「先生、なんすか? ああそうだ、ケーキは美味しかったっすよ」
あくる日、私は何度目かの職員室へ足を運んでいた。
私たちLM部は復帰した和に全員でパイ投げをぶち当てて、これで手打ちということで活動を再開していた。
もう視聴覚室の掃除の方が時間かかるっていう最悪の誤算だった。
思った以上に私は頭がよくなかったようだ。
一応ドッキリ系配信者の動画を参考にラップ引きまくったし撮影もしてないから大丈夫なはず。
はずだけど普通に職員室に呼び出しを食らって内心はドキドキワクワクしていた。
バレて怒られたとして処罰は何だろうなぁ、とか考えていた。
「そりゃよかった。その件と関係な……なくはないが、進路調査書に大学だけ書いて行き先を書いてないから聞こうと思ってな。周りに聞かれないよう配慮で、ここに来てもらった」
「ああ……あー、何かおすすめとかあります?」
「ファミレスじゃないんだ。自分で決めなさい、というのは突き離し過ぎだと思うから、推薦枠がある大学に、日真さん、体験入学してきなさい」
「え、なんでそんな……いつっすか」
「明日」
「明日!? そんな急なんすか!?」
「まあ一日でできることはたかが知れてるから、多少力になればって雰囲気でぶちこんどいた。平日の方が授業もしてるしな。大学はここから選びなさい。おすすめで言うと、ここ。映像制作に関係のある学科がある。最近な、日真さん、LM部と動画編集部でかなり忙しそうだったから進路を考える時間がないと思ってな。救済だ」
「私のメシアにしてはちょいちょい小汚いのどうにかならないんすか」
「日真さん。君は全ての授業で眠るという逆優等生を成し遂げた逸材だ。先生もな、注意してくれと色んな先生から言われている。その度に先生は、日真さんが作った動画や後輩たちの慕う声を聞かせ続けてギリギリ君の自由を守っている状況だ」
「なんすか脅しですか」
「いや、現実の話だ。学校(ここ)にいる内は、先生はいくらでも庇ってあげられるが、君らはすぐにここを巣立って行く。そうなった時、もう先生も学校も、親御さんも庇えない。青春っていう短いストーリーを邪魔して悪いが、日真さんが将来痛い目を見ないように、先生は小汚くなるんだ。比較的に。あとおじさんであることは認めるが清潔感はあると自負している。そういう単語に敏感になる年齢だから気をつけなさい」
正面から言われると、さすがの私もぐうの音も出ない。ていうか正論で殴られ過ぎてほぼKOだ。
まあ確かに、いよいよ現実見ないといけない、のか。
就職して、普通に生きるっていうのはたぶん自分は性に合ってない。
かと言って、今の自分が音楽で食っていけるとは全く思えないし、動画編集もなぁ。
大学にこれしに行きたい! って考えれる人間がすごすぎる。でも学力も微妙だし、四年間何もしなかったことを考えると前向きに考えられない。
「それと、日真さん。君の部には氷見さんがいたね。良かったら彼女も連れて行ってあげてほしい」
「え? 栞? なんでですか」
「私は特進を受け持つ、氷見さんの担任だ……ああ、言ってなかったか。もちろん進路は受け取った。ただ、本当に行きたいかどうかは疑問が残るもんでね、日真さん、友達として彼女の視野を広げてあげてくれ。これは先生じゃなく、同じ目線の友達にしかできないんだ」
「なんでそこまでするんすか? 進路は決まってるんなら別にいいと思うんすけど。栞はちゃんと夢があるし」
「私が教職についている理由はね、若者に合法的にお節介が出来るからだし、この学校の理念は夢や目標を定めるための指針に、我々大人がなることなんだ。私はね、ドラマで憧れて教師を目指した。でも現実はドライでね。先生の名前を覚えない生徒も多いんだよ日真さん。日真さん、私は教職人生で初めて格好つける。つけさせてほしいんだ日真さん」
「わかりましたから。いや、はい。じゃあお好きにどうぞ……いやでも、あいつ納得しますかね?」
「手はずは整えてある。私はこの後、オープンキャンパスを担当する先生と、先生の上に当たる教頭にボコボコにされるだろう。私の屍を、超えて行ってほしい」
先生の予言通り、職員室の奥から血相を変えてあんまり見たことない教頭先生と本当に見たことない教師が駆け込んできた。
「主任!? ちょっと、急に二枠ぶち込んだってなんで事後報告なんですか主任!」
「困るよちょっと先生、これ困るわぁ。学校には手続きがあってだね」
よし、栞のところに行こっと。
背中の方で何やらごちゃごちゃ言っていたけど、もうそこまで来ちゃうと私には関係ない。
ええと、今日はどっちだ? パソコン室か、視聴覚室か……。まあいいやどっちも行こう。
幸いにも最初に行った視聴覚室がビンゴだった。今日もベースの練習に精を出している。
「栞、指貸して」
「え、なんで?」
「いいから」
栞の細くてきれいな指の先に触れる。ギターやベースって、最初はどうしても指の皮が柔らかいから怪我したりするんだけど……うん、大分硬くなってきてる。
「めっちゃ練習してるじゃん」
「……あんな失態は、もうこりごりだからね。それに、自分で書いた歌詞だから、ちゃんと弾きたいの」
「感心だね。ああそうだ、これ、明日からオープンキャンパスに行こうと思って。私ここの映像制作コースに興味あるからついて来てよ」
「……なんで、私がそんなことを?」
「先生のお節介。もう話が通ってるみたいだから、明日逆に学校来ちゃったら気まずいよ」
「なんでまず私にその話が通ってないのよ」
「知らないよ。んじゃ、伝えたからね。ああそうだ、小説の調子はどう?」
「全然選考待ちだから、今は違うのを書いてるところよ」
「そっか。また今度見せてよ。栞の自信作」
「……そうね。オープンキャンパスは、現地集合で良い?」
「うん、そだね」
何か、栞の反応が悪い。まあ確かに私もさっき散々言ったから気持ちは分かるけど。
元気がないとも違う、なんだろうな、このちょっと推し量るには難しい感じは。
和の件があるからそういう違和感は出来るだけ潰しておきたいんだけど、この違和感のきっかけが分からないまま聞いても、私には聞き出せない。
「なんかあった?」
「いや、大丈夫よ。あなたこそ、寝坊したらボコボコにするわよ」
「大丈夫だって。私もう高校二年生だよ。最近はちゃんといい具合の時間に寝れてるし」
「ならいいわ。ねえ、ここ、一緒に弾いてくれない? イメージつけたくて」
「おっけー。いやあ、こういうの、青春してるなって感じがする」
「……気持ち、悪いわね」
「いいじゃんか!」
あくる日、私は何度目かの職員室へ足を運んでいた。
私たちLM部は復帰した和に全員でパイ投げをぶち当てて、これで手打ちということで活動を再開していた。
もう視聴覚室の掃除の方が時間かかるっていう最悪の誤算だった。
思った以上に私は頭がよくなかったようだ。
一応ドッキリ系配信者の動画を参考にラップ引きまくったし撮影もしてないから大丈夫なはず。
はずだけど普通に職員室に呼び出しを食らって内心はドキドキワクワクしていた。
バレて怒られたとして処罰は何だろうなぁ、とか考えていた。
「そりゃよかった。その件と関係な……なくはないが、進路調査書に大学だけ書いて行き先を書いてないから聞こうと思ってな。周りに聞かれないよう配慮で、ここに来てもらった」
「ああ……あー、何かおすすめとかあります?」
「ファミレスじゃないんだ。自分で決めなさい、というのは突き離し過ぎだと思うから、推薦枠がある大学に、日真さん、体験入学してきなさい」
「え、なんでそんな……いつっすか」
「明日」
「明日!? そんな急なんすか!?」
「まあ一日でできることはたかが知れてるから、多少力になればって雰囲気でぶちこんどいた。平日の方が授業もしてるしな。大学はここから選びなさい。おすすめで言うと、ここ。映像制作に関係のある学科がある。最近な、日真さん、LM部と動画編集部でかなり忙しそうだったから進路を考える時間がないと思ってな。救済だ」
「私のメシアにしてはちょいちょい小汚いのどうにかならないんすか」
「日真さん。君は全ての授業で眠るという逆優等生を成し遂げた逸材だ。先生もな、注意してくれと色んな先生から言われている。その度に先生は、日真さんが作った動画や後輩たちの慕う声を聞かせ続けてギリギリ君の自由を守っている状況だ」
「なんすか脅しですか」
「いや、現実の話だ。学校(ここ)にいる内は、先生はいくらでも庇ってあげられるが、君らはすぐにここを巣立って行く。そうなった時、もう先生も学校も、親御さんも庇えない。青春っていう短いストーリーを邪魔して悪いが、日真さんが将来痛い目を見ないように、先生は小汚くなるんだ。比較的に。あとおじさんであることは認めるが清潔感はあると自負している。そういう単語に敏感になる年齢だから気をつけなさい」
正面から言われると、さすがの私もぐうの音も出ない。ていうか正論で殴られ過ぎてほぼKOだ。
まあ確かに、いよいよ現実見ないといけない、のか。
就職して、普通に生きるっていうのはたぶん自分は性に合ってない。
かと言って、今の自分が音楽で食っていけるとは全く思えないし、動画編集もなぁ。
大学にこれしに行きたい! って考えれる人間がすごすぎる。でも学力も微妙だし、四年間何もしなかったことを考えると前向きに考えられない。
「それと、日真さん。君の部には氷見さんがいたね。良かったら彼女も連れて行ってあげてほしい」
「え? 栞? なんでですか」
「私は特進を受け持つ、氷見さんの担任だ……ああ、言ってなかったか。もちろん進路は受け取った。ただ、本当に行きたいかどうかは疑問が残るもんでね、日真さん、友達として彼女の視野を広げてあげてくれ。これは先生じゃなく、同じ目線の友達にしかできないんだ」
「なんでそこまでするんすか? 進路は決まってるんなら別にいいと思うんすけど。栞はちゃんと夢があるし」
「私が教職についている理由はね、若者に合法的にお節介が出来るからだし、この学校の理念は夢や目標を定めるための指針に、我々大人がなることなんだ。私はね、ドラマで憧れて教師を目指した。でも現実はドライでね。先生の名前を覚えない生徒も多いんだよ日真さん。日真さん、私は教職人生で初めて格好つける。つけさせてほしいんだ日真さん」
「わかりましたから。いや、はい。じゃあお好きにどうぞ……いやでも、あいつ納得しますかね?」
「手はずは整えてある。私はこの後、オープンキャンパスを担当する先生と、先生の上に当たる教頭にボコボコにされるだろう。私の屍を、超えて行ってほしい」
先生の予言通り、職員室の奥から血相を変えてあんまり見たことない教頭先生と本当に見たことない教師が駆け込んできた。
「主任!? ちょっと、急に二枠ぶち込んだってなんで事後報告なんですか主任!」
「困るよちょっと先生、これ困るわぁ。学校には手続きがあってだね」
よし、栞のところに行こっと。
背中の方で何やらごちゃごちゃ言っていたけど、もうそこまで来ちゃうと私には関係ない。
ええと、今日はどっちだ? パソコン室か、視聴覚室か……。まあいいやどっちも行こう。
幸いにも最初に行った視聴覚室がビンゴだった。今日もベースの練習に精を出している。
「栞、指貸して」
「え、なんで?」
「いいから」
栞の細くてきれいな指の先に触れる。ギターやベースって、最初はどうしても指の皮が柔らかいから怪我したりするんだけど……うん、大分硬くなってきてる。
「めっちゃ練習してるじゃん」
「……あんな失態は、もうこりごりだからね。それに、自分で書いた歌詞だから、ちゃんと弾きたいの」
「感心だね。ああそうだ、これ、明日からオープンキャンパスに行こうと思って。私ここの映像制作コースに興味あるからついて来てよ」
「……なんで、私がそんなことを?」
「先生のお節介。もう話が通ってるみたいだから、明日逆に学校来ちゃったら気まずいよ」
「なんでまず私にその話が通ってないのよ」
「知らないよ。んじゃ、伝えたからね。ああそうだ、小説の調子はどう?」
「全然選考待ちだから、今は違うのを書いてるところよ」
「そっか。また今度見せてよ。栞の自信作」
「……そうね。オープンキャンパスは、現地集合で良い?」
「うん、そだね」
何か、栞の反応が悪い。まあ確かに私もさっき散々言ったから気持ちは分かるけど。
元気がないとも違う、なんだろうな、このちょっと推し量るには難しい感じは。
和の件があるからそういう違和感は出来るだけ潰しておきたいんだけど、この違和感のきっかけが分からないまま聞いても、私には聞き出せない。
「なんかあった?」
「いや、大丈夫よ。あなたこそ、寝坊したらボコボコにするわよ」
「大丈夫だって。私もう高校二年生だよ。最近はちゃんといい具合の時間に寝れてるし」
「ならいいわ。ねえ、ここ、一緒に弾いてくれない? イメージつけたくて」
「おっけー。いやあ、こういうの、青春してるなって感じがする」
「……気持ち、悪いわね」
「いいじゃんか!」
