恋人のやり方がわからない

 ……とかなんとか、今度こそ、心に決めたのですが。
「成瀬、これ先生から」
「……ありがとう」
 五十嵐くんの方が、私の方へとやって来ました。と言っても、ただの事務的な用事なのですが。
「……」
「……」
「……」
「……あのさ」
「!」
 さて五十嵐くんが、何かを言い出しました。
「何……?」
「今日はでけえ蛾がいた」
 ……。
 なんですかその報告。
「もしかして、俺がこの前虫の話したから?」
 そう言うと五十嵐くんは、こくりと頷きました。
「もしかして本当に、後ろの席に蛾がいたの?」
「ああ。なんか死んでた」
「死んでた……」
 大きい虫、本当にいたとは。
「田中がちりとりで外に投げてた」
「そうなんだ……」
 田中さん、強い。
 私がもう一度、「そっかぁ……」などと曖昧に言うと、五十嵐くんは「まだ鱗粉残ってるぜ」などと言ってきました。私が「鱗粉はいらないかな」と言うと、五十嵐くんは「そうか」とだけ言いました。
「鱗粉、何色だった?」
「よくわかんねえ」
 なんだろう、この会話。
 意味不明だけど、なぜか、続いている……。
「そっか……」
「ああ……」
「……」
「……」
 と思ったら、止まった……。
 そんな時に、チャイムが鳴りました。
 五十嵐くんは「じゃあな」と言うと、自分の席に戻っていきました。私は小さく手を振り、そのまま、なんとなく五十嵐くんの背中を見ていました。そうして五十嵐くんが席につき、目が合いそうになったところで、慌てて前を向きました。それでもなかなか先生が来ないので、ふと後ろを見ると、五十嵐くんは床の一点をぼんやりと眺めていました。
 鱗粉を、見ている……?
 ……。
 いや、見るのはやめよう。やめるって、決めたじゃないか。