、うまく、はけない。
ああ、たおせないや。
「はは、」
埃ですら、少し、綺麗に見えた。汚いって思ってたけど、全然綺麗だ。
灰色の埃は、輝くような太陽に照らされて、綺麗に光り輝いていた。
「人間なんかより、ずっと堂々としてて、綺麗だよ」
僕の言葉はほこりと共に空気に溶けてしまった。
埃の残る教室に染み付いた嫌な汗の臭いや人間の臭いがとても不快だった。