「和、ごめん、周りと合わせるの意識できる?」
「ごっめん。修正してるけど、桜夏ここの難易度おかしくないか? メロディ地獄なんだけど」
「え? うっそ。ちょっとこっちでも確認する。千景、もっと自信を持ってていいよ。弱く弾くとマジで自分の音も見失うし、お客さんにも聞こえるから。分からんとこある?」
「ごめん。でも、どうしてもミスりそうで」
「ミスは別にいい。ただ、絶対に弾きやめんこと。オッケー?」
「オッケー」
チラッと、横で教本と動画を見て勉強する栞に目をやる。指には絆創膏。
たぶんだけど、あれじゃタイピングにも支障が出るだろうに。相当頑張ってるのはわかる。
でも、今のままじゃ私を含めて全員、何故か私が作った曲を弾き切れないかもしれない。
ちょっと、焦りはあった。最悪、別にミスとか、難しいとかは別にいい。
問題は、私がどこまで言っていいかだ。LM部を存続させたいのは私の都合だ。
皆、私を庇う形でこれに参加してくれている。千景も部活を犠牲にしてくれている。
ちょっとこれ以上、言えない。言っちゃいけない気がする。
楽しくやって、その上で私がぶち頑張る以外の方法がなさそうなのがヤバい。
このまま例え全員が奇跡的に上手くなって、その上で負けても、私たちは笑えるのかな。
部がなくなっても、私たちは、こうやって、一緒の時間を過ごせるのかな。
「あ、ごめん、桜夏。ちょっと話しよ」
「おん? 何」
「ちっちゃいけど、急に大会に呼ばれてさ。二足のわらじとか、かっこいいこと言わないし、全力でやってくれてる皆に失礼なのも分かってる。でもごめん、どっちかに集中とか、出来ない」
頭を下げようとする馬鹿のでこを素早く掴んで、そのままデコピンを至近距離で食らわせた。
こいつ……この期に及んでまだそんなことを言ってんのかって、自分へのいら立ちも含めて一気に沸点まで怒りが達した。
「いった――」
「なにをかばちたれとんじゃ。二度とそんなことで謝んな! 行ってこい。こっちはこっちでやることあるけ」
「ごめ……ありがとう。明日も絶対練習は来るから」
「規模が小さいかどうか知らんが勝って来い」
「任せろ、相棒」
和を見送って、私も少し休憩がてら座ってスポドリを飲む。
あー、つめたつめたつめつひやああああああああああああ!
「何! ちょま、首に何入れた!? 感覚的には蛇に類似する何か!」
本当に何かわからないけど、千景が首に何かを入れやがった。めっちゃ冷たいと言うかもう怖い!
「大丈夫だよ。冷感ジェルのちょっと解けたやつだから」
「え、なんでそんなんをウチの首に!?」
「あのね、桜夏ちゃん。私たち、別に桜夏ちゃんに付き合ってこのバンドやってるわけじゃないから」
「え?」
「言いたいことあるなら、ちゃんと言わないと私たちの読解力にも限界あるってこと」
「止めておきなさい、千景。ベースを付き合いで買うわけないってことくらい、その単細胞でも理解しているはずだから」
「何だよ急に。私は、皆が楽しくできたらいいなって」
「和を見て、そんなことが言えるのなら、私はあなたを買いかぶってたみたいね」
「何が言いたいんよ」
「さあ。私、教室の時間だから先に上がるわね。色々と聞いて来る」
「ちょっと栞!」
「栞ちゃんが正しいっていうか……桜夏ちゃんが私たちにしてくれたように、やってほしい。お疲れ様」
「だから何じゃって! わっかんないよ、言ってくんないと。私、馬鹿で単細胞なんだから!」
無情にも、視聴覚室からどんどん人が出て行って、最後は孤独の独りぼっち。
意味が分からない。ちょっと待て……私が悪いかこれ?
皆が楽しく練習できるように見回って、自分で作った曲に振り回されながら練習して。
和も快く送り出して、なんでそんな私が、一人になってるんだ。
ああもう、いいや。私も帰ろう。帰って、編集しよう。とりあえずギターは大丈夫だから。
後はボーカルだけど、ひっさしぶりに歌ったけど、まだ歌えてる。風呂場で練習しよう。
考えるのも自分を見つめるのも嫌いだ。
考え抜いた答えが最悪だった時、私は絶対その答えを選ぶこと自体を後悔する。
自分を見つめ直した時、嫌な部分と向き合うのが嫌だ。だから、得意な事だけやっていきたい。
それだけでよかった。だって、ずっと一人で完結していたし、完結して良いと思ってた。
それが二人、三人、四人になって、考える事、配慮する事が増えた。
自分だけの世界じゃなくなって、責任ってやつがのしかかって来て、今にも消えてしまいそうです。
「ただいまー」
家に帰ってもすることって言ったら本当に編集くらいしかないけど、一旦ギターの手入れしようかな。急いで帰ったから軽く拭いただけだし。
「お、速いな」
「パパ……ああ今日土曜日か」
「そうさ。学生が夏休みを謳歌する中、俺は会社に与えられた休みを謳歌するのさ。この缶ビールでな」
「飲み過ぎるとママに怒られるよ」
「だからこれは俺と桜夏の秘密協定だ。男同士の約束だぞ」
「あの、一応あなたの娘です」
普段は夜遅くまで帰らないけど、土日は休みで大体酒を飲んでいる。
我が父ながら楽しみが酒しかないところを見ると多少なりとも同情する。
手入れしようとしたギターを、横からパパが取って、構える。
すごいな、やっぱ様になってる。そうだそうだ、忘れてた。
私は、この人から、ギターを学んだんだ。
「おー、さすがに良い音だな。でも長いこと使ってくれてるけど、新しいのは買わないのか?」
「あーうん。動画編集用のパソコン買いたくて」
「そうか。ギター楽しいか?」
「え? うん。今度ライブやるし。でも、ちょっとねぇ」
「どうした」
チューニングを耳だけで終えて、軽く指弾きをしながら聞かれる。ちょいちょい信じられないけど、私はこの人の娘なんだなと思う。弾き方、たぶん無意識の内に真似てるんだと思う。
「あーなんだろ。難しんじゃけど、皆が私に付き合ってくれてて。LM部って言う部活が存続を懸けたライブをすることになったんじゃけどさ」
「穏やかな話じゃないな。うん? ピックアップへたってないかこれ……ああ、続けてくれ」
「それで、どこまで強く言えばいいのか分からんくって。このままだとたぶん、中途半端なんじゃけど、みんなで楽しくってのが一番だからって思ったら、何か、めちゃめちゃ悪口言われた」
「どんなだ? 桜夏からの話しか聞いてないから分からない」
「ええと、言ってくれないと分からないとか、付き合ってやってるわけじゃないとか、付き合いでベース買わないってこと位単細胞でもわかる、とか」
「良い友達だな」
「今あなたの娘は単細胞と呼ばれたんですよ!?」
「桜夏」
メンテナンスをしながら、パパは私を見て笑った。
「俺はギターをお前に押し付けてしまったか?」
「え? 全然」
最初の入りも、自分で練習したいと思ったのも友達がいなかったのも全部私のせい。
自分のこの方言が恥ずかしくて、都会のノリにも合わなくて。だけどずっと、ギターを弾いていたのも全部、私が決めたこと。
「ていうか、好きじゃないとずっと弾いてないよ」
「そうだろう? 俺も昔、ゲリラライブやったよ。バンドメンバー全員停学喰らったけど。それでな、俺が謝ろうとしたらメンバーにボコボコにされたんだよ。お前についてったんじゃねえ。自分たちがやりたくてライブやったんだって。血は争えんな。お前は俺の娘だよ」
「……大丈夫、かな。もうウチ、今さら一人は、無理なんよ」
膝を抱いて、間に顔を落とした。
カッコ悪い。そんなこと言うのはキャラじゃない。
だけど、自分のことを掘れば掘る程、今の自分がどうしたいかだけが溢れて来る。皆に関係ない、私の都合が。
だから、話して嫌われるんが、すっごい怖い。
私にはもう、ギターだけじゃない、編集がある。
だけどそれ以上に、あいつらとの時間が、ぶち楽しいから。
「さあな。桜夏ずっと一人だったし、性格も面倒くさいし口も悪いし」
「ちょっと!」
「だけど桜夏は真っ直ぐじゃけえ。そんなお前の友達が、そんなことで離れるわけねえじゃろ。自慢の娘の友達はもう俺の友達じゃ」
信じるとか人間関係とか、全く分からない。ずっと面倒くさい物でしかなかったから。
でも、そうだよな。私が変わんないと、踏み出さないと、皆の本音を聞けやしない。
何をずっと、悩んでたんだろうな。皆にぶち当たらないと、いい物なんて出来ないよな、そりゃ。
はあ……あとで、グループチャットにメッセージ入れよ。
「あのさ、パパ。停学喰らったバンドメンバーとは今も仲いいの?」
「あ? 俺を殴ったボーカルなら、お前もよく知っとるじゃろ」
「え、誰」
「お前のママじゃ」
「……ええええええええええええええええええええええ!?」
何も聞いたことがなかった衝撃の事実に、驚きを隠すことが出来ませんでした。
本当に、血は争えないなって、思いました。
ギターの手入れを終えて、動画編集をある程度片付けた後、私は意を決してグループチャットに投げてみた。
――ごめん、厳しいこと言うかもしれないけど、負けるのは嫌だから、先に謝っとく
すぐに既読がマジで要領を得ない適当なスタンプを連打された。
思わず笑ってしまった。適当な連中だな、本当に。
――私、桜夏ちゃんが勇気をくれたから、嫌われるかもだけど、やりたいことを優先したんだよ
――普通に、あなたに付き合うだけでベース買わないし、和が大会で負けて悔しそうな時、あなたも一緒にいたでしょ
――全力で勝とうとしないと、いくらそれまでが楽しくても楽しくないし、悔しくもない。それくらい馬鹿でもわかると思ってた。
――脳の使い方を今度教えるわ。
こいつ、文字にすると本気でヤバいな。顔が見えない分普通にキツイ。
返信を悩んでいると、和から写真が送られてきた。
リザルト画面の直撮りだったけど、そこには、WINの文字が書かれていた。
――勝ったぞヘボ編集者。
――何心配してるか知らないけど、私たちはちょっと厳しくされたからって、桜夏を嫌いになったりしない。
――そうそう。桜夏ちゃんが全力出せるよう頑張るね!
――それには同意。今日先生に教わったことを明日話すから教えて。
「ああもう、なんじゃお前ら……馬鹿がよう」
本当に、ウチはこいつらが、大好きじゃ。
時間は全然ないけど、やれることをやろう。寝てる場合じゃない。練習メニューと……そうだ。
――ドラムは好きに叩いて良い。ただ、千景と栞は楽譜をちょっと変えて、シンプルにする。
――別に少なくするからって信頼してないとか下手だからとかって訳じゃない。
――出来るポイントを完璧にしてほしい。あとは、ウチがギターと歌で引っ張る。
難易度の変更として一番簡単なのは、単純にコードを減らすこと。
ただ、全体の厚みがどうしても薄くなるから、私と、あとは出来るか分からんけど、できることが大前提でドラムのリズムで全体を引っ張る。
賭けじゃが、やらないだけマシじゃ。
こうなれば、全員で、勝ちに行く。
「ごっめん。修正してるけど、桜夏ここの難易度おかしくないか? メロディ地獄なんだけど」
「え? うっそ。ちょっとこっちでも確認する。千景、もっと自信を持ってていいよ。弱く弾くとマジで自分の音も見失うし、お客さんにも聞こえるから。分からんとこある?」
「ごめん。でも、どうしてもミスりそうで」
「ミスは別にいい。ただ、絶対に弾きやめんこと。オッケー?」
「オッケー」
チラッと、横で教本と動画を見て勉強する栞に目をやる。指には絆創膏。
たぶんだけど、あれじゃタイピングにも支障が出るだろうに。相当頑張ってるのはわかる。
でも、今のままじゃ私を含めて全員、何故か私が作った曲を弾き切れないかもしれない。
ちょっと、焦りはあった。最悪、別にミスとか、難しいとかは別にいい。
問題は、私がどこまで言っていいかだ。LM部を存続させたいのは私の都合だ。
皆、私を庇う形でこれに参加してくれている。千景も部活を犠牲にしてくれている。
ちょっとこれ以上、言えない。言っちゃいけない気がする。
楽しくやって、その上で私がぶち頑張る以外の方法がなさそうなのがヤバい。
このまま例え全員が奇跡的に上手くなって、その上で負けても、私たちは笑えるのかな。
部がなくなっても、私たちは、こうやって、一緒の時間を過ごせるのかな。
「あ、ごめん、桜夏。ちょっと話しよ」
「おん? 何」
「ちっちゃいけど、急に大会に呼ばれてさ。二足のわらじとか、かっこいいこと言わないし、全力でやってくれてる皆に失礼なのも分かってる。でもごめん、どっちかに集中とか、出来ない」
頭を下げようとする馬鹿のでこを素早く掴んで、そのままデコピンを至近距離で食らわせた。
こいつ……この期に及んでまだそんなことを言ってんのかって、自分へのいら立ちも含めて一気に沸点まで怒りが達した。
「いった――」
「なにをかばちたれとんじゃ。二度とそんなことで謝んな! 行ってこい。こっちはこっちでやることあるけ」
「ごめ……ありがとう。明日も絶対練習は来るから」
「規模が小さいかどうか知らんが勝って来い」
「任せろ、相棒」
和を見送って、私も少し休憩がてら座ってスポドリを飲む。
あー、つめたつめたつめつひやああああああああああああ!
「何! ちょま、首に何入れた!? 感覚的には蛇に類似する何か!」
本当に何かわからないけど、千景が首に何かを入れやがった。めっちゃ冷たいと言うかもう怖い!
「大丈夫だよ。冷感ジェルのちょっと解けたやつだから」
「え、なんでそんなんをウチの首に!?」
「あのね、桜夏ちゃん。私たち、別に桜夏ちゃんに付き合ってこのバンドやってるわけじゃないから」
「え?」
「言いたいことあるなら、ちゃんと言わないと私たちの読解力にも限界あるってこと」
「止めておきなさい、千景。ベースを付き合いで買うわけないってことくらい、その単細胞でも理解しているはずだから」
「何だよ急に。私は、皆が楽しくできたらいいなって」
「和を見て、そんなことが言えるのなら、私はあなたを買いかぶってたみたいね」
「何が言いたいんよ」
「さあ。私、教室の時間だから先に上がるわね。色々と聞いて来る」
「ちょっと栞!」
「栞ちゃんが正しいっていうか……桜夏ちゃんが私たちにしてくれたように、やってほしい。お疲れ様」
「だから何じゃって! わっかんないよ、言ってくんないと。私、馬鹿で単細胞なんだから!」
無情にも、視聴覚室からどんどん人が出て行って、最後は孤独の独りぼっち。
意味が分からない。ちょっと待て……私が悪いかこれ?
皆が楽しく練習できるように見回って、自分で作った曲に振り回されながら練習して。
和も快く送り出して、なんでそんな私が、一人になってるんだ。
ああもう、いいや。私も帰ろう。帰って、編集しよう。とりあえずギターは大丈夫だから。
後はボーカルだけど、ひっさしぶりに歌ったけど、まだ歌えてる。風呂場で練習しよう。
考えるのも自分を見つめるのも嫌いだ。
考え抜いた答えが最悪だった時、私は絶対その答えを選ぶこと自体を後悔する。
自分を見つめ直した時、嫌な部分と向き合うのが嫌だ。だから、得意な事だけやっていきたい。
それだけでよかった。だって、ずっと一人で完結していたし、完結して良いと思ってた。
それが二人、三人、四人になって、考える事、配慮する事が増えた。
自分だけの世界じゃなくなって、責任ってやつがのしかかって来て、今にも消えてしまいそうです。
「ただいまー」
家に帰ってもすることって言ったら本当に編集くらいしかないけど、一旦ギターの手入れしようかな。急いで帰ったから軽く拭いただけだし。
「お、速いな」
「パパ……ああ今日土曜日か」
「そうさ。学生が夏休みを謳歌する中、俺は会社に与えられた休みを謳歌するのさ。この缶ビールでな」
「飲み過ぎるとママに怒られるよ」
「だからこれは俺と桜夏の秘密協定だ。男同士の約束だぞ」
「あの、一応あなたの娘です」
普段は夜遅くまで帰らないけど、土日は休みで大体酒を飲んでいる。
我が父ながら楽しみが酒しかないところを見ると多少なりとも同情する。
手入れしようとしたギターを、横からパパが取って、構える。
すごいな、やっぱ様になってる。そうだそうだ、忘れてた。
私は、この人から、ギターを学んだんだ。
「おー、さすがに良い音だな。でも長いこと使ってくれてるけど、新しいのは買わないのか?」
「あーうん。動画編集用のパソコン買いたくて」
「そうか。ギター楽しいか?」
「え? うん。今度ライブやるし。でも、ちょっとねぇ」
「どうした」
チューニングを耳だけで終えて、軽く指弾きをしながら聞かれる。ちょいちょい信じられないけど、私はこの人の娘なんだなと思う。弾き方、たぶん無意識の内に真似てるんだと思う。
「あーなんだろ。難しんじゃけど、皆が私に付き合ってくれてて。LM部って言う部活が存続を懸けたライブをすることになったんじゃけどさ」
「穏やかな話じゃないな。うん? ピックアップへたってないかこれ……ああ、続けてくれ」
「それで、どこまで強く言えばいいのか分からんくって。このままだとたぶん、中途半端なんじゃけど、みんなで楽しくってのが一番だからって思ったら、何か、めちゃめちゃ悪口言われた」
「どんなだ? 桜夏からの話しか聞いてないから分からない」
「ええと、言ってくれないと分からないとか、付き合ってやってるわけじゃないとか、付き合いでベース買わないってこと位単細胞でもわかる、とか」
「良い友達だな」
「今あなたの娘は単細胞と呼ばれたんですよ!?」
「桜夏」
メンテナンスをしながら、パパは私を見て笑った。
「俺はギターをお前に押し付けてしまったか?」
「え? 全然」
最初の入りも、自分で練習したいと思ったのも友達がいなかったのも全部私のせい。
自分のこの方言が恥ずかしくて、都会のノリにも合わなくて。だけどずっと、ギターを弾いていたのも全部、私が決めたこと。
「ていうか、好きじゃないとずっと弾いてないよ」
「そうだろう? 俺も昔、ゲリラライブやったよ。バンドメンバー全員停学喰らったけど。それでな、俺が謝ろうとしたらメンバーにボコボコにされたんだよ。お前についてったんじゃねえ。自分たちがやりたくてライブやったんだって。血は争えんな。お前は俺の娘だよ」
「……大丈夫、かな。もうウチ、今さら一人は、無理なんよ」
膝を抱いて、間に顔を落とした。
カッコ悪い。そんなこと言うのはキャラじゃない。
だけど、自分のことを掘れば掘る程、今の自分がどうしたいかだけが溢れて来る。皆に関係ない、私の都合が。
だから、話して嫌われるんが、すっごい怖い。
私にはもう、ギターだけじゃない、編集がある。
だけどそれ以上に、あいつらとの時間が、ぶち楽しいから。
「さあな。桜夏ずっと一人だったし、性格も面倒くさいし口も悪いし」
「ちょっと!」
「だけど桜夏は真っ直ぐじゃけえ。そんなお前の友達が、そんなことで離れるわけねえじゃろ。自慢の娘の友達はもう俺の友達じゃ」
信じるとか人間関係とか、全く分からない。ずっと面倒くさい物でしかなかったから。
でも、そうだよな。私が変わんないと、踏み出さないと、皆の本音を聞けやしない。
何をずっと、悩んでたんだろうな。皆にぶち当たらないと、いい物なんて出来ないよな、そりゃ。
はあ……あとで、グループチャットにメッセージ入れよ。
「あのさ、パパ。停学喰らったバンドメンバーとは今も仲いいの?」
「あ? 俺を殴ったボーカルなら、お前もよく知っとるじゃろ」
「え、誰」
「お前のママじゃ」
「……ええええええええええええええええええええええ!?」
何も聞いたことがなかった衝撃の事実に、驚きを隠すことが出来ませんでした。
本当に、血は争えないなって、思いました。
ギターの手入れを終えて、動画編集をある程度片付けた後、私は意を決してグループチャットに投げてみた。
――ごめん、厳しいこと言うかもしれないけど、負けるのは嫌だから、先に謝っとく
すぐに既読がマジで要領を得ない適当なスタンプを連打された。
思わず笑ってしまった。適当な連中だな、本当に。
――私、桜夏ちゃんが勇気をくれたから、嫌われるかもだけど、やりたいことを優先したんだよ
――普通に、あなたに付き合うだけでベース買わないし、和が大会で負けて悔しそうな時、あなたも一緒にいたでしょ
――全力で勝とうとしないと、いくらそれまでが楽しくても楽しくないし、悔しくもない。それくらい馬鹿でもわかると思ってた。
――脳の使い方を今度教えるわ。
こいつ、文字にすると本気でヤバいな。顔が見えない分普通にキツイ。
返信を悩んでいると、和から写真が送られてきた。
リザルト画面の直撮りだったけど、そこには、WINの文字が書かれていた。
――勝ったぞヘボ編集者。
――何心配してるか知らないけど、私たちはちょっと厳しくされたからって、桜夏を嫌いになったりしない。
――そうそう。桜夏ちゃんが全力出せるよう頑張るね!
――それには同意。今日先生に教わったことを明日話すから教えて。
「ああもう、なんじゃお前ら……馬鹿がよう」
本当に、ウチはこいつらが、大好きじゃ。
時間は全然ないけど、やれることをやろう。寝てる場合じゃない。練習メニューと……そうだ。
――ドラムは好きに叩いて良い。ただ、千景と栞は楽譜をちょっと変えて、シンプルにする。
――別に少なくするからって信頼してないとか下手だからとかって訳じゃない。
――出来るポイントを完璧にしてほしい。あとは、ウチがギターと歌で引っ張る。
難易度の変更として一番簡単なのは、単純にコードを減らすこと。
ただ、全体の厚みがどうしても薄くなるから、私と、あとは出来るか分からんけど、できることが大前提でドラムのリズムで全体を引っ張る。
賭けじゃが、やらないだけマシじゃ。
こうなれば、全員で、勝ちに行く。
