夢はきっと全部青春でできている

「三人目か。意外だな。先生、日真さんはてっきり友達が少ない方だと思ってた」
「多感な時期の生徒に面と向かってクソ陰キャって言うのやめてもらえますか?」

 三人目の入部は無事に受理され、LM部廃部へのカウントダウンは再び振り出しに戻った。
 延命のために職員室へ通うのが放課後で一番無駄な時間だと思う。と言っても、新歓ライブや部活紹介の時期はとっくに消え去った。もう、夏手前。新学期から三か月も経ってるんだから。

「まあとは言え頑張ってるのは何よりだが、実績が必要だから用意を忘れないように」
「はい。しつれいしゃーす」

 扉をぴしゃりと閉めて、窓から差し込む光のせいで蒸し暑い廊下を歩いて視聴覚室へ。
 実績か……ああ、この間のライブの映像とか、お店に残ったりしてないかな。それを編集すれば立派な実績になるだろうし。

「ういーっす。うっわ涼し! 視聴覚室万歳! エアコンを奉る神社を建立したい!」
「うぃーっす」
「桜夏ちゃん。お疲れ様。先生のところはどうだった?」

 最近加入してくれた千景がいると、新鮮だ。
 我が部の新たなメンバー千景。そのポジションはキーボードだ。元々教室に一人は絶対紛れ込まされているピアノ要員なのでなじみ深いからと本人が選んだ。
 別に私はギターでもよかったし、ドラムがやりたいなら二人を戦わせるつもりだったけど平和に終わった。
 ちなみに使っているキーボードはローランド社製で、私が家で作曲に使ってたやつを引っ張り出して持ってきた。
 クソ猛暑日にギターとキーボード一緒に持ってきて今日は死ぬかと思ったし明日はきっと筋肉痛で死んでいる。
 まあでもその甲斐はあった。
 写真部の雑用や活動がない日は、千景はここへきて一緒に練習している。
 最近はドラムやギターにも興味を持ったらしく、私や和と一緒に教本を見て勉強したり、実際に触ったりしていた。
 ガチガチの部活からしたら、私たちはお遊びに見えるだろうけど、来たくて入った人間と、成り行きやインスピレーションで入った人間の熱量が同じわけじゃない。
 だから今はこれでいいと思う。私たちはきっと、まだ青春の道中だから。

「ああそうだ、和。この間のライブの、何か使えそうな映像とか残ってないの? 実績にしようと思って」
「あ、だったら、私、動画撮ってるよ、桜夏ちゃん」

 鞄をごそごそ探って、千景はUSBを取り出してきた。

「え、写真と一緒に撮ったの?」
「アレは動画の一部だよ。もちろん、一枚一枚丁寧に取ることもあるけど、せっかく招待されたから全部撮りたいなと思って」
「ありがたや。んじゃ、ちょっとパソコン室行ってくるわ」
「私たちは練習してるね……あ、そうだ、桜夏ちゃん。私、ハノンとかの指練習してたからクラシック系の音楽しか演奏はしてないんだけど、この部は何のジャンルになるのかな」
「あー、確かに気になる。桜夏、私たちって何のバンド? なんだ」
「ほう。んじゃ、二人はどんな曲が好き?」
「私は……よくフォトカフェとかに行ったり、美術館に行く時に落ち着いた音楽を聴くかな」
「私はゲームのBGMとかキャラのイメージ曲を聞くかな。激しめのやつ」
「おん……ばらっばらだなぁ。私は意外と何でも聴く」
「ああでも、皆で音楽活動というか……桜夏ちゃんの曲が好きだから、私はそっちに合わせたい」
「良いんじゃない? 私もゲームで上がる曲が好きだし。逆に桜夏、この間はアレ、何のジャンルになるんだ?」
「あれはロック。私、始めて行ったライブがロックフェスで、パパもロックバンドを組んでたから」
「じゃあそれで。ああでもLM部のライトミュージックって、何?」
「クラシック以外のポピュラー曲全般だよ。だから千景は大変だよ? マジ全部覚え直し」
「自分がやりたいから大丈夫、頑張る」
「ほほう。んじゃあ、一回合わせてみよっか。和」
「あいよ」

 ドラムスティックの先端が天井を向く。
 カチカチカチカチ――
 はい、最初から合いません、ミスです。

「止めないよ! 間違ってもいいから弾いて、ここには私たちしかいないし、この未完成さが、私たちだから」

 なんで、私たちはドラムのリズムに合わせて開始してるはずなのに、こんなズレるんだろうね。
 ドラムのリズムは独りよがりで、私の曲が恐らく聞こえちゃいないし、キーボードも合わせる気がないってくらいたどたどしい。

 しゃあない。今度は、私を聞け。

 前に出て、逆にドラムもキーボードも呑み込む。
 私による、私のための、私の演奏を始める。
 互いに反発も同調もしないまま、まさしく独りよがりなバンドの演奏は、緩やかに終わった。

「ふう……おい、気持ちよくなりすぎだろ、桜夏。顔、ヤバいよ」
「たまには私についてこーいよ」
「桜夏ちゃん、本当に楽しそうだよね。この間の優しい器用な演奏と違って、こう、引っ張られた」
「イメージでしかないけど、バンドっぽいって思ったな、私も」
「それじゃあ、もっと良くなる一口コーナー。ドラムはもうちょいコンパクトに。キーボード、オクターブ一個上です」
「コンパクト? こんな、感じか」
「お前ヤバいな。天才かよ」
「え? ごめんなさい、この曲そんなに高いの? 楽譜、楽譜」

  練習と反省、そして復習。二人とも素直だな。
 にしてもロックか。血は争えないというか、パパが貸してくれたこのギターも、元々はロックを弾いてたんだっけ。あんま教えてくんなかったけど。
 Fender社のストラト。お前も長い事頑張ってんだな。パパがどんな青春をお前と過ごしたか知らないけど、ごめんな、未完成のバンドと未完成の曲を弾かせて。
 だけど……ウチはこの音楽が好き。誰もいない完璧な青春より、誰かといる未完成の青春の方が好きだから。

「ふう。んじゃ、もう一回合わせようか」
「それもいいけど、桜夏、ギターソロとかないの? この曲」
「え? ないよ。これ作った一年の頃の私は当たり前にバンドを組んでみんなで最初にやるんだって思いで作った曲だし。まさか私一人で一生演奏するとは思わなかったけどね、ははっ!」
「ごめんじゃん……じゃあ、ちょっと全部一人で弾いてみてよ」
「そうだね、桜夏ちゃんの演奏聞きたいな」
「えー? 特別だぞ、オーディエンス」

 伸び伸びと、弾かせてもらいましょうか、陰キャの私が考えた、陰キャが前へ一歩進むための曲。
 歌詞はまだないけど、この曲には全てを込めたから。

「行くよ――」