夢はきっと全部青春でできている

 あれ? そう言えば初めてか? 高校に入って、誰かと一緒にゲーセンなんて。
 なんでだろ、いつもと全く同じ通学路。
 いつも横目に過ぎ去ってみていたはずなのに、何か今日は、ゲームセンター以外がぼやけて見える……気がする。

「どうしたの? 日真さん」
「え? あ、や、何でもないよ。うるっさ、うっわ、ゲーセンうるさいなぁ」
「ゲームセンターだからね」

 扉を開けた途端の爆音に驚くと、一ノ瀬さんは苦笑した。
 調和のないざわつきは少し驚く。
 だけど、そんなに嫌じゃない。
 にしてもまあいいんだけどさ、世の女子高生はきっとプリクラとか撮ってるのに、私は格ゲー、か。
 一ノ瀬さなちょっと奥まったところに大量に鎮座していた筐体を見つけて近づいていく。

「日真さん、あったよ。これでしょ?」
「ああ、これこれ。1プレイ100円。そう考えたら家庭版買うよね」
「このゲームをするためにソフトと、パソコンとかゲーム機買うって考えたら、安い、かも?」
「言えてる。んじゃあ、早速プレイっと」
「大丈夫? チュートリアルモードとかあるよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。これでもあいつのゲーム動画を1週間毎日八時間見てるから」
「ええ……大丈夫? その、睡眠とか」
「え? ああ、うん。女子高生は死んだ」

 早速、和が使っていたキャラでプレイする。
 おじさんのキャラで、全キャラティア? でいうと結構強いところに位置してるらしい。
 適当にボタンを押して指を鳴らしながらマッチングを選択。
 店外と店内で対戦先を選べるようだが、面と向かってこられても嫌だから店外対戦をせんたくすると、すぐにマッチ。
 ラウンド開始。ええと、歩くのは――

「うえ、ちょ、待って、左、これ以上いけない! 左がずっとそこにいる!」
「落ち着いて、日真さん。ええと、画面端って言って、それ以上は進めないから右側、前!」
「ああ! ああ! ああ! なんっで、ずっと、動けない!」
「ええと、それ掴まれてるから、掴み返して、それか、ジャンプ? らしいけど私も詳しくなくて」
「くっそ、こいつ! ざけんな! 初狩りが!」
「落ち着いて、日真さん。ええと、たぶん最初はコンピューターと戦った方が良いよ」
「嫌じゃ! 血沸き肉が躍らんから!」
「いや、リアルでファイトしない方が……ああ……パーフェクト負け」
「うっぜえ。次!」

 クッソ、何じゃこのゲームは。
 攻撃が通らん。ていうかなんでこっちの攻撃当たらんのに向こうのはバシバシ当たるん?
 指は動く。押してるはずなのに、出てない。速度? タイミング? そもそもコマンドミス?
 よっぽどギターコードの方が難しいはずなのにさあ! なんで、思い通りに……動かんのんや!
 気づけば財布の小銭が消え去りかけていた。サクッと勝とうと思ったのに、画面に広がるのは無情にもパーフェクトと相手を称える言葉。
 そして積み重なっていくのはルーズと言う名の私を煽る言葉だった。

「ごめん一ノ瀬さん! 両替して来てくれん? あの、好きなジュース買ってええけ!」
「あ、うん。分かった」

 量産された負けの数だけ、私はやる気を殺がれてきた。なんじゃこの……全否定される感じ。
 たかがゲームじゃ、思っとった。いや、たぶんそうなんじゃろう。
 だけど、勝たにゃいかん思ったらなんか知らんけど自分にムカつく。なんで勝てんのんじゃって。
 だから分からされる。和が簡単そうにやってたこと、アレがどんなにすごい事なんか、今はよく分かる。
 だって、何度も見てきたことが一個も出来んけぇ。

「なんじゃ我! 弾ばっかり! どこの人類じゃ紹介せぇ! 漢なら拳でこいや! ああ違う、女キャラじゃくっそ、今の世の中に配慮できる女になりたい!」
「荒れてるね、大丈夫? 日真さん。はい、スポドリと、両替」
「ありがと……あれ、スポドリ?」
「うん。汗だくだよ? こんなに真剣にゲームしてる人、初めて見たかも」
「ああ、ごめんね? 私、すぐ熱くなっちゃって。そのせいで、和とも喧嘩したのに……変わんなきゃって思ってるんだけどさ」
「ちょっと、羨ましい、かも。その位本気でぶつかり合えるのって素敵だと思うよ?」
「え? そっかな。うっわ、またこいつ……嫌いこのキャラすごい飛んでくる! ああそだ、それで言うと、一ノ瀬さんは友達と喧嘩した時はどうしてる?」
「……喧嘩、しないかな」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、本とかは? 何かおすすめしあって意見が違う時とかないの?」
「どうかな。図書委員も、誰もやらないからやっただけだし、もちろん好きだけど……」
「優しいんだねぇ。私は断って嫌われるタイプかも」
「……私は、人が嫌なことを進んでやって、喜んでほしい、から」
「クッソ、こいつ、殺……ああ、ええと、何だっけ? 人が嫌なこと進んでやるのって素敵だと思うよ。でもさ、私、ああもう!」

 ゲームオーバー。ダメだ、この文字嫌い。英語のテストで出たら白紙で出してやる。
 一ノ瀬さんがくれたスポドリを飲み干して、彼女の方を向く。

「私、人が嫌なことは断ってでも、自分がやりたいこと殺したくないんだよね」
「え……」
「あ、ごめんごめん、私、言語化するの下手だからさ」
「ううん。なんか、日真さんって感じする」
「何それ面白い意見」
「私も、言葉下手だから。それより、はい。初心者用の動画調べて来た。最初はまずこの用語覚えて、操作方法を覚えた方が良いかなって」
「あ、何々ありがと。助かるラスカル」
「ふふ、何それ。日真さんって面白い人なんだね。いつも図書室では静かなのに」
「うーん? かもね。私も自分がこんな人と話さないとは思わなかったよ。元は人前で音楽とかやってたし」
「そうなの? 何をやってたの?」
「ギター。歌いもしちゃうよ」
「え、すごいね。私には無理だなぁ」

 おかしな話、だろうなって自分でも思うよ、こればかりは。
 中学までは、きっと自分は音楽で食っていくんだって思ってたはずだった。
 だけどそんなもの、高校に入って砕け散った。
 私は根暗な自分が嫌いだ。
 好きなものも嫌いなものも言葉に出来ない自分が嫌いだ。
 私は、自分の喋り方や乱暴さが嫌いだ。
 だから私は今、自分と向き合わなくちゃいけない段になって、音楽に逃げそうになって立ち止まった。
 わっかんないけど、夢とかなんとか、追いたくなくなっちゃった。

「あれじゃん、そう言えば、写真部。写真とか撮るんでしょ? じゃあ私よりよっぽどすごいじゃん」
「いや、私はほら、日真さんみたいに写真で食べていこうとかは思ってないから……」
「でも好きなんでしょ? なんか見せてよ」
「いいよ? ええと、はい」
「ナニコレ、星空? ぶち綺麗! え、すごいじゃん一ノ瀬さん!」
「あはは、ありがと。じゃあ、これ、とか」
「ケーキ!? んぐ、よだれ出た。美味しそう。天才だよ」
「えー? そうかな。あ、ごめんごめん、練習しないとね」
「そうだね。元気出た、ありがと。よっし、和に目にもの見せてやる」