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「本日午前、ある小学校のサマーキャンプ中に、やけど事故が発生しました。児童の一人がバケツにウォーターサーバーの熱湯を入れ、別の児童に浴びせたことで、その児童は全身に大やけどを負い、現在も病院で治療を受けています。警察の調べによりますと、この二人の児童は○○○○○○○○○○○○の○○○○○○であり、○○○○○を誤って信じたために、そのようなことを……」
去年。2015年8月上旬のニュースだった。
「こんな騒ぎを起こしておいて、よくも○○○○○○○なんて言うのか?」
「羽冬さん、○○○の立場からすれば、私たちは……」
「○○○○に基づけば、すべては○○○○、すなわち○○○○○○○○の○○を優先すべきです。」
「○○○○○○、協議の結果、○○○○○はひとまず○○○○とさせていただくことになりました。」
「中学生なんだから、中学生としての本分を果たせ。○○○○○○○○くらいで、○○○○○○○○○○○とでも思ったのか?」
「今は○○○○○○○○○、とにかく勉強しなさい。将来、東大みたいな大学に入れれば、○○○○○○だって○○○○○になるんだから。私たちはみんな夜良のことを思って言っているんだ……」
大人たちの身勝手と、思い上がり。
―「ヨル、本当にそうするの?」
続いて脳裏によみがえったのは、あのとき隣にいた人の、ためらいがちな問いかけだった。何万枚もの紙が燃え、灰になっていく光景が浮かぶ。
この家にいる限り、その記憶はウイルスみたいに全身の細胞へ入り込んでくる。もう思い出せない夢から覚めた朝でさえ、頭がまだ働く前から逃がしてはくれない。
羽冬夜良。「父」と「母」と呼ばれる二人が、僕に与えた名前だ。15歳、神奈川高等学校附属中学校(通称 神《かな》高《こう》附《ふ》中《ちゅう》)を卒業し、今はただ、あてもなく高校生活の始まりを待っている。
部屋を見回し、視線は中央の机で止まった。机の上は雑多な物で埋まり、ゴミ置き場と見間違えそうなくらいだ。無秩序に積まれた十数冊の試験対策本、無地の服が四、五着。空のペットボトル、ティッシュの空き箱も散乱しており、県内随一の進学校「パンドラ高校」の入学書類が、あの何年も向き合ってきた机の上に散らばっていた。
何年も手をかけてきたとはいえ、中学生にとっては成績が何より大事なんだろう。
ん?県内随一?そう、その通り。僕は神高附中を校内一位で卒業し、唯一パンドラ高校に進んだ優秀な卒業生だ。
「リーン――」
空気をぶち壊す電話が鳴った。
「どうした?」
電話に出るなり、僕は単刀直入に訊いた。
「お?起きてたのか。じゃあ今日、来るよな?」
「たぶんな。」
「まあな、夢《ゆめ》美《み》の水着姿が見られるし。」
「夢《ゆめ》ちゃんは関係ない。」
癪に障る言い方だ。特に、君の口から出るとなると。
「ふっ。まあ、そんな感じで。あとでな。」
僕が返事をするより早く、一方的に切られた。
せめて最後まで会話させろよ!適当に女の子の名前を出して、反論もさせずに「ふっ」で切るって、何なんだよ!
それに、僕は女の子一人の水着姿くらいしか楽しみにできないのか?
視線をベッド脇のもう一つの机へ向ける。そこにあった、楕円形の小さな水色の宝石を連ねたブレスレットを左手首につけ、鞄を手に部屋を出た。階段を下り、「家」と呼ばれる建物を後にした。
ん?さっきまでの憂鬱が少し消えていた。クラスの女子の水着姿なんてものを想像して、期待していたからか?
違う、たぶん、さっきの電話のおかげだ。
去年の夏以来、友達といるときだけは、かろうじて世界とのつながりを感じられるけれど……
もう感じられない。自分の、羽冬夜良という命の存在を。
「本日午前、ある小学校のサマーキャンプ中に、やけど事故が発生しました。児童の一人がバケツにウォーターサーバーの熱湯を入れ、別の児童に浴びせたことで、その児童は全身に大やけどを負い、現在も病院で治療を受けています。警察の調べによりますと、この二人の児童は○○○○○○○○○○○○の○○○○○○であり、○○○○○を誤って信じたために、そのようなことを……」
去年。2015年8月上旬のニュースだった。
「こんな騒ぎを起こしておいて、よくも○○○○○○○なんて言うのか?」
「羽冬さん、○○○の立場からすれば、私たちは……」
「○○○○に基づけば、すべては○○○○、すなわち○○○○○○○○の○○を優先すべきです。」
「○○○○○○、協議の結果、○○○○○はひとまず○○○○とさせていただくことになりました。」
「中学生なんだから、中学生としての本分を果たせ。○○○○○○○○くらいで、○○○○○○○○○○○とでも思ったのか?」
「今は○○○○○○○○○、とにかく勉強しなさい。将来、東大みたいな大学に入れれば、○○○○○○だって○○○○○になるんだから。私たちはみんな夜良のことを思って言っているんだ……」
大人たちの身勝手と、思い上がり。
―「ヨル、本当にそうするの?」
続いて脳裏によみがえったのは、あのとき隣にいた人の、ためらいがちな問いかけだった。何万枚もの紙が燃え、灰になっていく光景が浮かぶ。
この家にいる限り、その記憶はウイルスみたいに全身の細胞へ入り込んでくる。もう思い出せない夢から覚めた朝でさえ、頭がまだ働く前から逃がしてはくれない。
羽冬夜良。「父」と「母」と呼ばれる二人が、僕に与えた名前だ。15歳、神奈川高等学校附属中学校(通称 神《かな》高《こう》附《ふ》中《ちゅう》)を卒業し、今はただ、あてもなく高校生活の始まりを待っている。
部屋を見回し、視線は中央の机で止まった。机の上は雑多な物で埋まり、ゴミ置き場と見間違えそうなくらいだ。無秩序に積まれた十数冊の試験対策本、無地の服が四、五着。空のペットボトル、ティッシュの空き箱も散乱しており、県内随一の進学校「パンドラ高校」の入学書類が、あの何年も向き合ってきた机の上に散らばっていた。
何年も手をかけてきたとはいえ、中学生にとっては成績が何より大事なんだろう。
ん?県内随一?そう、その通り。僕は神高附中を校内一位で卒業し、唯一パンドラ高校に進んだ優秀な卒業生だ。
「リーン――」
空気をぶち壊す電話が鳴った。
「どうした?」
電話に出るなり、僕は単刀直入に訊いた。
「お?起きてたのか。じゃあ今日、来るよな?」
「たぶんな。」
「まあな、夢《ゆめ》美《み》の水着姿が見られるし。」
「夢《ゆめ》ちゃんは関係ない。」
癪に障る言い方だ。特に、君の口から出るとなると。
「ふっ。まあ、そんな感じで。あとでな。」
僕が返事をするより早く、一方的に切られた。
せめて最後まで会話させろよ!適当に女の子の名前を出して、反論もさせずに「ふっ」で切るって、何なんだよ!
それに、僕は女の子一人の水着姿くらいしか楽しみにできないのか?
視線をベッド脇のもう一つの机へ向ける。そこにあった、楕円形の小さな水色の宝石を連ねたブレスレットを左手首につけ、鞄を手に部屋を出た。階段を下り、「家」と呼ばれる建物を後にした。
ん?さっきまでの憂鬱が少し消えていた。クラスの女子の水着姿なんてものを想像して、期待していたからか?
違う、たぶん、さっきの電話のおかげだ。
去年の夏以来、友達といるときだけは、かろうじて世界とのつながりを感じられるけれど……
もう感じられない。自分の、羽冬夜良という命の存在を。
