「うっわ、ピック割れたー、あぶねー。買わなきゃな……あんさぁ、和―」
「んー? 何さ」
視聴覚室。私のオアシスである所以は空調完備されているし、ここでは素で喋っても誰も聞く人間がいないからである。
そして何より好きなギターと向き合える、家以外で唯一落ち着ける場所だった。
自分で言ってとても悲しさを覚えたのでもう二度と言わない。
今の日課はギターの演奏をしつつ、和のドラムを見ていた。
一応、私たちはLM部の部員だ。
和の加入でとりあえず廃部までのリミットは伸ばすことが出来た。当の和も、ゲームの気晴らしになると乗り気だったし、興味を持ったドラムなら最初からあるから新たに楽器を買う必要もなかった。
初心者教本を渡すと一瞬でそれを読み込んで今は動画を見ながらビートを刻んでいる。
とんでもなく器用で、下手に教えるよりたぶん好きにやらせた方が楽しんでくれそうだったから質問があれば応えるくらいにしていた。
今も、私の話に耳を傾けるために演奏を止めて、ドラムスティックをくるくる器用に回している。
「一ノ瀬さん、いるじゃん」
「ああ、千景? 最近見ないなそういや」
「私らさ、よく考えたら馬鹿みたいに世話になってない?」
「……そりゃね。私たちの間を行ったり来たりしてそれとなく上達するヒントをくれてたんだから。あんな子いないよ」
「だから何かあげたいんだけどさ」
「ああ、悩んでる系? 本人に聞けばいいじゃん」
「皆あんたみたいにゾウリムシじゃないのよ」
「単細胞って言いたいわけ? 全然その喧嘩、買うよ」
「よしんば聞いてもさ、受け取ると思う?」
ギターを片付けて、私たち二人はパソコン室へ向かう。練習と作業の二重生活。家のパソコンだと性能が落ちるから可能な限り作業は学校で済ませたい。
桜夏も、家に帰ってもやることがないから残れる限り学校に残って練習をしている。
「まあ、受け取らせる」
「いやだから、皆あんたみたいに人を魔法少女に勧誘できないのよ」
「人の心がないって言いたいの? え、全然殴り合うよ」
パソコン室に入っていつものようにPCを付ける。
和は分け隔てなく人と接することが出来るいわゆる陽キャだ。だから、陰の者の気持ちが分からない。
一ノ瀬さんもたぶん、どっちかと言うと私と同じ場所にいる。私の場合、一ノ瀬さんと違って孤独を選んだってだけの話だから。
「あんたには詫びさびが足りないのよ。こう、回り道してでも聞いて受け取ってもらった方が良いって言うか……マジ何が欲しいか分かんないや」
「そうやって何もしないよりはなんかやって、失敗したら二度とやんないって方が良いでしょ。一度の失敗で失うようなもんならどうせ近いうちに失ってるよ」
「それが怖いんだよってこと! たぶん、一ノ瀬さんもそっちの部類だし」
「いや知らんよ。私、陰キャじゃないし」
「はいプッツン来ましたぶっころなんですけど普通に!」
「そうやってまた――」
パソコン室の扉が開いた。
また喧嘩を聞かれてしまう、と扉を向くと、目を一瞬で奪われた。
クリーム色に近い長い金髪。涼しげな瞳と白くきめ細かい肌はまさに切れ長美人。
同じ制服を同じ二年が着ているのに全く別物に見える。
どちらかと言えば私が女子高生のコスプレをしているとさえ思ってしまうほどの着こなし。
誰だこの美少女……こんな子がいたのか。
美少女はそのまま適当な席に座ってパソコンの電源を付け、作業を始める。
時間の止まった私たちの視線に気づいたのか、彼女はゆっくりと目だけで私たちを見た。
「なに?」
うっわ、声も大人びてて超綺麗。どうしよう、私の全てのコンプレックスを的確に貫いて来る。
だけど、この氷みたいな一瞬で壁を張るような雰囲気は……ぶち怖い。
ごくり、と初めて喉が渇いてもないのに恐怖で生唾を飲んだ。
そんな私の横を、和は猫のようにするりと抜ける。
「あのさ、ちょっと聞いて良い?」
「馬鹿! 美人の作業を中断するな! 不敬罪で殺されるよ!」
ビビり散らかす私を無視して、馬鹿みたいに陽キャな和は美人さんに話しかけに行く。
本当にこいつは理解が難しいし、たぶん一生分かることはないと思う。
「なに?」
「友達に何がいいか聞かずにプレゼントを贈りたくってさ。私とこのデコ助が喧嘩した時に、仲裁じゃないけど、助けてくれて」
「その子はどういう子なの?」
「えー? 優しいけど、自分に優しくない子。桜夏は? どう思うよ、千景のこと」
「写真撮るの上手い、です。写真部らしくて」
美人は私たちの話を丁寧に聞いた後、長いおみ足を組み直した。タイツが擦れる音が良い。私は生粋の音フェチだと今理解した。
「理解力の欠如が著しいわね。あなたたちは人に説明できない程度しかその子のことを知らない。でもプレゼントを贈りたいと思う程度には交流がある。そこまで仲良くないか、その子が委縮して受け取らない心配があるってところかしら」
「あったり。すっごいね」
にっこり笑う和と、一ミリも笑わない氷の少女。太陽の光でも溶かせない程の、厚い壁。
「簡単な方法が一つあるわ。もっと仲良くなることね。いらない物もありがとうって受け取っちゃうかもしれない子に何かあげるのは、ともすれば迷惑な事にもなるのよ」
「仰る通りです。和、止めよう」
「は? 何、桜夏。千景に感謝の気持ち一ミリもないわけ?」
「無いわけないじゃん。でも……ええと、お名前聞いても?」
「氷見栞」
「ありがとうございます。わたくしは日真、桜に夏と書いてはるかと言います。読みにくい名前ですみません」
「読みにくいかは知らないけれど、そう……良い名前ね」
あれ……名前褒めてくれた。本当は良い人、なのかな。ほんっとこの名前のせいで先生は間違えるし桜をはるって読まねえだろって言われるし、それはその通りだと思うし。
「えと、一ノ瀬さんに感謝の気持ちはあるんだけど、氷見さんの言う通りで、迷惑かなって……」
「はっきりしない人ね」
「すみません……でも、私、友達とかいなかったから」
「……カメラ、好きなんでしょ? その子。だったら、カメラストラップとかいいんじゃない?」
「ああ、確かに。私もギターストラップ買うし、成程その手があった。ありがとう!」
「作業の邪魔だから、もう良い?」
「ねえ、栞も一緒に行かない? せっかくだし」
「作業の邪魔って言ってるわよね?」
空気を読めない陽キャを引っ張ってパソコン室から出て行った。
本当にこいつだけは……一体何なんだ。
これ以上氷見さんの邪魔をするのはいただけない。さっさと退散するが吉だ。
「ちょっと、腕痛いって」
「あ、ごめん。はあ、緊張した」
「なんでよ。せっかく教えてくれたんだから誘ったって――」
「だから! 人の迷惑になるっての考えなさいよ」
「迷惑? でもさ、千景にお礼したいから、迷惑かもしれなくても今からプレゼント買いに行くんだよね? 私、桜夏のそういうとこ、好きだけどな」
ほんっとなんっだこいつ……そんなかわいい顔で言ってくんなよ。
私は友達の肩を軽く叩いて、体重を預けた。スタイルいいから私がちょっとくっついても和の体幹は揺らがない。それどころかそのままエスコートする始末だ。
「私は、私のこういうとこが嫌いだよ。もっと、あんたみたいにサクッと生きてきたい」
「……どうだろうな、私は桜夏のそういうところも好きだよ」
「は? 何あんた適当に言ってない?」
「言ってない。あんね、自分の嫌いなとことか弱いとこ、普通他人に言えないよ」
「なんで。だって、和じゃん。他人じゃねえし」
「……そういうとこだつってんだ」
「いった! デコ叩くなよ!」
放課後、今日は練習も作業も辞めて、カメラストラップを買い求めにショッピングモールに行った。久しぶりに来たけどさすがに人が多い。ていうかヤバ、放課後高校生の巣窟じゃんここ。
まずい、キラキラした青春のきらめきに目と脳が焼かれる。くそ、デートすんなよ、お揃いのキーホルダー選んだりしてんじゃねえ。指輪とか百年はええし高校生の恋なんてすぐ冷めるんだよ畜生。
「桜夏、カメラ屋じゃないけどここよさそう。ほら、ストラップあるし。何がいいかな。千景って暗めだからなぁ。今後のことも考えて考えるか」
今後のこと、か。本当に和って、未来に対して不安とかなさそうだし、これからも付き合いがずっと続くって信じてる。
私は、単純に引っ越して田舎から出て、高校も環境がガラッと変わって、知ってる人なんていない。たったそれだけのことで人間関係なんて途絶してしまうし、新しく作るのは怖いし大変だ。
今で精一杯で、今後のことなんて考えられないよ。
「んじゃ、こっちがいいかな」
「青色? いいじゃん。じゃあこれで」
「おっけ。んじゃ、私買ってくるから、あー、そだ、フードコートで席取っててよ。お茶しよ。青春に食われて瀕死だから」
「桜夏ってほんと、ウケるくらい陰キャだよね」
「え、喧嘩する?」
和と別れて、会計を済ませる。まあまあ値段するなぁ、ストラップって。
「あ、これって、プレゼント用にラッピングとかって……」
「もちろん。無料で承っております。少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」
「ああもうどんどんいただいてください」
やば、笑われた。恥ずかしい……。
最近、和といるせいで昔のノリって言うか、昔の桜夏さんが前に出て来る。
あれ……私って、都会ノリで昔のノリが出来なくて……孤立してたんじゃなかったっけ。
わっかんないな、本当にさ。
「お待たせいたしました。プレゼント、喜んでくれるといいですね?」
「あはは、ありがとうございます」
しっかり梱包してくれたみたいで、可愛らしいくしゅくしゅした飾りがついている。
買うものも買えたし、店員さんとも頑張って会話で来た。二億点です。
さて、あいつはフードコートに……え、いないんだけど。
チャットで確認しようとしたら丁度、「先座ってて」ってメッセージが入っていた。
何か飲んどくか。
と言っても、私、コーヒー屋さんに面と向かって注文出来ないんだよなぁ。和に頼もうとしてたのに……しゃあない。水飲んでお茶を濁してよ。文字通り。
暫くほぼ虚無のまま好きなバンドの曲を聞き続けた。
音楽、いつからだろうな。一人でお気に入りを聞くようになったの。
前までは、この曲良かったよとか、あのテレビの曲めっちゃ聞いてたとか、流行りの曲必死で弾けるようになって友達の前で披露して。
あー、いつからだろ、誰にも音楽、見せなくなったの。
呆然と見上げたフードコートの照明が明るくて目を閉じた。
ふと、耳からイヤホンが外された。振り向くと、和が片方を自分の耳に付けていた。
「何聞いてんの?」
「好きなバンド。昔覚えたんだ。友達に聞かせるために」
「へえ。んじゃ、私にも聞かせてよ」
「えー? まあいいけどさ。てかどこ行ってたの? トイレ?」
「んなわけ。ほい」
小さな袋を渡された。見覚えのある明るい色。これ……よく行ってた楽器屋じゃん。
「え、何これ……」
「開けてみな」
丁寧にテープを剥がして中身を掌の上に落とした。
中身は、ギターを弾くのに使うピックだ。もちろんなくてもいいけど、私はよく使ってる。
このロゴ……あれだ、ナックルダイスのコラボピック。
「コラボしてたから。桜夏、ピック壊れてたって言ってたから。ああでも、それで大丈夫?」
ピックには形はもちろん、材質、厚さによって様々な種類がある。まあ概ね見た目で決めることが多いんだけど……うん。
「今日からこれが一番お気に入り。ありがと」
「……ほら、桜夏のそういうとこ、良いとこだと思うよ、私は」
「え、なに?」
「しーらね。ほら、どうせ陰キャをこじらせて注文できてないんでしょ? 一緒に行ってあげるから」
「は!? 別に違うしありがとうございます!」
「んー? 何さ」
視聴覚室。私のオアシスである所以は空調完備されているし、ここでは素で喋っても誰も聞く人間がいないからである。
そして何より好きなギターと向き合える、家以外で唯一落ち着ける場所だった。
自分で言ってとても悲しさを覚えたのでもう二度と言わない。
今の日課はギターの演奏をしつつ、和のドラムを見ていた。
一応、私たちはLM部の部員だ。
和の加入でとりあえず廃部までのリミットは伸ばすことが出来た。当の和も、ゲームの気晴らしになると乗り気だったし、興味を持ったドラムなら最初からあるから新たに楽器を買う必要もなかった。
初心者教本を渡すと一瞬でそれを読み込んで今は動画を見ながらビートを刻んでいる。
とんでもなく器用で、下手に教えるよりたぶん好きにやらせた方が楽しんでくれそうだったから質問があれば応えるくらいにしていた。
今も、私の話に耳を傾けるために演奏を止めて、ドラムスティックをくるくる器用に回している。
「一ノ瀬さん、いるじゃん」
「ああ、千景? 最近見ないなそういや」
「私らさ、よく考えたら馬鹿みたいに世話になってない?」
「……そりゃね。私たちの間を行ったり来たりしてそれとなく上達するヒントをくれてたんだから。あんな子いないよ」
「だから何かあげたいんだけどさ」
「ああ、悩んでる系? 本人に聞けばいいじゃん」
「皆あんたみたいにゾウリムシじゃないのよ」
「単細胞って言いたいわけ? 全然その喧嘩、買うよ」
「よしんば聞いてもさ、受け取ると思う?」
ギターを片付けて、私たち二人はパソコン室へ向かう。練習と作業の二重生活。家のパソコンだと性能が落ちるから可能な限り作業は学校で済ませたい。
桜夏も、家に帰ってもやることがないから残れる限り学校に残って練習をしている。
「まあ、受け取らせる」
「いやだから、皆あんたみたいに人を魔法少女に勧誘できないのよ」
「人の心がないって言いたいの? え、全然殴り合うよ」
パソコン室に入っていつものようにPCを付ける。
和は分け隔てなく人と接することが出来るいわゆる陽キャだ。だから、陰の者の気持ちが分からない。
一ノ瀬さんもたぶん、どっちかと言うと私と同じ場所にいる。私の場合、一ノ瀬さんと違って孤独を選んだってだけの話だから。
「あんたには詫びさびが足りないのよ。こう、回り道してでも聞いて受け取ってもらった方が良いって言うか……マジ何が欲しいか分かんないや」
「そうやって何もしないよりはなんかやって、失敗したら二度とやんないって方が良いでしょ。一度の失敗で失うようなもんならどうせ近いうちに失ってるよ」
「それが怖いんだよってこと! たぶん、一ノ瀬さんもそっちの部類だし」
「いや知らんよ。私、陰キャじゃないし」
「はいプッツン来ましたぶっころなんですけど普通に!」
「そうやってまた――」
パソコン室の扉が開いた。
また喧嘩を聞かれてしまう、と扉を向くと、目を一瞬で奪われた。
クリーム色に近い長い金髪。涼しげな瞳と白くきめ細かい肌はまさに切れ長美人。
同じ制服を同じ二年が着ているのに全く別物に見える。
どちらかと言えば私が女子高生のコスプレをしているとさえ思ってしまうほどの着こなし。
誰だこの美少女……こんな子がいたのか。
美少女はそのまま適当な席に座ってパソコンの電源を付け、作業を始める。
時間の止まった私たちの視線に気づいたのか、彼女はゆっくりと目だけで私たちを見た。
「なに?」
うっわ、声も大人びてて超綺麗。どうしよう、私の全てのコンプレックスを的確に貫いて来る。
だけど、この氷みたいな一瞬で壁を張るような雰囲気は……ぶち怖い。
ごくり、と初めて喉が渇いてもないのに恐怖で生唾を飲んだ。
そんな私の横を、和は猫のようにするりと抜ける。
「あのさ、ちょっと聞いて良い?」
「馬鹿! 美人の作業を中断するな! 不敬罪で殺されるよ!」
ビビり散らかす私を無視して、馬鹿みたいに陽キャな和は美人さんに話しかけに行く。
本当にこいつは理解が難しいし、たぶん一生分かることはないと思う。
「なに?」
「友達に何がいいか聞かずにプレゼントを贈りたくってさ。私とこのデコ助が喧嘩した時に、仲裁じゃないけど、助けてくれて」
「その子はどういう子なの?」
「えー? 優しいけど、自分に優しくない子。桜夏は? どう思うよ、千景のこと」
「写真撮るの上手い、です。写真部らしくて」
美人は私たちの話を丁寧に聞いた後、長いおみ足を組み直した。タイツが擦れる音が良い。私は生粋の音フェチだと今理解した。
「理解力の欠如が著しいわね。あなたたちは人に説明できない程度しかその子のことを知らない。でもプレゼントを贈りたいと思う程度には交流がある。そこまで仲良くないか、その子が委縮して受け取らない心配があるってところかしら」
「あったり。すっごいね」
にっこり笑う和と、一ミリも笑わない氷の少女。太陽の光でも溶かせない程の、厚い壁。
「簡単な方法が一つあるわ。もっと仲良くなることね。いらない物もありがとうって受け取っちゃうかもしれない子に何かあげるのは、ともすれば迷惑な事にもなるのよ」
「仰る通りです。和、止めよう」
「は? 何、桜夏。千景に感謝の気持ち一ミリもないわけ?」
「無いわけないじゃん。でも……ええと、お名前聞いても?」
「氷見栞」
「ありがとうございます。わたくしは日真、桜に夏と書いてはるかと言います。読みにくい名前ですみません」
「読みにくいかは知らないけれど、そう……良い名前ね」
あれ……名前褒めてくれた。本当は良い人、なのかな。ほんっとこの名前のせいで先生は間違えるし桜をはるって読まねえだろって言われるし、それはその通りだと思うし。
「えと、一ノ瀬さんに感謝の気持ちはあるんだけど、氷見さんの言う通りで、迷惑かなって……」
「はっきりしない人ね」
「すみません……でも、私、友達とかいなかったから」
「……カメラ、好きなんでしょ? その子。だったら、カメラストラップとかいいんじゃない?」
「ああ、確かに。私もギターストラップ買うし、成程その手があった。ありがとう!」
「作業の邪魔だから、もう良い?」
「ねえ、栞も一緒に行かない? せっかくだし」
「作業の邪魔って言ってるわよね?」
空気を読めない陽キャを引っ張ってパソコン室から出て行った。
本当にこいつだけは……一体何なんだ。
これ以上氷見さんの邪魔をするのはいただけない。さっさと退散するが吉だ。
「ちょっと、腕痛いって」
「あ、ごめん。はあ、緊張した」
「なんでよ。せっかく教えてくれたんだから誘ったって――」
「だから! 人の迷惑になるっての考えなさいよ」
「迷惑? でもさ、千景にお礼したいから、迷惑かもしれなくても今からプレゼント買いに行くんだよね? 私、桜夏のそういうとこ、好きだけどな」
ほんっとなんっだこいつ……そんなかわいい顔で言ってくんなよ。
私は友達の肩を軽く叩いて、体重を預けた。スタイルいいから私がちょっとくっついても和の体幹は揺らがない。それどころかそのままエスコートする始末だ。
「私は、私のこういうとこが嫌いだよ。もっと、あんたみたいにサクッと生きてきたい」
「……どうだろうな、私は桜夏のそういうところも好きだよ」
「は? 何あんた適当に言ってない?」
「言ってない。あんね、自分の嫌いなとことか弱いとこ、普通他人に言えないよ」
「なんで。だって、和じゃん。他人じゃねえし」
「……そういうとこだつってんだ」
「いった! デコ叩くなよ!」
放課後、今日は練習も作業も辞めて、カメラストラップを買い求めにショッピングモールに行った。久しぶりに来たけどさすがに人が多い。ていうかヤバ、放課後高校生の巣窟じゃんここ。
まずい、キラキラした青春のきらめきに目と脳が焼かれる。くそ、デートすんなよ、お揃いのキーホルダー選んだりしてんじゃねえ。指輪とか百年はええし高校生の恋なんてすぐ冷めるんだよ畜生。
「桜夏、カメラ屋じゃないけどここよさそう。ほら、ストラップあるし。何がいいかな。千景って暗めだからなぁ。今後のことも考えて考えるか」
今後のこと、か。本当に和って、未来に対して不安とかなさそうだし、これからも付き合いがずっと続くって信じてる。
私は、単純に引っ越して田舎から出て、高校も環境がガラッと変わって、知ってる人なんていない。たったそれだけのことで人間関係なんて途絶してしまうし、新しく作るのは怖いし大変だ。
今で精一杯で、今後のことなんて考えられないよ。
「んじゃ、こっちがいいかな」
「青色? いいじゃん。じゃあこれで」
「おっけ。んじゃ、私買ってくるから、あー、そだ、フードコートで席取っててよ。お茶しよ。青春に食われて瀕死だから」
「桜夏ってほんと、ウケるくらい陰キャだよね」
「え、喧嘩する?」
和と別れて、会計を済ませる。まあまあ値段するなぁ、ストラップって。
「あ、これって、プレゼント用にラッピングとかって……」
「もちろん。無料で承っております。少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」
「ああもうどんどんいただいてください」
やば、笑われた。恥ずかしい……。
最近、和といるせいで昔のノリって言うか、昔の桜夏さんが前に出て来る。
あれ……私って、都会ノリで昔のノリが出来なくて……孤立してたんじゃなかったっけ。
わっかんないな、本当にさ。
「お待たせいたしました。プレゼント、喜んでくれるといいですね?」
「あはは、ありがとうございます」
しっかり梱包してくれたみたいで、可愛らしいくしゅくしゅした飾りがついている。
買うものも買えたし、店員さんとも頑張って会話で来た。二億点です。
さて、あいつはフードコートに……え、いないんだけど。
チャットで確認しようとしたら丁度、「先座ってて」ってメッセージが入っていた。
何か飲んどくか。
と言っても、私、コーヒー屋さんに面と向かって注文出来ないんだよなぁ。和に頼もうとしてたのに……しゃあない。水飲んでお茶を濁してよ。文字通り。
暫くほぼ虚無のまま好きなバンドの曲を聞き続けた。
音楽、いつからだろうな。一人でお気に入りを聞くようになったの。
前までは、この曲良かったよとか、あのテレビの曲めっちゃ聞いてたとか、流行りの曲必死で弾けるようになって友達の前で披露して。
あー、いつからだろ、誰にも音楽、見せなくなったの。
呆然と見上げたフードコートの照明が明るくて目を閉じた。
ふと、耳からイヤホンが外された。振り向くと、和が片方を自分の耳に付けていた。
「何聞いてんの?」
「好きなバンド。昔覚えたんだ。友達に聞かせるために」
「へえ。んじゃ、私にも聞かせてよ」
「えー? まあいいけどさ。てかどこ行ってたの? トイレ?」
「んなわけ。ほい」
小さな袋を渡された。見覚えのある明るい色。これ……よく行ってた楽器屋じゃん。
「え、何これ……」
「開けてみな」
丁寧にテープを剥がして中身を掌の上に落とした。
中身は、ギターを弾くのに使うピックだ。もちろんなくてもいいけど、私はよく使ってる。
このロゴ……あれだ、ナックルダイスのコラボピック。
「コラボしてたから。桜夏、ピック壊れてたって言ってたから。ああでも、それで大丈夫?」
ピックには形はもちろん、材質、厚さによって様々な種類がある。まあ概ね見た目で決めることが多いんだけど……うん。
「今日からこれが一番お気に入り。ありがと」
「……ほら、桜夏のそういうとこ、良いとこだと思うよ、私は」
「え、なに?」
「しーらね。ほら、どうせ陰キャをこじらせて注文できてないんでしょ? 一緒に行ってあげるから」
「は!? 別に違うしありがとうございます!」
