灰かぶり君

「改めて、白月学園へようこそ。私が、理事長の海道白馬(かいどうはくま)だ」

 俺達が来客用のソファに座り、美人の秘書さん(男)が紅茶を出してくれたところで理事長の話は始まった。

「ここは幼稚園から大学までの、エスカレーター校だ。受け入れていない訳ではないが、君達のような外部生はほぼいない」

 だろうな、って理事長の説明を聞きながら思う。ここは学費等がバカ高いから、特待生制度を使わないと一般人にはまず通えない。
 そして特待生は、学年三位以内をキープしなくちゃいけない――無料(タダ)って、やっぱり大変だよな。

「だからこうして、外部生とは話し合いの場を設けている……狼の群れの中に、いきなり子羊を放り込むのも不憫だからね?」

 おお、このタイミングか。確かに、これからの話は学校案内のパンフレットには書けないよな。
 内心、感心した俺の横で真白が不思議そうにボサボサ頭を傾げる。
 そんな甥っ子の様子を知ってか知らずか、理事長はおもむろに話を切り出した。

「男ばかりの閉鎖した空間のせいか、我が校では同性愛に走る生徒が多い。ゲイとバイで九割、ノーマルは一割だね」
「なっ……何だよ、それ!?」

 驚いて立ち上がる真白の横で、俺は紅茶を飲んだ――美味い、出来るな秘書さん。

「って、何で驚かないんだよ、谷!」

 そんな俺に真白が、ある意味当然なツッコミを入れてきた。とは言え、俺には俺の言い分がある。

「真白にも、好きなタイプとかあるだろ? 年とか見た目とか性格とか」
「お? おう」
「それと同じだ。いくら男好きでも、男なら誰でも無差別って訳じゃないだろ」

 ……まあ、美少年と思われる真白はその限りじゃないかもだけど。王道転校生には、ダイ○ン並の吸引力があるからな。

「そっか……そうだよな! 無闇に疑っちゃ、逆に失礼だよなっ」

 後半、声に出さなかったせいもあり、真白は素直に反省の言葉を口にした。
 それに「そうそう」と頷くと、理事長だけじゃなく秘書さんまで俯き、肩を震わせていた。

※

 今の話が濃かったせいか、その後の説明は比較的穏やかだった。
 個人的にはSクラス(家柄と容姿がスペシャル級な生徒の入るクラス)に、何で特待生が入るのかとは思ったけど――まあ、ある意味異分子だし。不良の王国Fクラスに入らないだけマシだろう。
 ちょっと驚いたのは、今回限りだと思ったカード(理事長室他特殊エリアも入室OK)がそのまま貰えることだった。そんな俺に、理事長が説明してくれる。

「外部生に対する、せめてものフォローだよ。何かあったら、いつでも言いに来なさい」

 ワイルドな岡田さんとはまた違う――同じ二十代後半くらいだけど穏やかで優しそうな、貴公子って感じの理事長。そして中性的な、天使みたいな美人の秘書さん。

「ありがとうございます」

 俺としては、キャラ立ちした二人を見られただけで十分だったけど、気持ちはありがたく受け取ることにした。
 こうして、理事長イベントはつつがなく終了した――と思ってたら、チャイムが鳴った。

「ちょうど良いな、君達の担任を紹介しよう……田辺先生、すぐに理事長室まで」

 そう言った理事長の台詞後半が、校内放送で流れる。どうやら明日、登校してからと思っていた担任イベントが始まるらしい。
(まあ、確かに解らないと困る……って、王道通りなら解らなくはないと思うけど)
 だって、王道担任って――そこまで考えたところで、理事長室のドアがノックされた。

「田辺です」
「ああ、入りたまえ」

 そして入ってきた担任を見て、俺はさっき真白を見た時同様、思わず遠い目になった。
 イケメンはイケメンなんだけど、茶髪はキッチリ前髪盛られてるし、シャツワインレッドでノーネクタイだし、スーツの前開いてるし――うん、どう見てもホストだ。ホスト以外の何者でもない。

「転入生を紹介するよ、明日からよろしく頼む」
「田辺橙司(たなべとうじ)だ」
「オレ、北見真白。よろしく頼……みますっ」
「谷です」

 真白の敬語は、予想通りぎこちなかった。あれ、絶対「頼む」って言おうとしたよな。ごまかそうとして、何かいかつくなったけど。

「……真白。無理に敬語、使わなくていいぞ」
「ありがとな、田辺先生!」
「ああ、あと『お前は』俺のこと、橙司って呼んでいいからな」

 心の中でツッコミを入れてると、いつの間にかミラクルが起こっていた。アレかな、変態の時もだけど真白は美形相手でも自然体ってのが、モテ要素なのかな?

(って言うか先生、ドヤ顔されても別に羨ましくないから)

 わざわざ『お前は』って強調する辺り、大人気ないって言うか、子供っぽいなぁって思うけど。俺の態度も悪かった(苗字しか名乗ってない)からお互い様だな。
 そんな訳で結局、俺は担任に下の名前を名乗らないまま、このイベントを終了した。