激闘の大会から数週間経った頃だった。
和はプロチーム、TRIALから正式に選手としてのオファーが入った。
ただ、バンド活動や学業など、今しかできないことをしっかり両立してほしいと言う配慮もあり、ユースでの加入、とのことだった。
分かっては、いた。あれだけの戦いを見せたんだ、どこかからオファーがあってもおかしくないなって。
それにチーム「TRIAL」と言えば大手の企業がいくつかスポンサーに入る大きなチームだ。来年には運営会社が上場する噂だってある。
最初に聞いた時、そりゃそう、おめでとう、という心と、私はここまでか、っていう切なさみたいなのがあった。
だけど、あの一勝であんなに喜んだこいつを、私のガキみたいな我儘じゃ、止められない。
だから、私は笑って、和を送り出すんだって、決めた。
それに、別に編集をしないからといってもう終わりじゃない。
私たちにはLM部がある。
「おめでとう! 夢、叶ったじゃん」
視聴覚室でドラムチェアに座る和に、混じりっ気なしの賛辞を送った。
和はサムズアップしつつも足を動かし続けた。
心なしか音が跳ねてる。いつもはストレス発散みたいに叩いて余計な力が加わってたけど、今は違う。
いい音色を出すようになった。
「まだ、なったばっかだし、その自覚もぶっちゃけないよ。そうだ、言っといたけどいいよな。私の専属編集者にこれからも編集をしてもらいたいって」
「は?」
「そしたらさ、桜夏が良ければ一緒に入ってくださいって言われた」
「ちょっと待ってあんた! 入れてもらう立場でそんな条件出したの!? ちょ、最悪ご破談ってことも――」
「私、桜夏とプロになるのが夢だから。桜夏が一緒じゃないならきっぱり断るつもりだったよ」
「お前は馬鹿なん――」
「馬鹿だよ。そんな私とずっとやって来た桜夏は、大馬鹿者、でしょ?」
完全に悪口を言われてるのに、完全に舐め切られてるのに、こいつのこの真顔はずっとずるい。
畜生、なんでこんな、嬉しいんだ。
スマホで見せられた条件には、私が学生であることを考慮し、低予算のショート動画メインで編集。
大会やスクリムの大きな枠は横動画でやりつつ無理のない形で良いと寛容な内容だった。
ただ、本気で仕事にする時は教えてほしい。
その時にまた話そうというオーナーの意向があった。
視聴覚室が異様に広く感じる。ていうかここ、本当に広かったんだ。
「桜夏、ここまでありがとう。これから、よろしく頼む」
「……任せろ、相棒」
二人でプロチームに加入。
マジでここまで怒涛で、何が起きたのか全く分からなかった。
現実感がないって言うのはこのことで、睡眠不足やカフェイン中毒以外の震えが久しぶりだ。
実感のないまま、私は先生にチーム加入の旨を伝えた。バンドを続けながらチームに加入となると、私は恐らくもう、動画編集部をメインで見ることが出来ないから。
先生には悪いけど、私は和と、バンドメンバーの方が大切だし、それ以上抱えられるほど、私は大物じゃない。
動画編集部そのものは楽しかったけど。
「わかった。日真さんも夢を叶えたのは素晴らしいことだ。では、最後の仕事だ。君がプロ加入したということで恐らく動画編集部は正式に発足へと至るだろう。そこで、日真さん、君の後継者を三人作ってほしい」
「は? なんすか? まだ二か月位の後輩からディレクターを育てろってことっすか?」
「そう。こちらの都合で申し訳ないが、君はこのまま相談役に落ち着いてもらう。作業はしなくていいが、面倒は見てほしい。これは普段授業で居眠りを続ける君への救済と思ってほしい」
「いや、まあ、はい。一応今後のことはそこに書いておきました」
書類を渡す。
先生に言われる前に、先んじて動画編集部の今後をAIと相談しながらまとめておいた。
私だって、短いとは言え一緒にほぼブラック環境で編集を続けた後輩を見捨てはしないよ。
既に三人の精鋭を選出し、マニュアルの策定も済んだ。
一緒に地獄を見た三人だから顔つきが違う。
恐らく、私が卒業するころには、三年スパンで早い段階からディレクターを育てて回す練習ができる。
動画素材については各部活の動画を私が作った実績があるから写真部と連携して集めればいい。
そのうち、和みたいなゲーマーとか、もしかしたらバンド系の部活をやりたいって生徒が現れたら、積 極的にその夢を切り取る。
私が最初に目指した動画編集を体現する部活ができるだろう。
先生はレジュメを何度かパラパラめくった後、ゆっくり机の上に置いた。
「先生、驚いた。日真さんがこんな短時間で成長するとは思わなかった。責任は人を育てるとはこのことだったか」
「あの、ずっとほんのり失礼なのはなんなんすか?」
「まあちょいちょい直すところは私の方でやっておこう。よく頑張った。そして、ここからだぞ、夢を追うっていうのは」
「……先生、私はまだ、夢とか目標とか、一人で歩いて叶えることが出来ないんで、頑張ります」
「いいんだよ。一人でダメなら二人で、二人も無理なら皆で。夢の形を定義づけた学者は、今までこの世に一人もいないんだ。気楽にやってくれ」
「っす」
初めて真っ向から先生に意見を伝える、大人と話すって疲れるな。
妙に凝ってしまった肩を揉み解しながら、私は視聴覚室へ向かった。
そろそろ二曲目を考えないといけない。普通にヤバい。
使命感に裏付けされたわけではない。ただ、皆と今は演奏をしていたかった。
ガラガラと力なく開けた扉には、栞だけが、ベースを弾いていた。
その顔はどこか、とても悲し気で、印象的だった。
和はプロチーム、TRIALから正式に選手としてのオファーが入った。
ただ、バンド活動や学業など、今しかできないことをしっかり両立してほしいと言う配慮もあり、ユースでの加入、とのことだった。
分かっては、いた。あれだけの戦いを見せたんだ、どこかからオファーがあってもおかしくないなって。
それにチーム「TRIAL」と言えば大手の企業がいくつかスポンサーに入る大きなチームだ。来年には運営会社が上場する噂だってある。
最初に聞いた時、そりゃそう、おめでとう、という心と、私はここまでか、っていう切なさみたいなのがあった。
だけど、あの一勝であんなに喜んだこいつを、私のガキみたいな我儘じゃ、止められない。
だから、私は笑って、和を送り出すんだって、決めた。
それに、別に編集をしないからといってもう終わりじゃない。
私たちにはLM部がある。
「おめでとう! 夢、叶ったじゃん」
視聴覚室でドラムチェアに座る和に、混じりっ気なしの賛辞を送った。
和はサムズアップしつつも足を動かし続けた。
心なしか音が跳ねてる。いつもはストレス発散みたいに叩いて余計な力が加わってたけど、今は違う。
いい音色を出すようになった。
「まだ、なったばっかだし、その自覚もぶっちゃけないよ。そうだ、言っといたけどいいよな。私の専属編集者にこれからも編集をしてもらいたいって」
「は?」
「そしたらさ、桜夏が良ければ一緒に入ってくださいって言われた」
「ちょっと待ってあんた! 入れてもらう立場でそんな条件出したの!? ちょ、最悪ご破談ってことも――」
「私、桜夏とプロになるのが夢だから。桜夏が一緒じゃないならきっぱり断るつもりだったよ」
「お前は馬鹿なん――」
「馬鹿だよ。そんな私とずっとやって来た桜夏は、大馬鹿者、でしょ?」
完全に悪口を言われてるのに、完全に舐め切られてるのに、こいつのこの真顔はずっとずるい。
畜生、なんでこんな、嬉しいんだ。
スマホで見せられた条件には、私が学生であることを考慮し、低予算のショート動画メインで編集。
大会やスクリムの大きな枠は横動画でやりつつ無理のない形で良いと寛容な内容だった。
ただ、本気で仕事にする時は教えてほしい。
その時にまた話そうというオーナーの意向があった。
視聴覚室が異様に広く感じる。ていうかここ、本当に広かったんだ。
「桜夏、ここまでありがとう。これから、よろしく頼む」
「……任せろ、相棒」
二人でプロチームに加入。
マジでここまで怒涛で、何が起きたのか全く分からなかった。
現実感がないって言うのはこのことで、睡眠不足やカフェイン中毒以外の震えが久しぶりだ。
実感のないまま、私は先生にチーム加入の旨を伝えた。バンドを続けながらチームに加入となると、私は恐らくもう、動画編集部をメインで見ることが出来ないから。
先生には悪いけど、私は和と、バンドメンバーの方が大切だし、それ以上抱えられるほど、私は大物じゃない。
動画編集部そのものは楽しかったけど。
「わかった。日真さんも夢を叶えたのは素晴らしいことだ。では、最後の仕事だ。君がプロ加入したということで恐らく動画編集部は正式に発足へと至るだろう。そこで、日真さん、君の後継者を三人作ってほしい」
「は? なんすか? まだ二か月位の後輩からディレクターを育てろってことっすか?」
「そう。こちらの都合で申し訳ないが、君はこのまま相談役に落ち着いてもらう。作業はしなくていいが、面倒は見てほしい。これは普段授業で居眠りを続ける君への救済と思ってほしい」
「いや、まあ、はい。一応今後のことはそこに書いておきました」
書類を渡す。
先生に言われる前に、先んじて動画編集部の今後をAIと相談しながらまとめておいた。
私だって、短いとは言え一緒にほぼブラック環境で編集を続けた後輩を見捨てはしないよ。
既に三人の精鋭を選出し、マニュアルの策定も済んだ。
一緒に地獄を見た三人だから顔つきが違う。
恐らく、私が卒業するころには、三年スパンで早い段階からディレクターを育てて回す練習ができる。
動画素材については各部活の動画を私が作った実績があるから写真部と連携して集めればいい。
そのうち、和みたいなゲーマーとか、もしかしたらバンド系の部活をやりたいって生徒が現れたら、積 極的にその夢を切り取る。
私が最初に目指した動画編集を体現する部活ができるだろう。
先生はレジュメを何度かパラパラめくった後、ゆっくり机の上に置いた。
「先生、驚いた。日真さんがこんな短時間で成長するとは思わなかった。責任は人を育てるとはこのことだったか」
「あの、ずっとほんのり失礼なのはなんなんすか?」
「まあちょいちょい直すところは私の方でやっておこう。よく頑張った。そして、ここからだぞ、夢を追うっていうのは」
「……先生、私はまだ、夢とか目標とか、一人で歩いて叶えることが出来ないんで、頑張ります」
「いいんだよ。一人でダメなら二人で、二人も無理なら皆で。夢の形を定義づけた学者は、今までこの世に一人もいないんだ。気楽にやってくれ」
「っす」
初めて真っ向から先生に意見を伝える、大人と話すって疲れるな。
妙に凝ってしまった肩を揉み解しながら、私は視聴覚室へ向かった。
そろそろ二曲目を考えないといけない。普通にヤバい。
使命感に裏付けされたわけではない。ただ、皆と今は演奏をしていたかった。
ガラガラと力なく開けた扉には、栞だけが、ベースを弾いていた。
その顔はどこか、とても悲し気で、印象的だった。
